セキュリティ事故の情報を集める一般社団法人JPCERTコーディネーションセンター(JPCERT/CC)は10月23日、国内の組織で相次ぐ不正アクセスと個人情報の漏えいについて10月8日に出した注意喚起を更新し、確認された攻撃の類型に「AIを用いたペネトレーションテスト基盤を悪用した攻撃試行」を加えた。「Cairn」「CyberStrikeAI」「ARTEX」などのツールを使い、インターネットに公開されたWebアプリケーションの脆弱性を探って悪用を試みるもので、組織内でソフトウェアの更新を配る「WSUS」サーバーを狙った試行も含まれる。JPCERT/CCは攻撃元とみられるIPアドレス9件を公表し、これらからの接続が無かったかを調べるよう求めている。

公開から2週間余りで2度目の更新

注意喚起は10月8日に公開された。JPCERT/CCは、2026年9月前後に国内組織で不正アクセスによる個人情報などの漏えい被害が相次いでいるとし、技術的な情報の共有が不足していて把握できている情報は「限定的かつ断片的」だとしながらも、被害が広がっている状況を踏まえて注意を促すとした。普段から散発的に起きているランサムウェア攻撃とは別に、大量の個人情報の漏えいにつながり、特に増えている恐れのある攻撃の型を取り上げると位置づけている。

改訂履歴によると、翌9日に「概要」と「確認されている攻撃手法や攻撃の痕跡」に情報を追記し、23日に2度目の追記をした。23日の更新では、攻撃手法の項に「ケースE」を新設したほか、スマートフォンアプリを手がかりにした攻撃(ケースB)に不審な送信元IPアドレスなどを足し、参考情報の欄にJPCERT/CC自身の調査報告や他機関・企業の分析を加えた。

これまでに示されていた類型は4つある。さまざまなソフトウェアの既知の脆弱性を探して攻撃を試みるもの(ケースA)、アプリの管理用API(外部からシステムを操作する接続口)への不正な要求で情報を書き換えるもの(ケースB)、データ分析ツール「Metabase」のSQLインジェクションの脆弱性(CVE-2026-72898)を悪用するもの(ケースC)、公開Webサーバーから届くアプリケーションサーバーに不正なプログラム(Webシェル)を置くもの(ケースD)だ。最初の4類型の中身は、大規模漏えい相次ぎ、国と専門機関が3日で注意喚起 委託先の点検や不要データの消去を要求で報じた。

JPCERT/CCは、これらの情報は寄せられた報告などに基づくもので、すべての事案で同じ攻撃手法が使われたことを示すものではないと断っている。一つの共通する脆弱性を突いているのではなく、標的ごとに既知の脆弱性の有無を調べて悪用を試みている可能性があるという。

AIの侵入試験ツールを攻撃に転用

新たに加わったケースEの名前にあるペネトレーションテスト(侵入試験)は、本来は守る側の手法である。システムの持ち主が専門家に依頼し、実際の攻撃者と同じやり方で侵入を試みてもらい、弱点を洗い出す。その作業をAIで自動化する基盤が、攻撃に使われているということになる。

JPCERT/CCによると、Cairn、CyberStrikeAI、ARTEXなどの基盤を悪用し、主にインターネットに公開されたWebアプリケーションを標的に、さまざまな脆弱性を探して悪用を試みたり、機器の管理の不備を突いて環境設定ファイルやバックアップファイルを盗み出そうとしたりする攻撃を確認した。環境設定ファイルには、データベースへの接続情報などが書かれていることがある。

標的には、インターネットに公開されたWSUSサーバーも含まれていた。WSUS(Windows Server Update Services)は、組織の中のパソコンやサーバーに米マイクロソフトの更新プログラムをまとめて配るための仕組みで、組織内の多数の端末とつながっている。

JPCERT/CCがケースEの不審な送信元として示したIPアドレスと、攻撃の観測日または攻撃の基盤が動いていたと推定される期間は次の通り。

送信元IPアドレス 観測・推定期間(日本時間)
31.59.92[.]155 10月4日〜20日
31.56.206[.]187 9月27日〜10月20日
38.244.50[.]120 記載なし
46.8.227[.]73 9月27日〜10月19日
64.44.24[.]195 10月15日〜
94.183.184[.]98 10月13日〜19日
94.183.184[.]254 10月3日〜20日
95.182.99[.]112 10月4日〜19日
176.65.144[.]71 9月23日〜10月17日
JPCERT/CCがケースE(AIを用いたペネトレーションテスト基盤の悪用)の不審な送信元として示したIPアドレス出典: JPCERT/CC「直近で相次いでいる国内組織における不正アクセスに関する注意喚起」(10月23日更新)

最も早いものは9月23日から観測され、終わりの日付が書かれた7件のうち6件は10月19日か20日まで動いていた。10月15日から観測されている1件は終わりの日付が書かれていない。JPCERT/CCは、これらのアドレスは調査時点では正規に使われている可能性もあり、記載の期間以外にも攻撃が試みられている可能性があると注記している。アドレスの「.」を「[.]」と書くのは、誤ってリンクとして開かれないようにするための慣行である。

アプリ解析の攻撃は注意喚起の公開当夜にも

スマートフォンアプリを解析してAPIの接続先やキーを割り出すケースBでは、送信元IPアドレスが1件追加された。210.149.87[.]33で、観測されたのは10月8日夜から9日未明にかけて。注意喚起が公開された当日の夜にも、同じ手口の攻撃が続いていたことになる。更新前から掲載されていた3件は、9月21日から10月6日までの観測だった。

この手口は、情報通信研究機構(NICT)が「A2B攻撃」と名付けて10月13日に注意を呼びかけたものと入り口が共通する(A2B攻撃とは 公開Androidアプリを解析してサーバを攻撃、NICTが情報漏えいの原因の一つと特定)。JPCERT/CCは23日の更新で、このNICTの注意喚起も参考情報に加えた。

攻撃に使われた通信の特徴として、JPCERT/CCは利用者の端末やソフトを示すUser-Agentの例に「公開されているアプリと同じUser-Agent」を書き足した。これまでの例は「curl」や「python-requests」といった汎用の通信ツールの名前だった。攻撃側が正規のアプリを装って通信していた場合、名乗りだけを見て正規の利用者と区別することはできない。

また、示したアドレス以外にも、IPアドレスによる接続制限をかいくぐったり接続を多重化したりする目的で、匿名化ネットワーク「Tor」の出口や、一般家庭の回線を経由する「レジデンシャルプロキシ」を通じた接続を確認しているという。通信の暗号化の手順から端末を見分ける指紋(JA4)も掲げたが、一般的なPythonの通信ソフトと同じ値で、単独では識別に使えないとしている。

攻撃元サーバーには国外向けアプリも

JPCERT/CCが23日に参考情報に加えた自身の調査報告は、10月15日に公式ブログで公表したものだ。複数の組織と連携して攻撃に使われた可能性のある基盤を調べる中で、攻撃者がAIを使い、既知の脆弱性の調査(スキャン)やAPI経由での攻撃を実施していたことを確認したという。こうした攻撃元サーバーはインターネット上に複数あり、日本以外の地域向けのWebサービスも攻撃していた。

報告は3台のサーバーの調査結果を示している。1台目では、攻撃者がAndroid向けアプリの配布ファイル(APKファイル)を解析し、関連するAPIに、サーバーに別の場所へ要求を送らせる「SSRF」の脆弱性が無いかを調べていた痕跡が見つかった。このサーバーには、日本以外の地域向けに提供されているアプリが保存されていた。

2台目には、複数のAPKファイルとともに、アプリ開発の枠組み「Flutter」で作られたアプリの解析に使う「Blutter」や、Androidアプリの解析ツール「jadx」に関連するファイルがあった。3台目は今回の一連の攻撃と直接の関係は無いが、Webアプリケーションに加えデータベースの「MySQL」や開発用の「Jenkins」サーバー、メールの中継装置を狙う手法のファイルがあり、端末を守る監視ソフト(EDR)を回避しようとした痕跡や、標的の内部に置いたとみられるWebシェルも確認した。JPCERT/CCは、攻撃者がネットワークの内部への侵入を試みていたとみている。

報告は付録で、アプリの中に共通の秘密鍵やAPIの認証に使う秘密情報を埋め込むと、それを抜き出されて正規のアプリを通さない要求を作られる恐れがあると指摘した。秘密鍵や有効期間の長い認証情報をアプリに埋め込まないこと、アプリ内の署名処理や難読化だけに頼らずサーバー側で利用者の認証と操作ごとの認可を行うことなどを推奨している。

求められる点検と対策

注意喚起は対策として、APIへの単位時間あたりの要求件数を制限すること、ログインやパスワードの再設定、SMS送信など悪用の危険が高い機能には個別に回数の制限をかけること、公開していないAPIを含むすべての接続口で接続を制御すること、APIの利用者やトークン(認証用の文字列)に必要最小限の権限だけを与え、有効期限を設けることを挙げた。

あわせて、利用地域が限られるサービスでは接続元の地域を制限する、既知の脆弱性がある版で運用していれば修正版を適用する、業務に要らない管理機能などがインターネットに公開されていれば公開をやめる、保存期間を過ぎたデータや利用目的を終えたデータを残さない――といった汎用の対策も求めている。従業員向けのシステムや分析ツールなど、不特定多数からの接続を想定していないシステムが被害に遭う例もあるとして、そうしたシステムも点検するよう重ねて促した。

参考情報には、JPCERT/CCの調査報告とNICTの注意喚起のほか、サイバーセキュリティクラウドの「国内で相次ぐ不正アクセス、AIエージェントによる攻撃の可能性」、セキュアスカイ・テクノロジーの「AIエージェントによるウェブサイトへの攻撃の注意喚起」、Cairnの内部を分析したNorForgeの報告が加わった。相次ぐ漏えい事案の全体の動きはサイバー攻撃と情報漏えいの全体像 ランサム被害は最多123件、入口はVPNと委託先にまとめている。

JPCERT/CCは、不審な接続や侵害が疑われる事象、攻撃手法などの情報があれば提供するよう呼びかけている。攻撃の標的になっている可能性がある組織を把握した場合はその組織に連絡しているといい、連絡を受けたら対応するよう求めた。侵害の原因や手口について新しい情報が分かれば、注意喚起をさらに更新するとしている。