10月7日は、首都圏が広く強い揺れに襲われた日である。5年前の2021年10月7日午後10時41分、千葉県北西部の深さ75キロでマグニチュード5.9の地震が発生し、埼玉県川口市と宮代町、東京都足立区の3市区町村で震度5強を観測した。消防庁の最終報となった第10報によると、死者・行方不明者はなく、負傷者は49人、住家被害は一部破損が72棟だった。この地震で脱線した日暮里・舎人ライナーの再発防止工事は、5年たったいまも完了していない。
深さ75キロ、津波はなく長周期の揺れが都心を襲った
気象庁が地震発生から約2時間後の10月8日午前0時50分に公表した地震解説資料によると、規模はマグニチュード5.9(暫定値)で、速報値の6.1から下方修正された。震源の深さは75キロ(暫定値)で、速報値の約80キロから更新されている。震度5強の3市区町村のほか、東北地方から近畿地方にかけての広い範囲で震度5弱から1を観測した。津波の心配はないと発表された。
特徴的だったのは、高層ビルの高層階を大きくゆっくり揺らす長周期地震動だ。気象庁は千葉県北西部と東京都23区で長周期地震動階級2を観測したと記録しており、これらの地域の高層ビル高層階などでは「物につかまらないと歩くことが難しい、棚にある食器類、書棚の本が落ちることがあるなどの大きな揺れになった可能性があります」と説明している。緊急地震速報(警報)は、地震波の検知から3.7秒後の午後10時41分38.5秒に発表された。震源が深く、震央そのものに極端な被害が集中しなかった一方で、関東平野の広い範囲が揺れたのがこの地震の形だった。
同じ領域での地震は初めてではない。気象庁は同じ資料のなかで、千葉県北西部で過去に起きたマグニチュード6級の地震として、1928年5月21日(M6.2)、1951年1月9日(M6.1)、1956年9月30日(M6.3)を挙げている。気象庁は発生後、揺れの強かった地域では1週間程度、最大震度5強程度の地震に注意するよう呼びかけた。
政府の動きも速かった。内閣府の令和4年版防災白書によると、政府は発生2分後の午後10時43分に官邸対策室を設置し、同時刻に岸田文雄首相(当時)が、早急な被害状況の把握、地方自治体と連携した災害応急対策、国民への適時的確な情報提供、被害の拡大防止の徹底という4点を指示した。
負傷49人、住家被害は一部破損72棟 終電間際で駅前に滞留者
人的被害は、消防庁が2022年11月18日に出した第10報が最終の数字となっている。負傷者は49人で、うち重傷が6人、軽傷が43人。都道府県別では神奈川県16人、千葉県15人、埼玉県13人、東京都5人で、茨城県は0人だった。重傷者の内訳は埼玉県3人、千葉県2人、東京都1人である。住家被害は全壊・半壊がなく、一部破損が72棟(埼玉県43棟、千葉県18棟、東京都8棟、神奈川県2棟、静岡県1棟)だった。
火災も発生した。東京都千代田区で建物火災が1件起きて鎮火し、人的被害はなかった。千葉県袖ケ浦市の富士石油袖ケ浦製油所では火災が1件発生し、袖ケ浦市消防本部の対応で10月8日午前0時23分に鎮火した。神奈川県川崎市のENEOS川崎製油所ではエチレンガスの漏洩が発生し、処理された。東京都内ではエレベーターの閉じ込めが5件あり、いずれも解消された。地震直後の火災をめぐっては、電気が原因となるものが過半を占めることが知られており、揺れを感知して電気を止める装置の普及は進んでいない(地震火災の過半数は電気が原因 揺れを感知して電気を止める「感震ブレーカー」、首都圏の設置は約2割にとどまる)。
水道では、厚生労働省が公表した第4報の時点で、埼玉県、千葉県、東京都の一部地域で水道管の破損による漏水が発生したが、断水被害の報告はなかった。千葉県市原市では水管橋から漏水したものの止水作業が完了し、これに伴う断水は発生しない見込みとされた。
発生時刻が終電間際だったことも影響した。防災白書は「首都圏において終電時間が近づく中で地震が発生したことから、鉄道の運転見合わせ等によって駅前を中心に多くの滞留者が発生した」と記録している。消防庁の第10報によると、一時滞在施設を開いたのは東京都足立区(1施設44人)、千葉県流山市(1施設36人)、神奈川県横浜市(2施設33人)、東京都港区(1施設7人)、同荒川区(1施設2人)、千葉県千葉市(2施設0人)で、滞在者は全員が帰宅した。
舎人ライナー脱線、勧告に基づく工事の完了は令和10年度中の見込み
この地震で最も象徴的な被害が、東京都交通局の新交通システム「日暮里・舎人ライナー」の脱線だった。運輸安全委員会が2023年2月16日に公表した鉄道事故調査報告書によると、舎人公園駅構内を走行中の列車の1両目前台車の右側分岐輪が案内軌条に乗り上げ、走行輪が走行路から右側に落ちて脱線した。乗客29人のうち8人が負傷した(消防庁の被害報では軽傷3人と計上されている)。
委員会が突き止めた原因は、構造物と車両の揺れ方の「相性」だった。事故現場付近の構造物の固有振動数と車両の固有振動数がともに1.0ヘルツ付近にあり、地震動による構造物の回転挙動が車両のロール方向の振動を助長した結果、台車の左右の走行輪が交互に持ち上がったと考えられるという。固有振動数とは、物体が最も揺れやすい振動の速さのことで、構造物と車両でこれが一致すると揺れが増幅される。
さらに委員会は、事故後の対応も問題視した。指令員は脱線した列車を移動させて乗客を避難誘導させるため、電力指令の係員に指示して現場付近に再送電させたが、その処置は列車が脱線していることを確認せずに行われた。このため列車が集電していた電車線付近から火花が散り、煙が車内に入る状況になったとみられる。
委員会は運輸安全委員会設置法27条1項に基づき、東京都交通局に2件の勧告を出した。案内輪や分岐輪が案内軌条に乗り上げないようにする対策を講じること、震度5弱以上の地震時には全区間の車両と施設の状態を確認し終えるまで再送電しない手順を整理してマニュアルに明記し、関係係員に周知徹底することの2点である。
勧告への対応状況は、交通局が2025年5月27日に提出した実施計画として、委員会が同年6月20日に公表している。交通局は外部専門機関を交えて検討し、2つの工事を実施することにした。1つは地震動による構造物の回転変位を低減するため、事故現場付近の5本の柱に柱と梁の間のダンパーを設置するもので、完了見込みは令和10年度(2028年度)中。もう1つは分岐輪の水平移動を拘束する固定案内板を走行路に追加設置するもので、完了見込みは令和8年度(2026年度)中とされた。再送電の手順については、異常時対応マニュアルを2023年3月に改定済みである。交通局はこのほか、早期地震警報システム動作時の一斉非常列車停止操作を自動化し、分岐部の走行路中央部の段差解消も進めるとしている。
首都直下地震では、この日の揺れを大きく上回る被害が想定されている。国の防災体制は2026年11月2日に防災庁が発足する段階に入っており(防災庁、11月2日に発足 施行期日の政令を閣議決定 統括官4人・参事官15人を置く 地方機関「防災局」の施行日は決まらず)、5年前の10月7日に露呈した課題のうち、鉄道設備の対策完了はなお2年先の見込みである。
