政府は9月17日、安全保障関連3文書の改定を議論する「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議」の第4回会合を開き、現行の国家安全保障戦略などがどこまで進んだかをまとめた資料を示した。内閣官房国家安全保障局と外務省、防衛省が連名で出した資料には、自衛隊の装備品の値段がこの3年でどれだけ上がったかが例示されている。哨戒艦は1隻あたり令和5年度予算の89億円から令和8年度予算では143億円になり、約6割高くなった。
哨戒艦、哨戒機、ヘリコプターがそろって値上がり
資料が挙げた3つの例は、いずれも上がり幅が大きい。哨戒艦は1隻89億円から143億円へ。海上自衛隊の哨戒機P-1は1機305億円から460億円へ上がり、約5割増えた。陸上自衛隊の多用途ヘリコプターUH-2は1機28億円から46.4億円へと、約66%高くなっている。比べているのはどちらも予算に計上した金額で、令和5年度と令和8年度の3年分の開きにあたる。
ただし資料は、この上がり方が物価だけで説明できるものではないと断っている。注記には「取得価格上昇の要因には能力向上や仕様変更も含む」とある。同じ名前の装備でも中身が変われば値段は動くため、3つの数字をそのまま物価上昇率と読み替えることはできない。
前提は1ドル108円、今年7月は157〜163円台
値上がりの背景として資料が挙げたのが、物価と為替である。国内企業物価指数は2022年に比べ、今年5月時点で約17%高い。企業物価指数は企業どうしが取引する物の値段を示す指標で、鋼材や電子部品のように装備品の材料になるものが多く含まれる。
為替の開きはさらに大きい。現行計画を作った2022年度に使った主なドル円レートは1ドル108円だった。資料は参考として、2022年の実際のレートが113円から151円台で推移していたことも併記している。これに対し、今年7月のレートは157円から163円台だった。装備品にはトマホークやF-35のように海外から買うものが多く、円安が進めば同じ買い物でも円で払う額が増える。
防衛費そのものの積み上がり方は、防衛費の概算要求は8兆8432億円 今年度予算の8兆9843億円を1411億円下回る 三文書の改定待ちで「事項要求」に積み残しで詳しく扱っている。年末の3文書改定を待つために金額を書き込まない「事項要求」が広く使われており、今回示された取得価格の上昇分も、その改定の中で扱われることになる。
政府の評価は「概ね計画通り」、ただし影響は認める
資料は全体として、現行の戦略と計画に基づく防衛力強化は「全体として着実に進捗」しているとしている。2026年度末時点で護衛艦は54隻、潜水艦は22隻、戦闘機F-35Aは86機、F-35Bは33機まで増える見通しで、統合作戦司令部の新設や陸上自衛隊第15旅団の師団への改編も進む。
そのうえで、物価と為替の影響については「効率化・合理化の取組等により、現在のところ各種事業は概ね計画通りに進捗」と書きつつ、「計画策定時に予定していなかった事業実施や、装備品の取得価格上昇による、取得への影響も一部あり」と認めている。値上がりを吸収しきれていない部分があるという説明にあたる。
装備品を作る側の事情も示された。防衛産業では低い収益や見通しの立ちにくさなどから事業を畳んだ企業があり、資料は2社を例に挙げている。1社は2026年に航空機の主脚ブレーキやホイールといった部品から、もう1社は2024年に回転翼機用の座席などから撤退した。いずれも理由は部門の利益率低下で、他社へ事業を引き継いで対応したという。部品が入らずに装備品が動かせない状態は改善が進んでいるものの、航空機を中心とした一部の装備品では、計画期間内に部品不足が解消しない見込みだとしている。
自衛官は2045年に約13万人まで減る恐れ
同じ資料は、人の面の見通しも示した。自衛官の現員は現行計画を作った2022年度に比べて約1万人減っており、このままだと2035年に約18万人(約4万人減)、2045年に約13万人(約9万人減)まで減る恐れがあるとしている。処遇改善などの効果で2025年度は新規採用者が増え、中途退職者は減ったが、現員そのものの減少は続いている。資料は「中長期的に現在と同水準の組織体制を維持することは困難」と踏み込んだ。
現員と定員の開きについては、自衛官の充足率88.1% 定員24万7154人に対し現員21万7701人 最前線を担う「士」は57.8%にとどまる 令和8年版防衛白書で令和8年版防衛白書の数字を扱っている。今回の資料は、その先にある20年後の姿を初めて数字で示したものにあたる。
3文書改定に向けた材料
この有識者会議は2022年9月22日の内閣総理大臣決裁で設けられ、今年4月20日に一部改正された。外交力・防衛力・経済力・技術力・情報力・人材力をまとめて「総合的な国力」と呼び、その観点から安全保障を検討する場と位置づけられている。第4回は9月17日午後1時から2時半まで、中央合同庁舎8号館で開かれ、議題は「総合的な抑止力・対処力強化のための政府横断的な取組」だった。
現行の3文書は2022年12月に決定されたもので、政府は年内の改定を目指している。今回の資料は、その改定の出発点として「現行計画がどこまで進み、どこが想定と違ったか」を政府自身が整理したものにあたる。物価と為替で装備品の値段が上がり、人は減っていく——年末の予算編成では、この2つをどう見込むかが論点になる。
