防災庁は発足日の11月2日、国民、地方自治体、国の府省庁の三者に向けて「事前防災徹底のための緊急要請」を出した。国民には住宅の耐震化や家具の固定、水と食料を「最低3日間、できれば1週間分」備えることなどを求め、都道府県には避難所の備蓄や応援の受け入れ態勢など8項目の点検を、13の府省庁には首都直下地震の後も1週間庁舎で業務を続けられる備えなどを求めた。都道府県と府省庁は年内に取り組みの状況を報告し、著しい問題があれば防災大臣が勧告する。

国民へ 耐震化と「最低3日、できれば1週間分」の備蓄

国民向けの要請は、細野豪志防災大臣の名前で「国民のみなさまへ」と題して出された。千島海溝地震、日本海溝地震、首都直下地震、南海トラフ地震、富士山噴火を「国難級の災害」として挙げ、政府は防災庁を置いて国・都道府県・市町村が一丸で対応するとしたうえで、「行政だけによる対応には限界がある」として、一人一人が「自らの命は自らが守る」ことを求めている。

呼びかけは5項目ある。一つ目は住宅の耐震診断と耐震化、家具の固定だ。昭和56年以前に建てられた家は耐震診断を受けるよう求め、改修費用の負担が大きい場合は、寝室や居間など一部だけでも補強して家の中に安全な空間をつくることも考えられるとした。「固定していない家具は必ず倒れると思ってください」とも書き、家が無事でも家具の下敷きで命を落とすことがあると注意を促している。

二つ目が備蓄だ。「大災害では、すぐに助けが来るとは限りません」として、水と食料を最低3日間、できれば1週間分備えるよう求めた。飲料水は調理に使う分も含めて1人1日3リットルが必要だとし、携帯用トイレやティッシュ、トイレットペーパーといった生活用品も挙げた。普段使う物を多めに買い、使った分を補充する習慣も勧めている。1人暮らしで1週間分を備えるなら、飲料水だけで21リットルになる計算だ。

残る3項目は、ハザードマップで自宅や職場の危険と避難場所・避難経路を確かめること、すぐに要る物と無いと困る物をリュックなどにまとめて玄関近くに置くこと、地域の防災訓練に参加して安否確認や炊き出し、簡易トイレの使い方を体験しておくことである。

自治体へ 避難所の近くにベッド・トイレ・食料を

地方自治体向けは、防災庁事務次官の名前で各都道府県知事に宛てた通知で、市町村長宛ての内容を別添に付けた。発災時には「市町村を支える都道府県の役割が特に重要」だとして、都道府県に対し、自らの取り組みに加え、市町村の実施状況も点検し、必要な支援をするよう求めている。通知は地方自治法245条の4第1項に基づく「技術的助言」と明記されている。

点検を求めた項目は8つある。防災人材の育成、外部からの応援を受け入れる受援体制の確保、避難生活の環境の改善、災害協定の締結と実効性の確保、災害中間支援組織、避難が難しい人ごとの個別避難計画の作成、帰宅困難者対策、応急仮設住宅を建てる候補地の事前選定である。

最も細かく書き込まれたのは避難生活の環境だ。想定する避難者数を受け入れられるだけの避難所を確保し、簡易ベッドやパーティション、携帯トイレや簡易トイレ、支援物資が届くまでの飲料水と主食を「各避難所又はその近傍において確実に備蓄する」よう求めた。備蓄量は国の新物資システム「B-PLo」の登録を常に最新に保つよう求めている。酷暑や厳冬の避難を想定し、避難所になる公立学校や公民館への空調の整備も挙げた。トイレ・キッチン・ベッド・バス(入浴)の頭文字を取った「TKBB」の考え方で、キッチンカー事業者や栄養士会との協定、入浴支援を行う団体や民間の温浴施設との協定も促している。

受援体制では、日本海溝・千島海溝地震の防災対策推進地域、首都直下地震の緊急対策区域、南海トラフ地震の防災対策推進地域で受援計画をまだ作っていない市町村に、速やかな策定を求めた。都道府県には、災害対策本部の近くに政府の現地対策本部のためのスペースを確保するよう求めている。市町村長宛ての別添では、市町村長自身が「全国防災・危機管理トップセミナー」を受講することも項目に入った。

防災庁は、各都道府県を担当する「ふるさと防災職員」が、都道府県が指名する「地域防災連携推進員」と連携して自治体の取り組みを支えるとし、「防災力強化総合交付金」などの支援制度も使って早急に進めるよう求めた。

13府省庁へ 首都直下でも1週間庁舎で業務、所管の企業にBCP

国の機関向けは、防災大臣の名前で内閣総理大臣、警察庁長官と、総務、法務、外務、財務、文部科学、厚生労働、農林水産、経済産業、国土交通、環境、防衛の各大臣の計13人に宛てて出された。

1つ目の項目は各府省庁自身の業務継続計画(BCP)の点検と見直しだ。非常時に参集する職員の確保状況を点検するとともに、首都直下地震の発生後1週間にわたり、職員が庁舎に常駐して交代で優先業務を続けられるよう、什器の固定や食料、飲料水、燃料、災害用トイレ、電力の確保を徹底するよう求めた。2つ目は、南海トラフ地震防災対策推進基本計画(令和7年7月中央防災会議決定)と首都直下地震緊急対策推進基本計画(令和8年6月閣議決定)に掲げた具体目標に基づく取り組みの強化である。

3つ目は、各府省庁が所管する企業や団体への働きかけだ。建物の耐震化や什器の転倒防止、従業員の安否確認や指揮命令の体制づくり、食料・飲料水・医薬品・トイレの備蓄などを挙げたうえで、BCPの策定を促すよう求めた。要請文によると、政府は令和17年までにBCPの策定率を大企業で100%、中堅企業で80%とする目標を掲げているが、令和7年度の調査では大企業75.8%、中堅企業54.8%にとどまっている。

企業のBCP策定率(令和7年度調査)と政府目標(%)

令和7年度目標

025507510075.8100.0大企業54.880.0中堅企業
目標は令和17年まで出典: 防災庁「事前防災徹底のための緊急要請(各府省庁宛)」
数値で見る(単位: %)
項目令和7年度目標
大企業75.8100.0
中堅企業54.880.0

中小企業や小規模事業者には、経済産業省の「事業継続力強化計画(簡易版BCP)」の認定制度を使うよう勧め、計画づくりが難しくても、棚の固定や重い物の落下防止ができているかを自ら点検するところから始めるよう求めた。大都市圏の帰宅困難者対策として、災害が見込まれるときは従業員に早めの帰宅や出勤の抑制を呼びかけ、従業員を一定期間事業所にとどめられるよう物資を備えることも盛り込んでいる。

年内に報告、問題があれば勧告 「緊急」の中身

要請には、点検と追跡の手順が付いている。概要資料によると、都道府県と各府省庁は年末に進み具合を報告する。府省庁宛ての文書は、実施状況について「本年内に報告を求める予定」とし、著しい問題がある場合は防災庁設置法第8条第5項に基づいて勧告すると明記した。都道府県宛ての通知も、取り組みの状況を年内に報告するよう追って依頼するとしている。企業と国民向けの要請については、「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」や「防災に関する世論調査」などで点検し、必要に応じて再要請や勧告権の行使、予算の執行への反映を行うとしている。

防災庁設置法第8条第5項は、防災大臣が特に必要と認めるときは関係行政機関の長に勧告できると定め、勧告を受けた側は「当該勧告を十分に尊重しなければならない」とする。続く第6項で、勧告に基づいてとった措置の報告を求めることができ、第7項で、勧告した事項について内閣総理大臣に内閣法第6条の規定による措置をとるよう意見を述べることができる。府省庁宛ての要請は、発足初日から、この勧告権の行使を視野に入れた形で出されたことになる。

「緊急要請」という名前だが、要請文は特定の災害が差し迫っていることを理由に挙げてはいない。冒頭で挙げているのは、千島海溝地震から富士山噴火までの5つの「国難級の災害」の発生が懸念されているという一般的な認識である。求めている中身も、耐震化や備蓄、計画づくりといった平時の備えだ。急ぐ理由として要請文が示すのは、災害の規模が大きいほど行政の手が回らなくなるという点で、概要資料は「行政のリソースが逼迫するため」と説明している。

発足に合わせた最初の仕事 国の備蓄拠点は10地域11か所

防災庁は、内閣府の防災担当を改組して内閣の直属に置いた組織で、防災大臣に関係行政機関への勧告権を与えた点が特徴だ。発足日の決定までの経緯は防災庁、11月2日に発足 施行期日の政令を閣議決定 統括官4人・参事官15人を置く 地方機関「防災局」の施行日は決まらずで、法案段階の議論は「防災庁」今国会で成立の見通し 災害対応の司令塔、11月にも発足へで伝えた。

細野氏は10月27日の記者会見で、発足日に地方自治体に向けて備蓄の充実を求める緊急要請を行う予定だと明らかにしていた。会見では、国が被災地に物資を送り込むための分散備蓄拠点が、富山県と中国地域での整備により「10地域11か所」になったと説明し、来年度の予算要求で拠点をさらに増やし、備蓄品に冷暖房の設備を加える考えも示した。そのうえで「規模の大きな災害を考えると、国として一歩前に出る必要がある」と述べ、国と自治体の双方で備える体制をつくるとしていた。

今回の要請は、国が拠点の備蓄を増やす一方で、自治体には避難所やその近くでの備蓄を、家庭には少なくとも3日分の備えを求め、国・自治体・家庭のそれぞれに役割を割り振った形になっている。年末に集まる都道府県と府省庁の報告が、勧告権を初めて使うかどうかの判断材料になる。