政府は10月2日、閣議了解「ロシア連邦関係者に対する資産凍結等の措置等について」を行い、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく対ロシア措置を実施した。外務省・財務省・経済産業省が同日、連名で発表した。柱は、ロシアが制裁逃れに使っているとされる「影の船団」の船舶35隻を外務省告示で名指しし、日本の居住者がこれらの船にサービスを提供する際に財務大臣の許可を要するとした点だ。あわせてロシアの33団体・9個人を資産凍結の対象に加え、トルコとアラブ首長国連邦(UAE)の4団体への輸出等を禁じた。

船舶そのものを名指しするのは今回から

外務省の発表によると、規制対象の船舶は「国際平和のための国際的な努力に我が国として寄与するために講ずる特定の船舶に関する役務取引等の規制措置の対象となる船舶の国際海事機関船舶識別番号に関する件」(令和8年10月外務省告示第302号)で公示された。別添の一覧に載るのは35隻で、通し番号は1から35まで。直近2回の外為法措置(2025年9月12日、2025年1月10日)はいずれも団体・個人の指定や輸出禁止が中心で、船舶の指定は含まれていなかった。

5省庁(外務・財務・経産・金融庁・国土交通省)が同日公表したQ&Aは、この措置を導入した理由をこう説明している。日本は米国やEUなどとともに、一定の価格を超えるロシア産原油・石油製品の海上輸送に関わるサービス提供を許可制にしている。いわゆる上限価格(プライス・キャップ)制度で、2022年12月5日の閣議了解に基づくものだ。エネルギー価格の高騰を避けながらロシアの石油収入を減らす、という二兎を追う仕組みである。ところがロシアは「影の船団(Shadow Fleet)」を使って原油を運び、この枠組みをすり抜けていると報告されている。主要国が船舶への規制に踏み込んだのを受け、日本も同じ方向に動いた形だ。

上限価格そのものは昨年9月12日の措置で1バレル60ドルから47.6ドルへ引き下げられている。価格の線を下げても船が線の外で動いてしまう以上、船を直接押さえるしかない、という発想の転換といえる。米、対ロ制裁法が成立 ロシア産ガスの購入国に最大100%の関税 日本のLNG輸入の8.9%がロシア産、除外は「輸出全体の15%未満」が条件のように、米国は買い手の国にまで圧力をかける手法を法律で制度化しており、主要国の制裁は「売らせない」から「運ばせない・買わせない」へと重心を移しつつある。

許可制になるのは6分野のサービス 貨物保険は対象外

Q&Aは、許可制となるサービスを6つに整理している。海上運送法に基づく海運サービス、船員職業安定法に基づく船員職業紹介・船員派遣、水先法に基づく水先(水先人が船に乗り込んで安全に導く業務)、造船法・小型船造船業法に基づく修繕、保険業法などに基づく保険、そして金銭の貸付や債務保証などの金融サービスである。

保険には線引きがある。対象は船舶保険と船主責任保険、およびその再保険に限られ、積み荷にかける貨物保険や損害賠償責任保険は規制の対象外とされた。また、規制がかかるのは日本の居住者が非居住者に対して行うサービス提供で、非居住者から居住者へ、あるいは居住者同士のものは対象にならない。

船名ではなくIMO番号で公示

告示に載るのは船の名前ではなく、国際海事機関船舶識別番号(IMO番号)だけだ。Q&Aは「船舶名称は変更が可能であることも踏まえ」IMO番号のみを公示すると説明している。IMO番号は船に与えられる固有の番号で、SOLAS条約(海上人命安全条約)と船舶安全法施行規則により、国際航海に従事する総トン数100トン以上の旅客船、または300トン以上の貨物船に取得・表示が義務づけられている。廃船になるまで変わらない。船名や旗国を次々に替える「影の船団」の手口に対し、替えられない番号で特定する狙いがある。

実務では、銀行などの金融機関が外為法17条に基づく確認義務を負う。ただし義務の対象は資本取引に伴う支払等に絞られ、役務取引に係る支払等は「取引当事者がその業務を行う態勢の中で遵守を図っていくほうが規制の実効性を担保する上で有効」との理由で確認義務から外された。外国為替取引等取扱業者には、35隻のリストを送金電文のフィルタリングに加える対応が求められる。

資産凍結の対象は33団体 アラブガ経済特区の企業やロステック幹部

資産凍結等の対象に加わった33団体には、タタールスタン共和国の経済特区アラブガ(OEZ Alabuga)に所在地を置く3社が並ぶ。アラブガ・デベロップメント有限会社、有限会社ドレイク、有限会社アラブガ・マシナリーで、いずれも告示の別添には同じ区画の住所が記載されている。このほか有限会社ウラルドローンザヴォド、兵器技術開発製造基金ロバエフ基金、株式会社トゥーラ・マシン・ビルディング・プラント、株式会社コロメンスキー工場、株式会社53アーセナル、カルーガ・リサーチ・インスティテュート・オブ・ラジオ・エンジニアリング株式会社などが対象となった。別添の通し番号は370から402までで、今回は特定銀行の追加指定はなかった。

9個人は、指定企業の経営者が中心だ。ロステックの副ゼネラル・ディレクターのドミートリー・レリコフ氏、同社ディレクターのヴァシーリー・ブロフコ氏、ロバエフ基金元総裁のヴラジスラフ・ロバエフ氏などが並ぶ。告示には氏名のほか生年月日と役職が記載されている。通し番号は760から768まで。これらの者に対する支払いと、預金・信託・金銭貸付といった資本取引が許可制になる。

輸出等の禁止措置を新たに受ける第三国の4団体は、トルコのソリド・タリム・イノヴァション株式会社と、UAEのアメジノFZE、オート・パーツ・イーストFZCO、モト・エクスポートDWC有限会社。通し番号は57から60までとなった。ロシア・ベラルーシ以外の国の団体を名指しする枠組みは以前からあり、昨年9月の措置では9団体、昨年1月の措置では31団体が指定されている。このほか、ロシアの産業基盤強化に資する物品等の輸出等の禁止措置も導入されたが、連名発表には対象品目の内訳は記載されていない。

適用は10月2日から 既存契約は11月1日前まで猶予

措置は10月2日の官報掲載以後の取引・行為に適用される。Q&Aは「同日の午前0時に遡及して適用されることはありません」と明記した。適用時点より前に結ばれた契約に基づく取引は11月1日前までは規制の対象外だが、既存契約でも内容の変更が生じ、それが適用時点以降に行われる場合は規制がかかる。

人命の救助や災害救援など緊急の必要がある場合、船舶への役務取引は適用対象外となる。緊急でなくても人道上の理由などが認められれば許可される場合がある、としている。違反には外為法70条1項7号・18号の罰則が適用される。適用期限は設けられておらず、措置を終える際に改めて知らせるという。

日本政府はウクライナ侵略後、制裁と支援の両面でウクライナ側に立つ姿勢を続けてきた。9月には森衆院議長がウクライナを訪問 ロシア侵略後、日本の国会議長として初 ゼレンスキー大統領・コレツキー首相と会談するなど政治レベルの関与も進んでいる。今回の措置は、その流れの中で日本の規制が「人と企業」から「船」へと対象を広げたものだ。