農林水産省は10月10日、群馬県渋川市の養豚農場で家畜伝染病の豚熱(CSF)の患畜が確認されたと発表した。国内の飼養豚での発生は107例目で、10月7日に確認された愛媛県大洲市の農場(106例目)から3日後の発生となった。群馬県によると県内では16例目。県は国と協議した結果、ワクチンで免疫を得た症状のない豚を殺処分の対象から外す「選択的殺処分」を適用し、12日午後までに1935頭を処分した。

通報から確定まで1日

農水省と群馬県の発表によると、発生農場の飼養頭数は約1900頭。同じ渋川市内にある疫学的に関連する1農場の約900頭と合わせ、県は飼養頭数を約2800頭としている。

10月9日、農場から豚熱を疑う症状が増えているとの通報があり、県が農場に立ち入って中部家畜保健衛生所の病性鑑定施設で検査した。豚熱の疑いが生じたため、国の研究機関である農研機構動物衛生研究部門で精密検査を行い、10日に患畜と確定した。

農水省は10日、「農林水産省豚熱・アフリカ豚熱防疫対策本部」を持ち回りで開き、対応方針を決めた。国の防疫指針に基づき、殺処分と焼却などの防疫措置を迅速に進めるほか、感染経路を調べるため国の疫学調査チームを派遣する。早期発見・早期通報の徹底、農場の消毒や野生動物の侵入防止など飼養衛生管理基準の順守指導、ワクチンの適時・適切な接種の徹底も掲げた。

県は11日午前9時に殺処分を始め、12日午後3時30分に終えた。殺処分頭数は1935頭で、防疫措置の完了は11月2日の見込みとしている。措置が終わるまでに生まれる子豚も殺処分の対象となるため、頭数は変わる可能性があるという。県は11日から前橋市富士見町のJA前橋市北部支所に車両の消毒所を設けた。県内の養豚場はワクチンを接種しているため、発生農場から半径3キロ圏内の移動制限と3〜10キロ圏内の搬出制限はかからない。

5月に始まった「選択的殺処分」

今回適用された選択的殺処分は、2026年5月の家畜伝染病予防法の改正で導入された仕組みだ。改正法は5月19日に公布・施行され、ワクチン接種地域である北海道を除く46都府県が対象となる。

従来は、豚熱が出た農場の豚はワクチン接種の有無にかかわらず全頭を殺処分してきた。農水省の一問一答集は、全頭殺処分が農場経営に大きな経済的影響を与えるうえ、作業にあたる都道府県などにも人的・精神的・財政的な負担が生じていたと説明する。ワクチン接種農場での発生事例を分析した結果、適切なワクチン接種で免疫を得た症状のない豚は感染拡大のリスクにならないという専門家の結論が出たため、殺処分の範囲を絞ることにしたという。ただし「まん延防止の徹底が優先」とも明記している。

農水省の資料によると、殺処分の対象は、①ワクチンを打っていない、接種から20日たっていない、発育不良など免疫が成立していない豚②症状があり遺伝子検査(PCR検査)で陽性となった豚③家畜防疫員が必要と判断した豚――で、県が国と協議して決める。県の指示どおりに接種していなかった場合は全頭が、農場内にウイルスが広く入り込んでいる場合は繁殖豚を除く全頭が対象になる。殺処分は1週間以内をめどに行い、消毒は1週間おきに3回実施する。その後、約3か月間は移動制限と毎日の報告で監視するが、消毒完了後(発生から約3週間後)は症状のない豚をと畜場へ出荷できる。

制度導入後の初の発生は7月4日の静岡県富士宮市の農場だった。農林水産相はこの日のメッセージで、殺処分すべき豚の速やかな特定、殺処分と消毒の確実な実施、対象外の豚の移動制限と監視を円滑に進める必要があると述べていた。

群馬は発生が続く地域

豚熱は豚とイノシシの熱性の伝染病で、伝染力が強く致死率が高い。治療法はない。農水省は、人には感染せず、感染した豚の肉や内臓を食べても人体に影響はないとしている。感染豚の肉が市場に出回ることもないという。アフリカ豚熱(ASF)とは別の病気だ。

国内では1992年を最後に発生が途絶え、2007年に国際獣疫事務局(WOAH)の規約に基づく清浄国となった。しかし2018年9月9日、26年ぶりに発生が確認された。国は2019年10月に感染リスクの高い地域で予防的なワクチン接種を始め、2020年9月に清浄国の地位を失った。

農水省が2025年6月に策定した「豚熱清浄化ロードマップ」によると、2018年9月の再発から2025年5月までに24都県で99例が確認された。ワクチンなどの対策で飼養豚での発生は年5件程度に減ったが、感染地域は九州へ広がっている。

今回の群馬の直前には、愛媛県大洲市の養豚農場(約4000頭)で106例目が確認された。10月6日に農場から異状の通報があり、県の検査と農研機構の精密検査を経て7日に患畜と確定した。農水省は同日も防疫対策本部を持ち回りで開き、群馬と同じ6項目の対応方針を決めている。農水省の発生農場の一覧では、105例目は7月の静岡県富士宮市で、そこから約3か月をおいて、1週間足らずのうちに西日本と関東で発生が続いた形だ。

群馬県は発生が繰り返されてきた地域の一つだ。農水省が公表している発生農場の現地調査概要(62〜105例目)のうち、14件が群馬県の農場で、前橋市や桐生市での発生が目立つ。2026年に入ってからも、前橋市の農場(101例目)で2月に現地調査が行われている。

千葉では野生イノシシに初の感染

飼養豚への感染源として警戒されているのが野生イノシシだ。農水省は10月11日、千葉県鴨川市で見つかった野生イノシシの死体から豚熱ウイルスが確認されたと発表した。千葉県内の野生イノシシでの確認は初めて。

県が9日にPCR検査で陽性を確認し、農研機構の精密検査を経て10日に判定した。千葉県はすでに経口ワクチンの散布推奨地域で散布が行われていたが、国と県は経口ワクチンを追加で散布するほか、野生イノシシの検査と捕獲を強化する。県内の養豚農家には、ワクチンの適時・適切な接種に加え、飼養衛生管理の再点検と早期通報を改めて指導する。

国のロードマップは、2050年ごろに飼養豚でWOAHの清浄国の地位を取り戻すことを当面の目標に掲げる。感染による抗体とワクチンによる抗体を検査で見分けられる「マーカーワクチン」の実用化を経て、2035年ごろから接種豚の置き換えを進める段取りだ。一問一答集は、清浄化が一定程度進めば全頭殺処分に戻す考えも示している。農水省は、現場や周辺での取材は感染を広げるおそれがあるとして、控えるよう求めている。