厚生労働省の厚生科学審議会疾病対策部会指定難病検討委員会は、令和10年度(2028年度)から適用する指定難病の新規追加について、研究班から情報提供のあった15疾患を一つずつ審査し、VEXAS症候群と特発性周辺部角膜潰瘍(Mooren潰瘍)の2疾患が指定難病の要件を満たすと判断した。残る13疾患は見送りとなった。審議は9月1日に開かれた第68回の委員会で行われ、議事録が同省のウェブサイトで公開された。
了承は自己炎症の病気と目の病気の2つ
VEXAS症候群は、成人後期に発症する治療抵抗性の自己炎症症候群で、高熱、皮疹、軟骨炎、肺の病変、関節炎といった全身の炎症症状に加え、血球減少や骨髄異形成などの造血障害を伴う。骨髄の造血系前駆細胞でUBA1という遺伝子に生まれたあとで変化が起きることが関係しているとされる。患者数は1000人未満。令和5年度の審査では、診断基準に組み込む遺伝子変異と重症度分類の記載の整備が必要と指摘され、「客観的な診断基準」の要件を満たさないと判断されていた。
今回は重症度分類を3つの条件に組み替えて再提出された。炎症の程度や臓器障害を加えた条件、造血障害の条件、日常生活の自立度を測るmodified Rankin Scaleが3以上という条件で、この基準だと助成の対象になる患者は93%にあたると説明された。委員会では、この病気の基礎にあるクローン性造血(血液を作る細胞の一部が同じ由来のまま増える現象)を腫瘍とみるべきではないかという指摘が出たが、炎症性疾患としての性格が強いとして要件を満たすと整理された。診断基準と重症度分類は日本リウマチ学会と日本小児リウマチ学会の承認を得ている。
特発性周辺部角膜潰瘍は、全身の症状を伴わないまま角膜の周辺部に潰瘍ができる病気で、一般にMooren潰瘍と呼ばれる。若年から中高年に発症し、急速に進んで角膜に穴が開き、視機能の回復は著しく難しい。患者数は500〜1000人で、平成27、28年度には「長期の療養を必要とする」要件を満たさないと判断されていた。今回示された重症度分類は、両眼が罹患し、視力の良い方の目の矯正視力が0.3未満のものを対象としており、初診時に当てはまるのは半数以下だが経過中では約56%とされた。委員から関節リウマチなどの膠原病との見分けを問われた眼科の委員は、結膜の充血はあるが強膜炎がないことなどで鑑別できると答えた。
見送り13疾患 理由で最も多かったのは「客観的な診断基準」
見送りとなったのは、ADSS1ミオパチー、遺伝子異常による発達性てんかん性脳症、視床下部過誤腫症候群、GRIN関連神経発達異常症、ROHHAD症候群、TAFRO症候群、ホルト・オーラム症候群、QT延長症候群、カテコラミン誘発多形性心室頻拍、中性脂肪蓄積心筋血管症、不整脈原性右室心筋症、視床下部性肥満、先天性高インスリン血症の13疾患である。
理由として最も多く挙がったのは「客観的な診断基準の確立」の要件だった。中性脂肪蓄積心筋血管症は、画像診断と心筋生検という検査項目だけで診断基準が構成され、どんな症状の患者が対象になるのかが示されていない点を指摘された。視床下部性肥満は、重症度分類が診断基準を満たした者すべてを対象とする形になっており、助成対象の割合が100%になることの根拠を示すよう求められた。先天性高インスリン血症は、重症度を薬の使用で区分している点の工夫を求められた。
多くは過去にも申請して見送られている。不整脈原性右室心筋症は平成28、29、30年度と令和3年度に、視床下部過誤腫症候群は平成27、28、29年度と令和3、5年度に、それぞれ要件を満たさないと判断されてきた。不整脈原性右室心筋症については、前回は海外のデータをもとに患者数を2万4000人程度と推定していたが、今回は心筋症の臨床医へのアンケート結果をもとに2000〜3000人へ大幅に下げて提出され、患者数の把握をさらに進める必要があるとされた。
遺伝子での切り出しと突然死リスクの扱いが論点に
神経・筋の4疾患では、原因となる遺伝子が見つかった病気を既存の指定難病から切り出してよいかが議論になった。ADSS1ミオパチーについて委員の一人は、既存の指定難病の一部の患者を、新しく遺伝子が見つかったという理由で別に取り出して新しい指定難病に定義すると、そうしたものが今後すごく増えるのではないかと述べ、方針を先に定めるべきだと求めた。遺伝子異常による発達性てんかん性脳症は、研究班が36の遺伝子を対象としていたが、診断基準が「病的疑いのバリアントを認める」という主観的な要素を含むため診断の範囲が広くなりうると指摘された。GRIN関連神経発達異常症も、この発達性てんかん性脳症と重なる部分があり整理が必要とされた。
循環器の疾患では、突然死のリスクをどう位置づけるかが問われた。QT延長症候群は心電図でQT時間が延びることで心室細動などが誘発され、心臓突然死の原因となる遺伝性の不整脈で、患者数は2000〜3000人に1人とされる。委員からは、突然死のリスクが生涯続くことを「長期の療養を要する」と判断するのかどうかは、これまでの指定難病の考え方からするとやや性格が違うという意見が出た。別の委員も、日常生活が障害されて長期の療養を要するという要件に該当するかの判断は難しいと述べた。カテコラミン誘発多形性心室頻拍も同様に、β遮断薬などである程度発作を抑えられる点が「長期の療養」の判断を難しくしているとされた。
指定難病は348疾病 認定されれば窓口負担は2割が上限
難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)は、難病を「発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの」と定めている。このうち、患者数が厚生労働省令で定める人数に達せず、診断について客観的な指標による一定の基準が定まっているものを、厚生労働大臣が厚生科学審議会の意見を聴いて指定難病に指定する。検討委員会が「発病の機構」「治療法未確立」「長期の療養」「客観的な診断基準の確立」といった要件を一つずつ確認しているのは、この法律の枠組みに沿った作業である。
指定難病の患者が都道府県から支給認定を受けると、指定医療機関で受けた医療について特定医療費が支給される。窓口で払う額は、家計の負担能力や治療の状況などを考えて政令で定める額までとなり、医療費の2割が上限になる(後期高齢者医療の被保険者で一定の場合は1割)。この受給者証をマイナンバーカードで代わりに使えるようにする取り組みも進んでおり、医療費助成の受給者証、マイナンバーカードで使える自治体が611に 1年半前の183から3.3倍 令和8年度は1,037自治体まで広がる見込みで扱ったように、国の公費負担医療では難病もその対象に含まれている。
指定難病は令和8年4月時点で告示番号1から348までの348疾病ある。令和7年4月にはLMNB1関連大脳白質脳症、PURA関連神経発達異常症、極長鎖アシル-CoA脱水素酵素欠損症、乳児発症STING関連血管炎、原発性肝外門脈閉塞症、出血性線溶異常症、ロウ症候群の7疾病が加わった。1疾患が加わるかどうかで、その病気の患者が医療費助成を受けられるかが変わる。
委員会は今回で今年度の新規追加の議論を終えた。あわせて審議した令和10年度適用分の診断基準・重症度分類の改正案については、意見募集(パブリックコメント)に寄せられた意見への考え方を来年3月末をめどにウェブサイトで公示する予定で、次回の委員会は11月中に開かれる見込みである。
