農林水産省は9月24日、地理的表示(GI)である「越前がに」について福井県越前町による不正な表示を確認したとして、同町に対し特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(平成26年法律第84号)第5条に基づく措置命令を出した。国が守る地域ブランド名を、その産地の自治体自身がふるさと納税の返礼品で誤って使っていた形である。

「越前がに」と呼べない「水がに」を過半超え混ぜていた

同省によると、越前町はふるさと納税ポータルサイトにおける表示責任者として、少なくとも2020年9月から2026年4月までの間、「越前がに」と表示できない福井県産ずわいがに(水がに)を原材料に過半を超えて混入した商品を、サイト上で「越前がに」と表示して掲載し続けていた。期間は5年8か月にわたる。同省はこの行為が、法第3条第2項が禁じる地理的表示の不正使用に該当すると認めた。

水がには、脱皮したばかりで甲羅が柔らかい状態のずわいがにを指す。同じ福井県産のずわいがにであっても「越前がに」の名は使えない。登録された明細書が出荷規格として、雄がには「甲幅9センチメートル以上。ただし、水がに(脱皮後の甲羅の柔らかい状態のかに)ではないものに限る」、雌がには産卵して腹部に卵を抱えた成熟がにで「発眼前の赤色の卵を抱えた『あかこ』ではないものに限る」と、はっきり除いているためだ。

越前がにの登録はこれだけではない。対象となるずわいがには、福井県沖およびその周辺海域(能登半島以西の日本海)で沖合底びき網漁業か小型機船底びき網漁業によって漁獲され、雌雄別に選別された上で、水揚げまで海水冷却装置を使った水槽か下氷を並べた魚箱で冷温保管されたものに限られる。水揚げ先も福井県内の漁港でなければならない。漁法から保管方法、甲羅の硬さまで条件を積み上げた名称であり、「福井県産のずわいがに」と同義ではない。

協力事業者側には「越前産水がに」など3類型の類似表示

同省はこのほか、複数の返礼品の協力事業者が提供する商品についても、ポータルサイト上で類似等表示があったことを確認した。旧国名の「越前」を冠した3類型で、(ア) 水がにやその加工品を「越前産水がに」「越前水がに」「越前産ずわいがに」と表記したもの、(イ) 紅ずわいがにやその加工品を「越前産紅ずわいがに」「越前紅ずわいがに」と表記したもの、(ウ) 黄金がにやその加工品を「越前産黄金がに」と表記したものである。これらも同じく法第3条第2項違反に当たるとした。

類似等表示とは、地理的表示に似ている表示や、これと誤認させるおそれのある表示をいう。同法施行規則第2条は、登録産品以外の農林水産物等に産地表示を伴わせたものや、「種類」「型」「様式」「模造品」といった表現を添えたもの、翻訳した表示などを含むと定めている。「越前産」と書き替えれば逃れられる、という作りにはなっていない。

命じられた5項目 報告書は1か月以内

命令の内容は5項目である。まず、登録に係る産品とその包装、容器、広告、価格表、取引書類の表示と登録標章の使用を直ちに点検し、違反があれば除去または抹消すること。次に、不適正な表示の原因を究明・分析すること。その結果を踏まえ、職員のほかふるさと納税の中間事業者と協力事業者に対して制度の啓発と遵守の徹底を図り、再発防止策を職員に周知徹底すること。今後違反する表示を行わないこと。そして、講じた措置の報告書を取りまとめ、1か月以内に農林水産大臣宛てに提出することを求めた。

同省が公表している指針では、措置命令は違反が故意または重大な過失によるとき、一時的でなく常習的なとき、社会的影響が大きいとき、同省の指導に従わなかったとき、登録生産者団体の改善指導に従わなかったときのいずれかに当たる場合に行うとされている。指導より一段重い処分である。命令に従わない場合の罰則も軽くない。同法第39条は表示の除去・抹消命令に違反した者を5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金に処し、併科もできると定め、第43条は法人に対して3億円以下の罰金刑を科すとしている。

ふるさと納税の返礼品をめぐっては、総務省が寄附額に対する経費の割合などを条件に自治体を毎年指定しており、2026年10月からの1年間は1781団体が対象になっている(ふるさと納税の対象は1781団体 2026年10月から1年間 今回の指定取消はゼロ 東京都と昨年除外の6市町は申し出ず)。今回の措置命令はこの指定制度とは別の、表示の適正さを問う枠組みによるものだ。

産地証明タグを国内で初めて付けたのは越前町の漁協だった

越前がには2018年9月27日にGI第69号として登録された。生産地は福井県、登録生産者団体は福井県漁業協同組合連合会である。名称は「越前がに」「越前かに」の両方が登録され、区分は第12類のずわいがにと、第24類のゆでずわいがにの2つにまたがる。同連合会は「越前がに」を商標としても登録しており、登録番号は第5089307号、登録は2007年11月9日、2017年8月8日に更新されている。

この名称が積み上げてきた信用の由来を、明細書はこう記す。福井県では1922年(大正11年)以降90年以上にわたって皇室へ県の特産品として献上され、1989年には県の魚に指定された。品質面では、1997年に越前町漁協が国内で初めて雄のずわいがにの脚に産地証明のタグを付け始め、1999年以降は県内の港で水揚げされる雄のずわいがに全体に広がった。雌についても2004年から国内で初めてタグの装着が始まっている。

つまり、産地を証明する仕組みを全国に先駆けて導入したのは越前町の漁協だった。その町を含む自治体側が、ポータルサイトの表示責任者としてこの名称を誤って使い、国から是正を命じられたことになる。返礼品の表示は中間事業者や協力事業者が実務を担う場面が多いが、法律上の責任は表示責任者に及ぶ。今回の命令が、同じ構図を抱える他の自治体にも点検を促すことになる。