高市早苗首相は10月19日夜、都内で開かれた日本経済団体連合会(経団連)の創立80周年記念パーティに出席し、挨拶した。首相は、日本経済が持続的な「成長の好循環」につなげられるかどうかの「分岐点に立っています」と述べ、年内に策定する「日本成長戦略 実行計画」で今後5年間の国内投資の道筋を明らかにすると表明した。経団連の筒井義信会長が掲げた「2040年度には250兆円」という国内投資目標にも触れ、経済界に「大胆な投資」と「賃上げ」への取り組みを求めた。挨拶の全文は首相官邸の「総理の一日」に掲載されている。

「流れが確実に変わり始めている」 3年連続の5%台賃上げに言及

首相は冒頭、経団連の創立80周年に祝意を述べたうえで、日本経済の現状認識を語った。日本経済は「デフレ的な経済構造」の中で停滞を経験してきたが、企業の賃上げの努力とこれまでの経済政策が実を結びつつあり、「流れが確実に変わり始めています」と述べた。具体的には、3年連続で5%台の賃上げが実現したこと、2025年度の国内の民間企業設備投資が過去最高水準に達したことの2点を挙げた。

そのうえで、「この変化の兆しを一時的なものに終わらせてしまうのか、それとも持続的な『成長の好循環』につなげていくのか、日本は今、その分岐点に立っています」と語り、政府と経済界がそろって投資と賃上げを続ける必要性を訴えた。パーティの会場では「予算委員会が終わった閣僚達もたくさん来ております」とも述べており、国会審議の合間を縫っての出席だったことがうかがえる。

実行計画の重点は「足元の収益源」「今後の稼ぎ頭」「経済安全保障」

首相は、高市内閣が「責任ある積極財政」のもとで「日本成長戦略」と「地域未来戦略」を両輪とし、予算編成方針も大胆に見直したと説明した。政府が一歩前に出て「民間投資の呼び水」として、大規模かつ長期で予見可能性の高い財政支出を計画的に行い、大胆な国内投資を引き出すという考え方だ。

年内に策定する「日本成長戦略 実行計画」については、「足元の収益源」「今後の稼ぎ頭」「経済安全保障の強化」の重点分野を中心に、今後5年間の国内投資の道筋を明らかにすると述べた。あわせて、労働市場や金融などの「横断的課題」に対する総合的な施策と、思い切った「規制・制度改革」を実現するとも語った。

実行計画をめぐっては、経済安全保障分野の投資を特別会計で別枠管理し、「つなぎ国債」で財源を前倒しで調達する枠組みの検討も進んでいる。経緯は経済安保の投資を特別会計で別枠管理へ 償還財源の裏付けのある「つなぎ国債」で前倒し調達 高市首相「来年度予算から実行」 成長戦略実行計画は年末で伝えている。

経団連は7月の提言で「2040年度に250兆円」を提起

首相が挨拶で触れた国内投資目標は、経団連が2026年7月24日に公表した提言「投資牽引型経済の実現~将来世代に明るい未来を~」に盛り込まれたものだ。提言は、国内の民間設備投資額を2040年度に250兆円へ拡大する目標を掲げ、「投資牽引型経済」への転換を主導することで「成長と分配の好循環」の実現を目指すとしている。研究開発投資については、官民合わせて国内総生産(GDP)比5%という世界トップ水準に引き上げ、2040年に年間50兆円を達成すべきだとした。

提言はこの実現に向けて、科学技術立国の実現、税・財政・社会保障の一体改革、人的投資の拡充に向けた労働改革、地域経済社会の活性化、自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化と経済安全保障への配慮、エネルギーの安定供給とグリーン・トランスフォーメーション(GX)の推進、コーポレートガバナンス改革の7項目に重点的に取り組むとしている。首相は挨拶でこの目標を「野心的な国内投資目標」と評し、「政府の動きにも呼応していただき、『大胆な投資』と『賃上げ』に取り組んでいただきますことを、切に切にお願い申し上げます」と経済界に求めた。

経団連と政権の関係をめぐっては、経団連が10月に公表した「主要政党の政策評価2026」で自民党と日本維新の会を与党欄に並べる変化もあった。詳細は経団連「主要政党の政策評価2026」 与党欄は自民と維新、公明は野党欄に移るで伝えている。

「日本成長戦略」は7月21日に閣議決定 分科会で検討が進む

内閣官房によると、「日本成長戦略」の司令塔となる日本成長戦略本部は、2025年11月4日の閣議決定で設置された。戦略本体は2026年7月21日に閣議決定され、現在は年内の実行計画の策定に向けて、有識者を交えた日本成長戦略会議と、「危機管理投資」「成長投資」の戦略分野ごとの分科会で検討が続いている。10月16日には第5回の戦略分野分科会が開かれた。

首相の挨拶は、この実行計画づくりが大詰めを迎える時期に、投資拡大の方向性を経済界のトップが集まる場で直接語ったものといえる。政府の財政支出を呼び水に民間の投資を引き出すという枠組みは、企業側がどれだけ国内投資に踏み出すかに実効性がかかっており、経団連の250兆円目標とかみ合うかが今後の焦点になる。

経団連は1946年設立 80年の節目

経団連の公式サイトによると、前身の経済団体連合会は終戦直後の1946年8月16日、日本経済の再建・復興を目的として設立された。初代会長は石川一郎氏で、2026年は設立からちょうど80年にあたる。1948年には適正な労使関係の確立を目的に日本経営者団体連盟(日経連)が発足し、2002年に両団体が統合して現在の日本経済団体連合会となった。

日本を代表する企業と業種別団体などで構成する総合経済団体として、政府への政策提言や政党の政策評価を続けてきた。首相は挨拶の結びで「皆様の益々の御活躍と日本経済団体連合会の御発展を祈念申し上げます」と述べた。