高市早苗首相は9月23日、国連総会への出席に合わせてニューヨークで開いた内外記者会見で、次の臨時国会に「原油調達多角化に関する法案」を提出する考えを明らかにした。10月5日に召集された第222回国会(臨時国会)の所信表明演説では、「原油等の特定経路への依存の低減など、調達先の多角化とリスク低減を徹底することにより、我が国のエネルギー調達基盤を抜本的に強化するための制度を整備します」と述べ、法案の狙いを具体的な言葉で示した。

所信表明で示した中身 「特定経路への依存の低減」

会見の時点では、法案は名称が挙がっただけだった。時事通信の記者が「10月5日に招集される臨時国会」でどのような成果を得たいかを尋ねたのに対し、首相は「臨時国会では、『消費税・支援金法案』や中東情勢を受けた『原油調達多角化に関する法案』など、国民の皆様に身近な法整備で、結果を出していきたいと考えています」と答えた。規制なのか支援なのか、どの役所が所管するのかには触れていない。

所信表明演説は、その位置づけを一段はっきりさせた。首相は、エネルギー・資源安全保障を含む「危機管理投資」の例としてGX(グリーントランスフォーメーション)を挙げ、「化石燃料の調達先多角化とリスク低減によるエネルギー安全保障の強化」と「エネルギー転換・供給力増強・効率向上に向けた投資拡大」を二つの柱として加速させると説明した。これを「エネルギー需給構造強靱化総合パッケージ(POWERR GX)」として進め、年内に制度と予算を一体的に盛り込んだ新たな戦略を取りまとめるという。そのうえで「まずは」として挙げたのが、冒頭の「特定経路への依存の低減」を柱とする制度整備だ。

「特定経路」という言い方には、産油国だけでなく、そこから日本へ運ぶ航路への依存も含まれると読める。中東の原油の多くはホルムズ海峡を通って運ばれるため、輸入先を変えることと、運ぶ道筋を変えることは同じ課題の表と裏になる。どのような手段で依存を下げるのかは、法案の条文が示されるまで分からない。政府は10月13日、この法案を「原油等調達多角化法案」として閣議決定した。中身は原油調達多角化など資源3法案を閣議決定 ホルムズ迂回に交付金、再保険停止は政府が肩代わりで伝えている。首相は10月26日の改造後初の政府与党連絡会議、首相が消費税・支援金法案と原油関連法案の早期成立へ協力要請でも、この法案の早期成立への協力を与党に求めた。

もう一方の柱である消費税の法案は、すでに国会に出ている。内閣官房の一覧によると、「租税及び社会保険料による負担の軽減のための飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の支給に関する法律案」が10月9日に提出された。原油調達の法案については、10月12日時点で経済産業省の報道発表に閣議決定の発表は見当たらない。国会の法案の動きは特別国会、内閣提出の64法案はすべて成立 議員立法は59件のうち14件 21件は閉会中審査で次の国会へも参照。

原油だけが突出する中東依存 94.7%

なぜ「多角化」が法案の題名になるのか。資源エネルギー庁の「エネルギー動向(2025年版)」によると、2023年度に日本が輸入した原油のうち中東産が占める割合、いわゆる中東依存度は94.7%だった。前年度の2022年度は95.2%で、これが過去最高にあたる。輸入元はサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタールなどに集中している。同じ2023年の中東依存度は米国が9.3%、欧州OECDが16.5%で、同庁は日本の水準を「諸外国と比べても極めて高い」としている。

日本もかつては分散が進んでいた。同庁の整理では、1967年度に91.2%だった中東依存度は、中国やインドネシアからの輸入が増えたことで1987年度には67.9%まで下がった。ところがその後、中国や東南アジア諸国で原油の需要が増え、これらの地域からの輸入が減ったことで、2009年度には89.5%へ戻った。ロシアからの輸入増加でいったん下がったものの、近年はロシアからの輸入減少などで再び上昇している。二度のオイルショックを経て多角化を図ってきたにもかかわらず、2023年度には1967年度の水準を上回っている。

同じ化石燃料でも、原油以外は事情が違う。LNG(液化天然ガス)の中東依存度は2023年度で9.4%で、2012年度から最大の輸入先となっている豪州の割合は、2012年度の19.6%から2023年度には41.0%まで広がった。LPガスは、2011年度の86.6%から2023年度には4.7%まで落ち、代わりに米国産が61.5%を占めるようになった。米国のシェール開発と、2016年6月に完了したパナマ運河の拡張で大型LPG船が通れるようになったことが効いた。調達先を替えられた燃料と替えられなかった燃料の差が、そのまま今の依存度の差になっている。LNGで進む融通の仕組みは緊急時のLNG、マレーシアから融通 JOGMECがペトロナスと枠組み合意 マレーシアは日本のLNG輸入先2位で15.7%で伝えている。

ホルムズ海峡「追加的な費用がない形で」 備蓄で当面をしのぐ

依存が偏っていると、中東から日本への航路が細ったときにそのまま効いてくる。首相は会見の冒頭で「中東情勢が緊迫化し、国際公共財たるホルムズ海峡において、自由で安全な航行が困難になっています」と述べた。中東メディアの記者からイラン情勢を問われると、「ホルムズ海峡において、『法の支配に基づく海洋秩序』が大きく揺らいでいることを強く懸念しています」としたうえで、「『追加的な費用がない形』で、『自由で安全な航行』が一刻も早く回復されることが重要です」と答えた。海峡の今後については、沿岸国と利用国、国際海事機関(IMO)を含む国際社会全体での議論が不可欠だとした。トルコのエルドアン大統領との首脳会談でも同じ立場を伝え、賛同が示されたという。

「追加的な費用がない形」という言い回しは、海峡を通れるかどうかだけでなく、通るために費用が上乗せされる事態も避けたい、という意味合いになる。湾岸からの供給の見通しはIEA、今年の世界石油供給を日量570万バレル減に下方修正 湾岸の回復は2027年へ先送り 米軽油は開戦前の1.94倍で伝えている。

当面の備えは備蓄が担う。資源エネルギー庁によると、日本は2026年2月時点で約8か月分の石油備蓄を持つ。国が持つ「国家備蓄」、石油備蓄法で精製業者などに義務づけられた「民間備蓄」、UAE・サウジアラビア・クウェートとの「産油国共同備蓄」の三つで構成される。政府は今年、国家備蓄原油の放出にも踏み切っており、4月24日には第2弾の放出を発表した。その後の経過はG7、石油備蓄1億バレルの協調放出で合意 最初の20日は軽油を前倒し 日本の国家備蓄は3月の146日分から102日分へ減っているを参照。LNGについては、電力・ガス会社が3月1日時点で400万トン弱の在庫を持ち、これはホルムズ海峡経由で届くLNG輸入量の1年分に相当するとしている。

「パワー・アジア」と湾岸諸国 法案の外側で進む外交

法案の外側では、外交の枠組みがすでに動いている。首相は4月15日、エネルギー強靱化に関するAZEC+オンライン首脳会合で「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ」、通称「パワー・アジア」の立ち上げを発表した。経済産業省によると、日本へのサプライチェーン上で課題を抱える現地企業向けに、政府系の3機関が金融面の協力にあたる。国際協力銀行(JBIC)は、2025年10月に設けた「日本戦略投資ファシリティ」の中に「POWERR Asia FAST ウィンドウ」を新設し、原油・石油製品の調達などを支える。日本貿易保険(NEXI)は、日本の商社が調達した原油を現地企業に売る取引に保険をかけて現地企業の信用力を補う。国際協力機構(JICA)は緊急円借款と海外投融資で相手国政府や企業を支える。所信表明演説でも首相は、パワー・アジアのもとで「備蓄システム構築や与信供与などの協力を進める」と述べている。JICAの緊急円借款は6月のバングラデシュ向けに続き、10月にカンボジア向け300億円の貸付契約が結ばれた(カンボジアに300億円の円借款 中東情勢受けた燃料価格対策など支援 パワー・アジアの下で)。

湾岸諸国に向けては、首相は9月22日の国連総会一般討論演説で「現在、日本は中東の湾岸諸国の経済・エネルギー強靱化に向けて、包括的な協力計画をまとめています」と表明し、会見でも同じ方針に触れた。中東から買う量を減らすだけでなく、売り手である湾岸側の経済とエネルギー供給を支えて、調達そのものを安定させる組み立てだ。赤澤経済産業相は10月11日、サウジアラビアで開かれた国際エネルギー・フォーラム(IEF)閣僚会合にオンラインで出席し、産油国と消費国の協力の必要性を訴えたうえで、日本が「中東の産油国とアジア諸国の結節点」として地域間の連携を強めていく考えを示した。会合の内容は産油国と消費国の閣僚会合、8年ぶりにリヤドで 米国がIEF復帰を表明 日本は「結節点」を掲げるで伝えている。UAEとの個別の協議は経産相、UAEと原油の安定供給で協議 「備蓄拡大」など5項目 輸入の4割を占める最大の相手で伝えている。国連総会の演説そのものは高市首相、国連憲章の「旧敵国条項」削除を国連総会で要求 「日本の誇りと名誉にかけて」 安保理は常任・非常任の双方拡大をを参照。