総合コンサルティング大手アクセンチュアの日本法人、アクセンチュアは10月30日、東京証券取引所グロース市場に上場するサイバーセキュリティ会社のグローバルセキュリティエキスパート(GSE)の株式を、株式公開買付け(TOB)で取得すると発表した。買付価格は1株8500円で、期間は11月2日から12月15日まで(30営業日)。GSEは同日の取締役会でTOBへの賛同を決め、株主に応募を勧めた。GSE株の約6割を持つ大株主2社は応募せず、TOBの後の手続きで株式を手放す契約を結んでいる。成立すればGSEはアクセンチュアの完全子会社となり、上場廃止となる見通しだ。

1株8500円、大株主2社は応募せず後で売却

開示資料によると、アクセンチュアは現在、GSE株を1株も持っていない。GSEの筆頭株主はビジネスブレイン太田昭和で、株式の39.57%(600万6000株)を持つ。2位の兼松エレクトロニクスは20.27%(307万6000株)を持ち、2社で計59.83%になる。アクセンチュアは10月30日、この2社とそれぞれ「公開買付不応募契約」を結んだ。2社はTOBに応募せず、TOBの後に開く臨時株主総会で株式を集約する議案に賛成し、その後、持ち株をすべてGSEに売り渡す。

2社がGSEに売り渡す価格は、ビジネスブレイン太田昭和が1株5835円、兼松エレクトロニクスが1株6918円と、TOB価格の8500円より低い。会社が自社株を買い取ると、法人株主が受け取る代金の一部は配当とみなされ、課税の対象から外れる部分がある。アクセンチュアは、2社の税引き後の手取りがTOBに応募した場合と同じになるよう価格を決めたと説明している。2社の価格が違うのは、税率と、株式を取得したときの価格が異なるためだという。アクセンチュアはこの仕組みを、株主間の公平に配慮しつつ、TOB価格を最大にするために2社へ提案したとしている。

TOBには買い付ける株数の下限があり、98万3100株(議決権ベースで6.48%)に届かなければ成立しない。下限は、大株主2社の議決権と合わせて、株式の集約に必要な株主総会の特別決議(3分の2以上)を確実に通せる数として設定した。上限は無く、応募はすべて買い取る。応募しなかった株主の株式は、株式併合によって最終的に金銭で買い取られる。決済は12月22日に始める。アクセンチュアは決済の資金として、グループの資金を一括管理するアクセンチュア・ファイナンスから600億円の支払いを受ける予定だ。

GSEは同日、TOBの成立を条件に、1株24円56銭を予定していた2027年3月期の期末配当を無配にすると発表した。9月30日を基準日とする中間配当の1株24円55銭は、予定どおり12月7日に支払う。株主優待制度も廃止し、9月30日を基準日とする分を最後とする。アクセンチュアの買付価格が、期末配当を出さないことを前提に決められているためだ。

4650円から4回の提案、GSEは引き上げを繰り返し求める

価格は約4か月の交渉で決まった。アクセンチュアは6月18日、法的拘束力の無い初回提案で1株4650円を示し、6月23日には6300円に引き上げた。資産や事業の詳しい調査(デュー・ディリジェンス)を8月下旬から9月下旬まで行い、10月1日に法的拘束力のある提案として8000円を示した。

アクセンチュアが示したTOB価格(1株)(円)

02,5005,0007,50010,0004,6506月18日6,3006月23日8,00010月1日8,50010月7日
法的拘束力のある提案は10月1日の8000円から。8500円は「最善にして最終の提案」とされた出典: GSE「アクセンチュア株式会社による当社株券等に対する公開買付けに関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」
数値で見る(単位: 円)
項目円
6月18日4,650
6月23日6,300
10月1日8,000
10月7日8,500

GSEと、社外取締役3人でつくる特別委員会(委員長・井上純二社外取締役)は10月2日、8000円は企業価値と一般株主の利益に照らして「受け入れられない水準」だとして再検討を求めた。アクセンチュアは10月7日、これ以上は見直さない前提の「最善にして最終の提案」として8500円を示した。GSE側はその後も、10月16日、21日、27日の3度、株価の動きなどを理由に引き上げを求めたが、アクセンチュアは8500円を変えなかった。GSE側は10月29日に8500円を受け入れると回答した。

この間、GSEの株価は上がり続けた。8500円は、発表前日の10月29日の終値7980円を6.52%上回るにとどまる。過去6か月の終値の平均4480円と比べると89.73%高い。GSEは、株価が9月中旬以降に急騰していることから長い期間の平均と比べるのが適切だと説明する。8500円は、上場以来の終値の最高値である8250円(10月28日)も上回るという。GSEが依頼した第三者算定機関のJ-TAPは、1株の価値を市場株価法で4480円から7980円、将来の収益から割り引くDCF法で6262円から9467円と算定した。8500円はDCF法の範囲の中で、中央値を上回る。

GSEの取締役13人のうち、大株主2社やその子会社に在籍していた、または取締役を兼ねる4人は、利益相反を避けるため審議と決議に加わらなかった。残る9人が全員一致で賛同を決めた。

中堅・中小企業向けの教育と人材派遣

GSEは1984年、ビジネスブレイン太田昭和の連結子会社「ホスピタル・ブレイン昭和」として設立され、2000年に現在の社名になった。2021年12月に東証マザーズに上場し、2022年4月の市場区分の見直しでグロース市場に移った。「サイバーセキュリティ教育カンパニー」を掲げ、事業は三つある。

一つ目は、準大手・中堅・中小企業を主な対象に、セキュリティ製品の選定・導入や監視・運用、事故が起きたときの初動対応を請け負うサイバーセキュリティ事業だ。攻撃メールをまねた無害なメールを社員に送り、開封した人に教育画面を出す標的型メール訓練(トラップメール)や、社員向けのeラーニングもここに含まれる。二つ目はセキュリティ教育事業で、2016年に販売代理店契約を結んだ米EC-Councilの技術者向け認定講座と認定資格試験を国内で提供している。三つ目のセキュリティ人材事業は、提携先企業のIT技術者をGSEの講座でセキュリティ人材に育て直し、顧客企業に派遣する。2024年4月に子会社のCyberSTARへ分割した。

業績は伸びている。10月30日に発表した2026年4〜9月期の連結決算は、売上高が61億5000万円で前年同期比24.0%増、営業利益は12億7600万円で32.9%増だった。投資有価証券の売却益も加わり、最終利益は12億7300万円と前年同期の2.2倍になり、中間期として過去最高を更新した。

大手中心のアクセンチュア、補い合う顧客層

買う側のアクセンチュアの親会社は、ニューヨーク証券取引所に上場し、アイルランドのダブリンに登記を置くアクセンチュアplcだ。開示資料によると、2025年9月から2026年8月までの1年間の連結売上高は742億ドル。サイバーセキュリティ事業の2025年度の売上規模は約90億ドルで、約3万人の専門家が24か国54拠点で4500社超を支援する。日本では大手企業向けを中心に事業を展開している。

アクセンチュアは2026年初めからサイバーセキュリティ事業の強化を検討し、2月27日、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の紹介でGSEの経営陣と初めて面談した。開示資料では、両社の補い合う点を三つ挙げる。顧客は大手中心のアクセンチュアと、準大手・中堅・中小企業のGSEで重なりが少なく、互いの販路を使える。人材では、GSEのIT技術者をセキュリティ人材に育てる仕組みに、アクセンチュアの採用力と研修を組み合わせ、両社の事業拡大を阻んでいる人材不足に対応する。技術では、GSEがサービスを通じてためた知見とアクセンチュアのAI関連技術を合わせ、AIを使った監視・運用サービスを高度にする。アクセンチュアは調査の過程で、自社だけでは十分に対応できていない中堅・中小企業への一貫したサービスに本格的に参入できると判断したとしている。

国内のセキュリティ人材不足は政府も課題に挙げている。経済産業省は、高性能のAIで模擬攻撃を行い弱点を探すホワイトハッカーのチームを情報処理推進機構(IPA)に置く方針を示した(経産相、IPAにホワイトハッカーチームを11月中に設置へ AIで模擬攻撃し弱点探す)。GSE自身も、生成AIの活用拡大などを背景にサイバー攻撃が高度化し、高度な専門性を持つ人材の不足が業界全体の課題になっていると開示資料で説明している。

今後の手続き

TOBの手続きの詳細は、アクセンチュアが11月2日に提出する公開買付届出書で示される。TOBの代理人は三菱UFJモルガン・スタンレー証券が務める。TOBが成立すれば、アクセンチュアはGSEに臨時株主総会の開催を求め、株式併合で株主をアクセンチュアと大株主2社だけにする。その後、2社の持ち株をGSEが買い取り、アクセンチュアだけが株主となる。この過程でGSE株は東証の上場廃止基準に当たり、所定の手続きを経て上場廃止となる。

上場廃止後、GSEがアクセンチュアの中でどのような体制で事業を続けるかは決まっていない。アクセンチュアは開示資料で、成立後に相乗効果を最大にするための体制を、GSEの意向も踏まえて検討し、取引の完了後に一定の検討期間を設けて協議するとしている。GSEの株主は、12月15日までにTOBに応募するか、応募せずに株式併合の後で金銭を受け取るかを選ぶことになる。