客からの迷惑行為、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)を防ぐ措置を取ることが、10月1日から全ての事業主の義務になる。2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)のうち、カスハラに関する部分がこの日に施行されるためだ。厚生労働省は2026年2月26日、事業主が何をすればよいかを定めた指針を告示した(令和8年厚生労働省告示第51号)。企業規模による例外は設けられておらず、厚労省は「全ての事業主の義務となる」と説明している。

セクハラやパワハラの防止措置はすでに事業主の義務になっているが、客という社外の相手からの行為が義務の対象に加わるのは初めてだ。これまでは各社の自主的な取り組みに委ねられていた。

「三つをすべて満たすもの」がカスハラ

指針は、職場におけるカスタマーハラスメントを、①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの――と定義した。この三つの要素をすべて満たすものを指す。電話やSNSなどインターネット上で行われるものも含む。

「顧客等」の範囲は広い。買い物客や取引の相手方だけでなく、駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設などの利用者も入る。今後商品を買ったりサービスを使ったりする可能性がある人も含まれる。

「社会通念上許容される範囲を超えた言動」については、指針が二つの型に分けて例示している。言動の内容が度を越す型として、そもそも要求に理由がない場合、契約で想定しているサービスを著しく超える要求、対応が著しく困難または不可能な要求、不当な損害賠償要求を挙げた。手段や態様が度を越す型としては、暴行や傷害といった身体的な攻撃、脅迫・中傷・名誉毀損・侮辱・暴言・土下座の強要といった精神的な攻撃、威圧的な言動、継続的で執拗な言動、不退去や居座り、監禁といった拘束的な言動を示した。

裏を返せば、理由のある苦情や正当な要求はカスハラに当たらない。指針は対策を講じる際に、消費者の権利や、障害者差別解消法が定める不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務に留意する必要があると念を押している。

求められるのは10の措置

事業主が必ず講じなければならない措置は10項目ある。まず、カスハラには毅然とした態度で対応し労働者を保護するという方針を明確にして周知・啓発すること。そして、カスハラの内容とあらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知することだ。対処の内容としては、管理監督者に対応方針の指示を仰ぐ、可能な限り労働者を一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社・本部へ情報共有して指示を仰ぐ、といった例が挙げられている。

このほか、相談窓口をあらかじめ定めて周知すること、窓口担当者が適切に対応できるようにすること、事実関係を迅速かつ正確に確認すること、被害者への配慮の措置、再発防止の措置が並ぶ。特に悪質なカスハラへの対処方針をあらかじめ定めて周知し、実際に対処できる体制を整えることも求められる。相談者のプライバシー保護と、相談したことを理由に不利益な取扱いをしない旨の周知も必要だ。

自社の労働者が取引先など他社の労働者にカスハラを行い、その取引先から事実確認などへの協力を求められた場合は、応じるよう努めなければならないとされた。

企業の相談は増え、働く人の被害経験は減った

厚労省が令和5年度に実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為の相談があった企業は27.9%(回答7775社)だった。令和2年度の調査では19.5%(同6365社)で、割合は上がっている。件数の傾向についても、「増加している」と答えた企業が23.2%で、「減少している」の11.4%を上回った。

一方、働く人への調査では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為を受けたと答えた人は10.8%で、令和2年度の15.0%から下がった。業種別に見ると、割合が高いのは「生活関連サービス業、娯楽業」の16.6%、「卸売業、小売業」と「宿泊業、飲食サービス業」がいずれも16.0%だった。職種による差は小さかったが、客と接する頻度が多いほど受けた割合が高かった。

企業側の相談が増えて働く人の被害経験が減っているのは、相談窓口の整備が進んで表に出る件数が増えた結果とも読める。同じ調査は、パワハラの相談があった企業も48.2%から64.2%に増える一方、パワハラを受けた人は31.4%から19.3%に減ったことを示している。10月1日からは、働く人の生活に直結する制度変更として最低賃金の引き上げ、10月1日から順次発効 全国平均は1121円から1177円へ 15都道県は1日、沖縄は12月2日と2か月の差も始まる。

フリーランスは対象外、就活セクハラは同日から義務に

今回の義務は「その雇用する労働者」を守るためのもので、企業と雇用関係にないフリーランスは対象に含まれない。ただし改正法の附則には、業務委託を受けたフリーランスが客から受ける同様の行為について、政府が施策を検討し、必要と認めるときは所要の措置を講ずる、という検討条項が置かれた。この条項は2026年4月1日にすでに施行されている。

10月1日からは、改正男女雇用機会均等法により、求職者等に対するセクシュアルハラスメントを防ぐ措置も事業主の義務になる(令和8年厚生労働省告示第52号)。対象は求人に応募する人のほか、採用に資する活動に参加する人、教育実習や看護実習を受ける人だ。採用面接や就職説明会への参加、社員訪問、インターンシップ、実習の受講中の行為が含まれ、SNSなどオンラインを介したものも対象になる。面談の時間と場所の指定、やり取りに使うSNSの種類の指定といった求職活動のルールをあらかじめ明確にし、労働者と求職者の双方に周知することが求められる。

厚労省は業種別の対策マニュアルの作成も進めており、2026年3月27日には宅配業編を公表した。労働施策総合推進法は、厚生労働大臣が法律の施行に必要と認めるときは事業主に助言、指導または勧告ができると定めている。同省が9月25日に公表した転職者実態調査では、今後3年間に転職者を採用する予定がある事業所が63.6%に上っており(中途採用を新卒より優先したい企業が40.0% 厚労省の転職者実態調査 辞めた理由の最多は「賃金が低かった」25.5%)、客と接する仕事の環境をどう整えるかは人手の確保とも重なる。相談は各都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が受け付けている。