東京電力は10月26日午前11時29分、福島第一原子力発電所にたまる「ALPS処理水」の海洋放出を始めた。2026年度としては7回目、2023年8月の放出開始からの通算では25回目となる。11月13日までに約7800立方メートルを海水で薄めて流す予定で、含まれるトリチウム(三重水素)の総量は約1.4兆ベクレルと想定している。前回の6回目は10月23日に終わったばかりで、3日後の再開となった。

今回流す水の中身

今回の水は、敷地内のK1エリアC群・D群のタンクから「測定・確認用設備」C群へ移したものだ。移送は9月1日に終わり、量は7770立方メートルだった。東電は9月4日からタンク内の水をかき混ぜて均一にし、9月11日に試料を採って分析した。

分析の結果、トリチウムを除く29種類の放射性物質の濃度は、国の基準である「告示濃度比総和1未満」に対して0.14だった。告示濃度比総和とは、物質ごとに国が定めた濃度の上限に対する割合を足し合わせた値で、1を下回れば環境へ出してよい水準となる。トリチウムの濃度は1リットルあたり18万ベクレルで、100万ベクレル未満であることを確かめた。このほか、有意に含まれていないことを自主的に確かめている39種類の物質はいずれも検出されず、水質44項目にも異常はなかった。外部機関の化研が行った測定でも、同じく基準を満たしたという。

放出は1日あたり約460立方メートルの処理水を、約34万立方メートルの海水と混ぜて行う。設計上の希釈倍率は約740倍で、薄めた後のトリチウム濃度は1リットルあたり約240ベクレルを想定する。国の規制基準の6万ベクレル、世界保健機関(WHO)の飲料水基準の1万ベクレル、政府方針で定めた1500ベクレルを、いずれも大きく下回る。東電は放出期間中、海水配管から毎日試料を採り、実測値が計算上の濃度と同程度で1500ベクレルを下回っているかを確認する。

今年度の放出、6回で4万7289立方メートル

2026年度の放出は4月2日に始まった。東電の放出実績によると、1回目から6回目までの放出量はいずれも7800立方メートル台で、合計は4万7289立方メートルになる。各回のトリチウム総量を足すと約8.3兆ベクレルで、今回の想定分を加えると約9.7兆ベクレルとなる。

回 放出期間 放出量 トリチウム総量
1回目 4月2日〜4月20日 7,865立方メートル 約1.9兆ベクレル
2回目 6月1日〜6月20日 7,927立方メートル 約1.3兆ベクレル
3回目 7月6日〜7月24日 7,894立方メートル 約1.3兆ベクレル
4回目 7月30日〜8月17日 7,888立方メートル 約1.3兆ベクレル
5回目 8月31日〜9月18日 7,863立方メートル 約1.3兆ベクレル
6回目 10月5日〜10月23日 7,852立方メートル 約1.2兆ベクレル
7回目 10月26日〜11月13日(予定) 約7,800立方メートル(予定) 約1.4兆ベクレル(想定)
2026年度のALPS処理水の放出(7回目は予定・想定値)出典: 東京電力「ALPS処理水 放出実績」、同「2026年度第7回(通算25回)ALPS処理水海洋放出の開始」(2026年10月26日)

直前の6回目は10月5日午前11時21分に始まり、測定・確認用設備A群からの移送が10月22日午後3時22分に終わった。配管に残った処理水をろ過水で押し流す作業が10月23日午後0時9分に終わった時点で完了とし、総放出量は7852立方メートル、トリチウムは約1.2兆ベクレルだった。7月に始めた通算21回目の放出については、福島第一原発の処理水、通算21回目の海洋放出を開始 7月24日まで約7800トン 2026年度は年8回計画で伝えた。

東電の資料に並ぶ2023年度以降の実績を足し合わせると、通算24回目までの累計放出量は18万8444立方メートルになる。2025年度末までの18回で14万1155立方メートル、今年度の6回で4万7289立方メートルという内訳だ。

年8回に増やした計画と、次の放出

東電は2026年度の計画を年8回、合わせて約6万2400立方メートル、トリチウム量にして約11兆ベクレルとしている。過去の実績は2023年度が4回・3万1145立方メートル、2024年度と2025年度がいずれも7回で、それぞれ5万4999立方メートルと5万5011立方メートルだった。今回の7回目を予定どおり流し終えると、今年度の放出量は約5万5100立方メートルとなり、前年度をわずかに上回る。

回数を1回増やした理由について、東電は作業の効率化を挙げる。タンク間の移送を従来の日中のみから24時間の連続作業に改め、分析結果の評価・確認の手順も見直した結果、放出と放出の間隔を縮められる見通しが立ったという。

一方、トリチウムの年間量は2025年度の約16.0兆ベクレルより少ない約11兆ベクレルを見込む。2025年度に流した水のトリチウム濃度は1リットルあたり21万〜38万ベクレルだったのに対し、今年度これまでの水は15万〜24万ベクレルにとどまっているためだ。東電は年間の放出基準をトリチウム総量22兆ベクレルとしており、今年度の計画はその半分にあたる。

年度最後となる8回目は、K1エリアC群・D群の約1540立方メートルとG4南エリアC群の約5900立方メートルを測定・確認用設備B群に移して流す計画で、開始時期は来年2〜3月としている。7回目と8回目の間には、設備の点検のための停止期間を置く。東電は10月23日から測定・確認用タンクA群の全面的な内面点検に入っており、2027年5月ごろまで続く見込みだ。冬の間には移送ポンプや海水移送ポンプの分解点検、海水配管の内面点検なども予定している。

海域の濃度、停止判断の基準を大きく下回る

東電は放出期間中、発電所から3km以内の10地点と、発電所正面の10km四方内の4地点で海水を採り、検出できる下限を1リットルあたり10ベクレル程度に上げて結果を早く得る「迅速測定」を続けている。放出を止める判断の基準(放出停止判断レベル)は、3km以内で700ベクレル、10km四方内で30ベクレルと定めている。その手前には、原因を調べる目安となる「調査レベル」を、3km以内で350ベクレル、10km四方内で20ベクレルに置いている。今回の7回目について東電は、10月22日までの測定で、いずれの地点もこれらのレベル以下だったと説明している。

今年度の結果は、3km以内の最大値が1回目で27ベクレル、2回目で13ベクレル、3回目で14ベクレル、5回目で16ベクレル、6回目で6.9ベクレルだった。4回目は検出されなかった。10km四方内の4地点では、6回のいずれでも検出されていない。最も高かった1回目の27ベクレルでも、3km以内の調査レベルの1割に満たない。

国際原子力機関(IAEA)による10月の監視については、福島第一原発の処理水、IAEAの監視が10月に2件 6〜16日は海水と水産物の採取に立ち会い、7日は12回目の追加採水 中国・韓国・ロシア・スイスが参加で伝えた。

タンクを減らして何に使うのか

福島第一原発では、汚染水を多核種除去設備(ALPS)に通し、トリチウムを除く大部分の放射性物質を取り除いた状態で、敷地内の溶接型タンクにためてきた。ALPSで取り除けないトリチウムが残るため、海水で薄めて国の基準を下回る濃度にしてから流している。

放出の目的の一つは、タンクが占める敷地を空けることにある。東電は2026年度の計画を検討する際、今後の放出で空いた場所に、使用済み燃料を高台で乾式保管するための施設の用地を確保することを想定した。候補地は、津波の影響を受けにくい高台で、敷地の外への線量の影響を抑えられる「H4エリア」で、今後このエリアのタンクを解体して更地にする工程を詰めるという。

H4エリアには86基のタンクに約9万6300立方メートルの水がある。このうちトリチウム以外の放射性物質の告示濃度比総和が1未満のタンクは約1万6600立方メートルで、1以上の約7万9700立方メートルはそのままでは放出の対象にならない。東電は、放出の対象とならない水を放出で空いたタンクに移し、解体の準備を進めるとしている。今年度の放出で使うタンクも、移送後に点検したうえで、日々発生するALPS処理水の受け入れなどに使う。

今回の7回目が予定どおり11月13日に終われば、今年度の残りは8回目だけとなる。年8回・約6万2400立方メートルという計画を達成できるかは、冬の点検を終えて来年2〜3月に8回目を始められるかどうかにかかっている。