外務省の中村仁威欧州局長は10月14日、ニコライ・ノズドリェフ駐日ロシア大使を外務省に呼び(召致)、ロシア連邦保安庁(FSB)がサハリン州で邦人1人を拘束したと発表した件と、中国黒竜江省の関係者が北方領土の択捉島を訪れた件について申し入れを行った。外務省が同日発表した。拘束された邦人について、日本政府はロシア側から何の説明も受けていないとして、ロシアが一方的に拘束を発信したことに強く抗議し、本人と接触する機会を速やかに設けるよう求めた。FSBは前日の13日、北海道新聞のユジノサハリンスク支局に駐在する特派員をスパイの疑いで拘束したと発表していた。
FSB「日本の情報機関のためにスパイ」と発表
FSBが10月13日付で公式サイトに掲載した発表によると、拘束されたのは「ロシア外務省に登録された、日本の新聞『北海道新聞』のユジノサハリンスク支局の特派員」で、日本国籍の人物だ。FSBは、この特派員が日本の情報機関の一つのためにスパイ行為をした疑いがあると主張している。
発表は、捜査の結果として、特派員が「国の防衛能力に関わる情報」を、日本の情報機関の指示でロシアの安全保障に反して使う目的で集め、保管していたことが判明した、としている。特派員はロシアを出国する直前にサハリン州内で拘束され、その後モスクワへ移送された。FSBの捜査部門はロシア刑法276条(スパイ罪)で刑事事件の手続きを始め、モスクワのレフォルトボ地区裁判所が勾留を決めたという。発表は「さらに捜査を続けている」と結んでいる。
FSBは特派員の氏名を明らかにしていない。容疑の具体的な中身も「国の防衛能力に関わる情報」と書くだけで、何を集めたとされるのかは発表文からは分からない。いずれもFSB側の一方的な主張で、外務省によれば、日本政府はロシア側から拘束についての説明を受けていない。
召致で何を求めたか 「説明がないまま一方的に発信」
外務省の発表によると、中村局長は大使に対し、13日のFSBの発表について速やかに情報を提供するよう求めた。そのうえで、拘束された邦人を人道的に、公平・公正に扱うよう強く求めた。
申し入れで目を引くのは、抗議の対象だ。中村局長は、日本政府が拘束された邦人について現時点で何の説明も受けていない中で、ロシア側が拘束し、それについての発信を一方的に行っていることに「強く抗議」した。拘束の事実を、相手国の政府への連絡より先に公表したことへの抗議である。さらに、この邦人との接触の機会を迅速に設けるよう求めた。大使は、日本側の立場を本国に伝えると応じた。
「召致」は、外交上の問題が起きたときに、相手国の大使などを自国の外務省に呼び出して直接立場を伝える手続きで、抗議の意思を示す強い手段とされる。今回、外務省の発表は拘束された人物を「邦人1名」とだけ書き、勤務先や氏名には触れていない。
外国で自国民が拘束された場合、政府はまず領事が本人と面会し、健康状態や扱われ方を確かめ、弁護人の手配などを支える。外務省が求めた「接触の機会」はこれに当たる。日本政府が本人の状況を直接確かめられるかどうかが、当面の焦点になる。
択捉島に中国黒竜江省の関係者 政府は「受け入れられない」
同じ召致では、北方領土をめぐる申し入れもした。外務省によると、ロシアのサハリン州政府は10月13日、中国黒竜江省の政府関係者と企業関係者が択捉島を訪れたと発表した。
13日夕の会見でこの件を問われた茂木敏充外相は「報道については承知をいたしております。現在、事実関係確認中でありまして、我が国の立場に基づいて適切に対応していきたい」と述べていた。
翌14日、中村局長は大使に対し、北方領土は歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、第三国の政府・企業関係者などが、北方領土がロシア領であるかのような形で北方四島に入って活動することは受け入れられないと伝え、適切な対応をとるよう強く求めた。大使はロシア側の立場を説明し、中村局長は日本側の立場に基づいて明確に反論したという。
申し入れの要点は、第三国の関係者が「ロシア領であるかのような形で」入域し活動することを認めない、という点にある。今回はそれが中国の地方政府と企業の関係者だった。日ロ関係では、10月2日にも政府、ロシアの「影の船団」35隻を規制対象に指定 海運・保険・修繕など6分野のサービス提供を許可制へ 33団体・9個人の資産も凍結しており、両国の緊張が続く中での出来事となった。
国民民主党と新聞労連も要請・声明
政党や報道関係の団体も14日、相次いで声を上げた。
国民民主党は同日、山田吉彦安全保障調査会長名で「北方領土問題及びロシア当局による北海道新聞記者拘束に関する緊急要請書」を出した。中国黒竜江省の視察団を択捉島に上陸させたことを「主権を侵害する一方的な現状変更の試み」とし、ロシアと関係国に厳重に抗議し、実効支配の強化を止める外交的措置を速やかに講じるよう求めた。記者の拘束については「正当な取材活動を犯罪視することは断じて容認できません」として強い懸念を示し、政府に対して、拘束の根拠を明らかにするようロシアに求めること、記者の身体の安全確保、速やかな領事面会、早期解放に全力を尽くすことを要請した。
日本新聞労働組合連合(新聞労連)と北海道新聞労働組合は連名の声明を出した。声明は、記者が記者査証(ビザ)を受けてロシア国内で取材活動をしていたと説明し、記者の安全と健康の確保と一日も早い釈放を強く求めた。「報道の自由は民主主義の根幹であり、最大限に尊重されなければなりません」とし、拘束の長期化は「絶対にあってはいけません」として、日本政府に記者の安全確保を最優先に、早期に自由の身になるよう全力を挙げることを求めている。
外務省は14日の発表を「日本政府としては、邦人保護や北方領土問題をめぐる対応について、引き続き、万全を期していきます」と結んだ。大使は日本側の立場を本国に伝えるとしており、情報提供と面会の求めにロシア側がどう応じるかが次の焦点になる。
