犯罪の被害に遭った人や家族への支援について、国民の理解を深めるための「犯罪被害者月間」が11月1日に始まった。これまで11月25日から12月1日までの1週間だった「犯罪被害者週間」を、政府が今年3月17日に閣議決定した第5次犯罪被害者等基本計画で1か月に広げたもので、月間となるのは今年が初めて。期間は12月1日まで。
高市早苗首相は同日、月間に合わせたビデオメッセージを出し、「犯罪はある日突然、大切な命や日常を奪い、ご家族やご遺族も含め、その後も様々な苦しみをもたらします」と述べた。そのうえで支援の標語「わたしにも できる支援が ここにある」を挙げ、身近なところから被害者に手を差し伸べるよう国民に呼びかけた。
1週間から1か月へ、基本法の成立日まで
警察庁の説明によると、犯罪被害者週間は平成17年12月に閣議決定された最初の犯罪被害者等基本計画で設けられた。犯罪被害者等基本法が成立した12月1日を最終日とし、その前の1週間、11月25日から12月1日までを充ててきた。基本法は平成16年(2004年)12月1日に成立し、「すべて犯罪被害者等は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」と定めた。
第5次計画は、広報啓発のための集中的な強化期間として設けた週間を「月間化して、十分な訴求期間を設けた上」で、政府全体で広報啓発を行うと定めた。地方公共団体にも、地域の実情に応じて各種支援の取り組みの定着を狙った広報啓発をするよう要請するとしている。最終日を基本法の成立日とする点は変わらず、始まりを11月1日へ前倒しして、期間を11月1日から12月1日までの31日間とした。
警察庁は月間化の目的について、集中的な広報啓発で犯罪被害者等支援に関する国民の理解を深めるとともに、「社会全体で犯罪被害者等を支える気運を一層醸成すること」と説明している。計画の概要資料は、支援に対する国民の理解と関心の広がりが「今なお途上」だとして、広報啓発の強化を課題に挙げ、その具体策として週間の月間化とシンボルマーク「ギュっとちゃん」の活用を示した。
計画は、月間の取り組みを数字で追うことも決めた。施策の動き具合を確かめる「参考指標」の一つに、犯罪被害者月間に関連する広報啓発活動の実施状況(イベントの開催数を含む)を挙げている。被害者による講演会の開催回数と参加人数、支援の標語の募集数、シンボルマークを知ってもらうための取り組みの状況も、参考指標として並べた。
羽田空港と有楽町で啓発の催し
警察庁は月間中に二つの催しを開く。11月2日午前10時から1時間、東京・羽田空港第1旅客ターミナルビル2階のマーケットプレイスで「犯罪被害者月間オープニングイベント2026」を開く。入場は無料で、首相のビデオメッセージを上映するほか、支援の動画やポスターに出演している俳優の松永有紗さんとのトークセッションを行う。
11月9日には、東京都千代田区の有楽町朝日ホールで「こころをつなぐ国民イベント2026」を開く。表彰式のほか、「犯罪被害者とグリーフケア-当事者と実践者の立場から-」と題した基調講演がある。グリーフケアは、身近な人を亡くした人の悲嘆に寄り添う支援を指す。警察庁は全国各地の関連行事の予定も、ホームページで案内している。
20年で整った制度、なお残る課題
第5次計画は、平成17年の第1次計画から数えて5本目の基本計画にあたる。基本計画はおおむね5年ごとに作り直されてきた。
| 計画 | 閣議決定 |
|---|---|
| 第1次 | 平成17年12月27日 |
| 第2次 | 平成23年3月25日 |
| 第3次 | 平成28年4月1日 |
| 第4次 | 令和3年3月30日 |
| 第5次 | 令和8年3月17日 |
計画は第4次計画の期間中の成果として、犯罪被害者等給付金の引き上げ、犯罪被害者等支援弁護士制度の創設、捜査段階から判決後まで一貫して被害者の氏名など個人を特定する事項を保護できるようにした刑事訴訟法の改正などを挙げた。被害者を支援する目的の条例は全ての都道府県で制定された。令和5年10月からは、国家公安委員会とそれを補佐する警察庁が政府の犯罪被害者等施策の司令塔となり、各府省の施策を総合調整している。
一方で、計画の概要資料は課題も示した。損害賠償を請求して判決を得ても加害者から回収できない、被害をきっかけに仕事を続けられなくなる、支援に携わる関係者の言動で二次的な被害を受ける、といった事例である。政府は策定に先立ち、令和6年7月から8月にかけて意見・要望を募り、被害者団体や民間の支援団体からも聞き取った。95人・60団体から約400項目が寄せられた。
窓口の一本化と「被害者手帳」
第5次計画の期間は令和8年4月1日から令和13年3月31日までの5年間で、合計307の施策を盛り込んだ。首相はメッセージで、さまざまな機関の支援をまとめて提供する「多機関ワンストップサービス体制」の運用などを進めていると述べた。
この体制は令和6年度から全国で整備が始まった。被害者がどこか一つの機関や団体に相談すれば、本人の同意を得たうえで、都道府県に置く犯罪被害者等支援コーディネーターに情報を集め、関係機関が一体となって使える支援を示す仕組みだ。計画は、全ての地方で早期に体制を築けるよう、都道府県への財政面の支援や、コーディネーターの養成の支援を行うとしている。
被害者が新しい機関を訪ねるたびに一から説明する負担を減らすため、本人の要望や状況を記録して支援の担当者と共有できる「被害者手帳」を作って交付する方針も盛り込んだ。コーディネーターが支援の記録を保管する「カルテ化」も進め、再び相談があったときに対応しやすくする。
令和8年に始まった犯罪被害者等支援弁護士制度では、心身の被害や経済的な困窮で、刑事手続きへの関与や被害の回復に向けた法的な対応を自ら行えない被害者が、早い段階から弁護士の包括的かつ継続的な援助を受けられるようになった。計画は法テラスによる制度の円滑な運用を求めている。
「犯罪被害者等」は家族や遺族も含む
計画は、支援の対象となる「犯罪被害者等」を、犯罪などで害を受けた本人とその家族または遺族と定義する基本法の規定をそのまま用いている。そのうえで、加害者が誰か、犯罪の種類、故意か過失か、起訴されたか不起訴か、事件が解決したか未解決か、被害者の国籍、被害を受けた場所によって「限定は一切付されていない」と明記した。
この定義では、過失による事故の被害者や、解決していない事件の被害者も「犯罪被害者等」にあたる。ただし計画は、個々の施策の対象者は施策ごとに適切に定めるべきだとしている。警察庁の犯罪被害者支援のポータルサイト「ギュっとCH」は、住んでいる地域で受けられる支援を探せるページを設けている。警察庁によると、月間を中心に全国各地でも広報啓発の事業が行われる。
