厚生労働省は10月30日、全国の労働局が労働基準関係法令に違反した疑いで検察庁に送り、公表した事案の一覧を更新した。対象は2025年10月1日から2026年9月30日までに公表された分で、406件が載った。違反した法令の条文で最も多かったのは、機械などによる危険の防止を事業者に義務づける労働安全衛生法第20条の120件。従業員に賃金を支払わなかったとして最低賃金法第4条違反を問われた事案も66件あった。

406件、大阪が38件で最多

一覧は厚労省労働基準局監督課がまとめたもので、各都道府県労働局が公表した際の内容を集約している。1件ごとに、企業・事業場の名称、所在地、公表日、違反法条、事案の概要、その他参考事項が並ぶ。今回の版に載った406件は、すべて「送検」と記された事案だった。

労働局別では大阪が38件で最も多く、愛知の25件、岐阜と福岡の16件、新潟の15件、愛媛の14件が続いた。千葉、神奈川、兵庫が13件、静岡と岡山が12件、北海道が11件。一方、青森と福井は2件にとどまり、徳島労働局の事案は1件も載っていない。

公表日でみると、2026年3月が71件と最も多く、9月の58件、2月の39件、8月の37件が続いた。最も少なかったのは5月の13件だった。年度末と、この版の締めにあたる9月に公表が集まっている。

一覧には大手企業の工場や支店も、地方の建設業者も、名称欄に「個人事業主」とだけ記された事業者も、同じ様式で並ぶ。違反の中身は、事故が起きた現場の安全措置の不備から賃金の不払い、違法な残業まで幅がある。

条文別では機械と墜落の危険防止が上位

違反法条の欄に挙がった条文を数えると、上位は労働安全衛生法が占めた。1件で複数の条文を挙げる事案もあるため、条文ごとの件数を合計すると406件を上回る。

違反法条に挙がった件数の多い条文(上位6)(件)

安衛法20条120最賃法4条66安衛法21条64安衛法100条44安衛法61条20労基法32条19
1件で複数の条文を挙げる事案があるため、合計は掲載件数を上回る出典: 厚生労働省「労働基準関係法令違反に係る公表事案(令和7年10月1日~令和8年9月30日公表分)」から本紙集計
数値で見る(単位: 件)
項目件
安衛法20条120
最賃法4条66
安衛法21条64
安衛法100条44
安衛法61条20
労基法32条19

最多の第20条は、事業者に「機械、器具その他の設備による危険」や、爆発性・発火性の物による危険、電気や熱による危険を防ぐ措置を求める条文だ。一覧では、機械の掃除をする際に起動装置へ表示板を付けなかった事案や、食品加工用機械に原材料を送り込む際に運転を止めなかった事案、フォークリフトの運転席を離れる際の措置を怠った事案などが並ぶ。

2番目に多い労働安全衛生法の条文は、第21条の64件。労働者が墜落するおそれのある場所や、土砂が崩れるおそれのある場所での危険防止を求めている。高さ約5メートルの足場で作業床を設けるなどの墜落防止措置をとらずに作業させた例や、高さ約6.8メートルの開口部付近で墜落制止用器具を使わせなかった例が載る。資格の無い労働者にフォークリフトなどを運転させた第61条違反は20件、酸素欠乏や一酸化炭素中毒の防止措置を欠いた第22条違反は14件だった。

労災報告の虚偽・未提出、賃金不払いも

安全措置の不備に次いで目立つのが、労働災害の報告をめぐる違反だ。労働安全衛生法第100条は、行政が事業者に必要な事項を報告させることができると定める。一覧では第100条を挙げた事案が44件あり、違反法条にはあわせて労働安全衛生規則第97条が並ぶ。事案の概要で労働者死傷病報告に触れたものは42件。このうち30件は、4日以上の休業を要する労働災害が起きたのに遅滞なく報告書を出さなかったもので、12件は虚偽の内容を記載した報告書を出したものだった。

賃金をめぐっては、最低賃金法第4条を挙げた事案が66件あった。同条は「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」と定める。毎月の給料(定期賃金)をまったく払わなかった場合も、最低賃金額以上を払う義務に反したとしてこの条文で送検されている。

不払い額が最も大きかったのは、労働者13人に6か月分の定期賃金合計約1200万円を払わなかった事案で、労働者17人に4か月分の約970万円、10人に2か月間分の約875万円が続く。賃金の全額払いを定めた労働基準法第24条違反も11件あった。

労働時間では、36協定で定めた限度を超えて残業させた、あるいは無効な36協定のもとで時間外労働をさせたとして、労働基準法第32条違反を挙げた事案が19件あった。時間外労働の協定を定めた第36条を挙げた事案は7件。労働条件を書面の交付などで明示しなかったとして第15条を問われた事案も3件あった。こうした違法な残業は、送検に至らない監督指導の段階でも多く見つかっている。厚労省の監督結果は違法な残業、1万1228事業場で確認 月200時間超の労働者がいた職場も111 厚労省が令和7年度の監督指導結果で伝えた。

「過労死等ゼロ」対策で始まった公表、掲載は約1年

この一覧は、2016年12月26日の長時間労働削減推進本部がまとめた「『過労死等ゼロ』緊急対策」で、違反事案を厚労省と各労働局のホームページに一定期間載せると決めたことに始まる。厚労省労働基準局長の通達によると、2016年10月1日以降に公表した事案から全国統一の扱いとなった。

載せるのは2種類ある。労働基準関係法令違反の疑いで送検し、公表した「送検事案」と、違法な長時間労働や裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で見つかった企業の経営トップを労働局長が指導し、その旨を公表した「局長指導事案」だ。今回の版に載ったのは送検事案だけだった。

各労働局は公表後すみやかに自局のサイトに載せ、厚労省は全国分をとりまとめて毎月定期に掲載する。掲載期間は公表日からおおむね1年で、1年が過ぎて最初に来る月末に削除する。ただし送検事案は掲載を続ける必要がなくなったと認められれば、局長指導事案は是正と改善が確認されれば、1年を待たずに削除する。一覧は毎月入れ替わり、古い事案から順に消えていく。

送検は、検察庁に事件を送ったという段階で、刑事責任が確定したことを示すものではない。一方で、どの業種でどのような違反が起き、送検にまで至ったのかは、企業名とあわせて公的な資料として確かめられる。技能実習生を使う職場での法令違反の実態は技能実習生を使う職場、73.2%で労働法令違反 特定技能は76.5% 建設業は8割超 厚労省が2025年の監督結果で伝えている。

今回の版では406件のうち、安全措置の不備を問う労働安全衛生法の条文が上位を占めた。労災の報告をしなかった、あるいは偽った事案が42件あり、事故の後の届け出を怠る違反も送検の対象になっている。賃金の不払いは66件が最低賃金法、11件が労働基準法の条文で問われた。