立憲民主党の三上えり参院議員は10月9日の参議院本会議で、高市首相の所信表明演説に対する代表質問に立った。党が公表した代表質問の原稿によると、三上氏は沖縄県で起きた米兵による事件を受けて、日米地位協定の抜本的な改定に向けた米国政府との交渉入りを首相に求めた。11月にニューヨークで開かれる核兵器禁止条約の初の再検討会議に、日本政府としてオブザーバー参加する考えがあるかもただした。首相の答弁は、本稿の執筆時点で国会会議録検索システムに会議録が掲載されておらず、確認できていない。
三上氏は会派「立憲民主・無所属」を代表し、簗農林水産相の発言をめぐる任命責任、物価高対策、働く人の健康、選択的夫婦別姓、核軍縮、水俣病と有機フッ素化合物(PFAS)、地域公共交通、奨学金など10の項目で質問した。冒頭で「私は広島の議員として、平和を『守り』、働く人を『守り』、そして、命と暮らしを『守る』、その立場から伺います」と述べた。本稿では、安全保障と平和外交に関わる地位協定と核兵器禁止条約の二つを中心に、質問の中身と政府のこれまでの説明を整理する。
沖縄の事件、「同じ言葉を繰り返すだけ」と再発防止策を問う
質問の背景には、沖縄県で起きた強盗殺人事件がある。首相は10月5日の所信表明演説の冒頭で、この事件に関して前日に米海兵隊員が逮捕されたと説明した。そのうえで「このような凶悪事件の発生は極めて遺憾であり、日本政府として米側に強く抗議するとともに、捜査への全面的な協力、米軍関係者の綱紀粛正と事件の再発防止の徹底を強く求めたところです」と述べていた。
三上氏はこの演説を引き、「これまで重大な事件が起きるたびに、政府は『綱紀粛正』と『再発防止』を米側に求めてきました。同じ言葉を繰り返すだけで、沖縄県民の命と安全を本当に守ることができるのでしょうか」と問いかけた。そのうえで、これまで講じてきた再発防止策の実効性をどう評価しているのか、首相の見解を求めた。
三上氏は、在日米軍基地の7割を抱える沖縄では米兵による事件が繰り返されてきたと指摘し、「今回、またしても県民の命が奪われる凶悪な事件が発生しました」と述べた。質問の冒頭部分では、亡くなった人への哀悼の意と遺族へのお悔やみも表した。
首相は所信表明演説の安全保障の部分で、「在日米軍の円滑な駐留のためには、地元を含む国民の皆様の御理解と御協力を得ることが不可欠です」と述べ、沖縄県を含む基地負担の軽減に取り組む考えを示していた。普天間飛行場の全面返還を目指して辺野古への移設工事を進めるとも明言している。三上氏の質問は、この「理解と協力」を得るための前提として、事件への対応が十分かを問う形になった。
地位協定「一度も改定されていない」、抜本改定の交渉入りを要求
日米地位協定は、日米安全保障条約第6条に基づき、在日米軍が使う施設・区域や、日本国内での米軍の地位を定めた協定だ。外務省は、協定本体とあわせて日米合同委員会の合意や補足協定などの関連文書を公表しており、そのページには「刑事裁判手続に関する運用の改善」の概要も掲載されている。
三上氏は「立憲民主党は、米軍基地の負担軽減とともに、日米地位協定の改定を政府に求めてきました」と述べたうえで、「1960年の発効以来、一度も改定されていない日米地位協定について、抜本的な改定にむけて米国政府との具体的な交渉に踏み出すべきではありませんか」と首相の見解を求めた。
地位協定の見直しは、他の野党も取り上げている。国民民主党の玉木雄一郎代表は10月6日の定例会見で、今回の事件は公務外のため日本の当局が逮捕したと述べたうえで、「公務であった場合は逮捕もできない」と指摘し、地位協定の見直しについて「不断の努力をやっていくべきだというのが私たち国民民主党の立場」と語っていた(国民民主・玉木代表、日米地位協定の見直しを要求 「公務であった場合は逮捕もできない」 公務中の罪は米側が第一次裁判権、起訴前の身柄引き渡しは要請6件のうち5件が実現)。
基地のPFAS、「科学的根拠が無ければ調査を認めない」と批判
地位協定に関わる論点として、三上氏は環境問題の項目でも米軍基地への立入調査を取り上げた。三上氏の地元・広島では、米軍川上弾薬庫の下流にあたる瀬野川水系や周辺の井戸から高濃度のPFASが検出されたという。
三上氏は、沖縄の嘉手納基地と普天間飛行場について、在日米軍が2023年の段階で汚染源である可能性が高いと日本政府に伝えていたとの報道があると指摘し、政府がいつどのような情報を把握し、なぜ住民や自治体に公表してこなかったのかを明らかにするよう求めた。
立入調査をめぐっては、日米は2015年(平成27年)9月に地位協定の環境補足協定を結んでいる。外務省のページには、この補足協定の和文と英文が掲載されている。三上氏は、横田基地では環境補足協定によって立ち入りが許可された一方、沖縄については「米軍基地が汚染源であることを示す科学的根拠が明確なサンプル調査のデータ」が示されていないなどとして不許可になっていると説明した。
そのうえで、政府の立場を「汚染源を特定するためには調査が必要です。しかし、その汚染源である科学的根拠が明確でなければ調査を認めない」と要約し、「これでは、いつまでたっても原因究明が進みません」と批判した。立入調査を行う考えがあるか、どんな対策をとるのかを首相に問うた。
核禁条約の初の再検討会議、オブザーバー参加の判断と準備を問う
三上氏は「平和外交と核兵器のない世界」の項目で、非核三原則と核軍縮を取り上げた。首相が年末までに安全保障に関する3つの文書を見直すと表明していることについて、「多くの国民は大変心配しています」と述べ、見直しでも非核三原則を堅持し、「持ち込ませず」を見直さないと明言するよう求めた。核兵器不拡散条約(NPT)を軸とした核軍縮について、核保有国への働きかけや核兵器の削減、透明性の向上で日本が行う具体的な外交を示すようにも求めた。
核兵器禁止条約について三上氏は、「NPTを補完し、核兵器の非人道性を踏まえて、その廃絶を目指す条約です」と位置づけた。「日本が核保有国と非核保有国の橋渡しを担うのであれば、双方の議論の場に参加し、声を聴くことが必要です」と述べ、立憲民主党が政府のオブザーバー参加を繰り返し求め、締約国会議にも議員を派遣してきたと説明した。
そのうえで、「11月からニューヨークで開かれる核兵器禁止条約の初めての再検討会議に、日本政府としてオブザーバー参加する考えはありますか」と質問し、首相の判断と準備の状況を答えるよう求めた。
被爆者援護についても、平均年齢が86歳を超えた被爆者の生活支援、「黒い雨」に遭った人の救済、海外に暮らす被爆者への支援、長崎の被爆体験者の「被爆者として認めて欲しい」という訴えへの対応を求めた。
首相は8月、「何が真に効果的か検討する必要」
首相はこれまで、オブザーバー参加について態度を明らかにしていない。8月9日、長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に参列した後の記者会見で、再検討会議へのオブザーバー参加を含めた姿勢を問われた際、核兵器禁止条約を「核兵器のない世界への出口ともなり得る重要な条約であるという認識です」と述べた。
一方で、「11月の運用検討会議も含め、同条約への対応については、国際社会の動向ですとか、厳しさを増す我が国周辺の地域情勢を見極めながら、我が国の安全保障の確保と核軍縮の実質的な進展のために何が真に効果的かという観点から検討する必要があると考えております」と答えた。同じ会見で、安保3文書の改定については「その書きぶりそのものについて予断することは差し控えます」としつつ、非核三原則を政策上の方針として堅持していることに変わりはないと述べていた。核軍縮は、核兵器国と非核兵器国の双方が参加するNPT体制の下で「現実的かつ実践的な取組」を進めるとしていた。
地方議会からも参加を求める声が出ている。三上氏の地元の広島県議会は9月定例会で、「『核兵器のない世界』の実現に向けた一層の努力を求める意見書」を議決し、10月6日付で国に提出した。意見書は、第11回NPT運用検討会議が最終文書を採択できないまま閉幕したと指摘したうえで、「本年11月には核兵器禁止条約再検討会議が開催予定である」と記し、「核兵器禁止条約再検討会議へのオブザーバー参加を含め」て努力を尽くすよう国に求めている。
核兵器禁止条約をめぐっては、公明党の谷合正明氏も、党として11月にニューヨークで行われる第1回再検討会議に議員を派遣する考えを集会で報告している(公明・谷合氏「核禁条約、世界が批准を」 被団協の署名提出に合わせた集会で 11月の再検討会議に議員派遣へ)。政府が8月の「検討」からどこまで踏み込んだ説明をしたのかは、参院本会議の会議録が公開され次第、確認できる。
