高市早苗首相は23日、国連総会への出席に合わせてニューヨークで内外記者会見を開き、次の臨時国会に「原油調達多角化に関する法案」を提出する考えを明らかにした。首相官邸が会見の速報版を公表した。原油の調達先を中東の外へ広げることを正面から掲げた法案で、首相は「中東情勢を受けた」ものだと説明した。
「消費税・支援金法案」と並ぶ柱として挙げる
会見では時事通信の記者が「10月5日に招集される臨時国会」と前置きしたうえで、どのような成果を得たいかを尋ねた。首相は「決断と挑戦、そして実行の内閣」として大胆な政策転換を実行に移すと述べ、「臨時国会では、『消費税・支援金法案』や中東情勢を受けた『原油調達多角化に関する法案』など、国民の皆様に身近な法整備で、結果を出していきたいと考えています」と答えた。
つまり首相は、物価高対策として先行してきた食料品の消費税に関する法案と、エネルギー調達の法案を、臨時国会の二本柱として並べたことになる。消費税の側については「先日9月15日に閣議決定した『大綱』に基づいて、必要な法制上の措置等を可及的速やかに講ずる」と述べ、「なるべく多くの政党に御賛同いただけますように、法律案の準備や審議に丁寧に臨んでまいります」と語った。与党は参院で過半数を持たないため、いずれの法案も野党の協力なしには成立しない。
一方、原油調達の法案については、会見で名称に触れただけで、規制なのか支援なのか、どの役所が所管するのかといった中身は示していない。首相は22日の一般討論演説でも法案そのものには言及していない。
原油だけが突出する中東依存 94.7%
なぜ「多角化」が法案の題名になるのか。資源エネルギー庁の「エネルギー動向(2025年版)」によると、2023年度に日本が輸入した原油のうち中東産が占める割合、いわゆる中東依存度は94.7%だった。前年度の2022年度は95.2%で、これが過去最高にあたる。輸入元はサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタールなどに集中している。
他国と比べると偏りがはっきりする。同じ2023年の中東依存度は、米国が9.3%、欧州OECDが16.5%。日本の水準は桁が違う。
日本もかつては分散が進んでいた。同庁の整理では、1967年度に91.2%だった中東依存度は、中国やインドネシアからの輸入が増えたことで1987年度には67.9%まで下がった。ところがその後、中国や東南アジア諸国が自国で原油を使うようになって輸出に回す量を減らし、2009年度には89.5%へ戻った。ロシアからの輸入でいったん下がったものの、そのロシア産が減ったことで再び上昇している。国内で採れる原油はほとんどなく、原油自給率は長く0.5%未満のままだ。
同じ化石燃料でも、原油以外は事情が違う。LNG(液化天然ガス)の中東依存度は2023年度で9.4%、最大の輸入先は豪州で41.0%を占める。LPガスに至っては、2011年度の86.6%から2023年度には4.7%まで落ち、代わりに米国産が61.5%を占めるようになった。米国のシェール開発とパナマ運河の拡張が効いた結果で、調達先を替えられた燃料と替えられなかった燃料の差が、そのまま今の依存度の差になっている。日本は緊急時のLNG、マレーシアから融通 JOGMECがペトロナスと枠組み合意 マレーシアは日本のLNG輸入先2位で15.7%のように、LNGでは融通の仕組みづくりも進めてきた。
ホルムズ海峡「追加的な費用がない形で」
依存が偏っていることは、中東から日本への航路が細るとそのまま効いてくる。首相は会見の冒頭発言で「中東情勢が緊迫化し、国際公共財たるホルムズ海峡において、自由で安全な航行が困難になっています」と述べた。
中東メディアの記者からイラン情勢を問われると、首相は「ホルムズ海峡において、『法の支配に基づく海洋秩序』が大きく揺らいでいることを強く懸念しています」としたうえで、「世界の物流の要衝であり、国際公共財でもあるホルムズ海峡において、『追加的な費用がない形』で、『自由で安全な航行』が一刻も早く回復されることが重要です」と答えた。海峡の今後については「海峡の沿岸国やそして利用国、そして国際海事機関(IMO)を含む国際社会全体での議論が不可欠だ」と述べている。トルコのエルドアン大統領との首脳会談でも同じ趣旨を伝え、賛同を得たという。
「追加的な費用がない形」という言い回しは、海峡を通れるかどうかだけでなく、通るために保険料や護衛の負担が上乗せされる事態も避けたい、という意味合いになる。実際、供給の細りは数字にも出ている。IEA、今年の世界石油供給を日量570万バレル減に下方修正 湾岸の回復は2027年へ先送り 米軽油は開戦前の1.94倍で示したとおり、湾岸からの供給回復は先送りされている。
当面の備えは備蓄が担う。資源エネルギー庁によると、日本は2026年2月時点で約8か月分の石油備蓄を持つ。国が持つ「国家備蓄」、石油備蓄法で精製業者などに義務づけられた「民間備蓄」、UAE・サウジアラビア・クウェートとの「産油国共同備蓄」の三つで構成される。政府は今年、国家備蓄原油の放出にも踏み切っており、4月24日には第2弾の放出を発表した。LNGについては、電力・ガス会社が3月1日時点で400万トン弱の在庫を持ち、これはホルムズ海峡経由の輸入量のおよそ1年分にあたるとしている。
「パワー・アジア」に湾岸との協力計画を上乗せ
法案の前段にあたる外交の枠組みは、すでに動いている。首相は4月15日、エネルギー強靱化に関するAZEC+オンライン首脳会合で「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ」、通称「パワー・アジア」の立ち上げを発表した。経済産業省によると、原油・石油製品の調達やサプライチェーン維持のための融資といった「緊急対応」と、アジア域内で原油の備蓄日数を延ばすための備蓄・放出制度づくりや備蓄タンクの建設・利用、エネルギー源の多様化と省エネによる産業の高度化といった「構造的対応」に取り組むもので、総額はおよそ100億ドルの金融協力にのぼる。
実務は政府系の3機関が分担する。国際協力銀行(JBIC)は、2025年10月に設けた「日本戦略投資ファシリティ」の中に「POWERR Asia FAST ウィンドウ」を新設して融資にあたる。日本貿易保険(NEXI)は、商社が調達した原油を現地企業に売る取引に保険をかけて現地企業の信用力を補う。国際協力機構(JICA)は緊急円借款と海外投融資で相手国政府や企業を支える。
そのうえで首相は会見で「パワー・アジアに加えて、現在、湾岸諸国との包括的な協力計画をまとめているということも打ち出しました」と述べた。22日の一般討論演説でも「現在、日本は中東の湾岸諸国の経済・エネルギー強靱化に向けて、包括的な協力計画をまとめています」と表明している。中東から買う量を減らすだけでなく、売り手である湾岸側の経済とエネルギー供給そのものを支えて、結果的に自分たちの調達を安定させる、という組み立てだ。産油国との個別の交渉も続いており、経済産業相がUAEと原油の安定供給を協議した際には、経産相、UAEと原油の安定供給で協議 「備蓄拡大」など5項目 輸入の4割を占める最大の相手のように備蓄の拡大を含む5項目で一致している。
今回の訪米では、このほかトランプ大統領との会談でAI・半導体・重要鉱物といった経済安全保障の協力強化で一致し、ゼレンスキー大統領にはウクライナ支援と対露制裁の継続を伝えた。国連総会の演説そのものについては、高市首相、国連憲章の「旧敵国条項」削除を国連総会で要求 「日本の誇りと名誉にかけて」 安保理は常任・非常任の双方拡大をで伝えている。首相は年末にかけてASEAN、APEC、G20の首脳会議が続くとして、一連の機会で各国との連携を深める考えを示した。
