11月1日、「オレンジリボン・児童虐待防止推進キャンペーン」が始まった。こども家庭庁が毎年11月に家庭や学校、地域に向けて児童虐待防止の広報・啓発を集中的に行う取り組みで、高市早苗首相は同日、児童相談所の体制強化に取り組んでいると述べたうえで、虐待に気付いたら全国共通の虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」に電話するよう呼びかけるメッセージを出した。
首相はメッセージの中で、全国の児童相談所が対応した児童虐待相談の件数が令和6年度に約22万3000件に達したと指摘し、「子供の命が奪われる痛ましい事件も後を絶ちません」と述べた。こども家庭庁の集計では、令和6年度の対応件数は22万3691件で、前年度より1818件少なかった。
対応件数、初めて前年度を下回る
こども家庭庁が福祉行政報告例を基にまとめた資料によると、全国236か所の児童相談所が令和6年度に対応した児童虐待相談は22万3691件だった。前年度の22万5509件から0.8%減った。資料が載せている平成2年度の1101件以降、前年度を下回ったのは初めてとなる。
ここでいう対応件数は、児童相談所が相談を受け、援助方針会議などを経て児童虐待と判断し、指導や措置などを行った件数を指す。通報や相談を受けた件数そのものではない。
件数は平成25年度の7万3802件から増え続け、平成30年度に15万9838件、令和元年度に19万3780件、令和2年度に初めて20万件を超えて20万5044件になった。前年度からの増加率は令和元年度の21.2%を頂点に、令和2年度5.8%、令和3年度1.3%、令和4年度3.5%、令和5年度5.0%と1桁台が続き、令和6年度にマイナス0.8%となった。
児童相談所の児童虐待相談対応件数の推移(平成29〜令和6年度)(件)
数値で見る(単位: 件)
| 項目 | 件 |
|---|---|
| H29 | 133,778 |
| H30 | 159,838 |
| R1 | 193,780 |
| R2 | 205,044 |
| R3 | 207,660 |
| R4 | 214,843 |
| R5 | 225,509 |
| R6 | 223,691 |
ただし資料は、平成27年度から令和3年度までの件数について、一部の自治体から訂正を要するとの報告があり、今後訂正する予定のため数字が変わる可能性があると注記している。
自治体別に見ると、減少が大きかったのは東京都で1万9488件から1万7799件へ1689件、埼玉県で1万4351件から1万3049件へ1302件減った。一方、大阪府は1万5140件から1万5561件へ421件、堺市は2060件から2473件へ413件増えた。都道府県の件数には、指定都市や児童相談所を置く市・特別区の件数は含まない。東京都の特別区では、令和5年10月に児童相談所を開いた葛飾区が534件から1301件になり、令和6年10月に開設した品川区は461件を計上した。
心理的虐待が6割、警察からの通告が半数超
児童虐待の防止等に関する法律第2条は、虐待を身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待の4つに分けている。こども家庭庁は心理的虐待の例に、言葉による脅しや無視、きょうだい間の差別的な扱い、子どもの目の前で家族に暴力をふるうことを挙げる。
令和6年度の内訳は、心理的虐待が13万3024件で全体の59.5%を占め、最も多かった。身体的虐待が5万2535件(23.5%)、ネグレクトが3万5612件(15.9%)、性的虐待が2520件(1.1%)で続く。前年度と比べると身体的虐待は5万1623件から912件増え、性的虐待も2473件から47件増えた。心理的虐待は13万4948件から1924件、ネグレクトは3万6465件から853件減った。1件が複数の種別に当たる場合は、主な種別だけに数えている。
| 種別 | 令和5年度 | 令和6年度 | 割合(令和6年度) |
|---|---|---|---|
| 心理的虐待 | 13万4948件 | 13万3024件 | 59.5% |
| 身体的虐待 | 5万1623件 | 5万2535件 | 23.5% |
| ネグレクト | 3万6465件 | 3万5612件 | 15.9% |
| 性的虐待 | 2473件 | 2520件 | 1.1% |
| 合計 | 22万5509件 | 22万3691件 | 100.0% |
相談がどこから寄せられたかを見ると、警察等が11万5644件で全体の51.7%を占めた。次いで近隣・知人が1万9841件(8.9%)、家族・親戚が1万8792件(8.4%)、学校が1万7924件(8.0%)だった。近隣・知人からは前年度の2万2112件から2271件減り、学校からは1万6583件から1341件増えた。子ども本人からの相談は3394件(1.5%)で、前年度の3147件から増えている。
警察等からの件数は、平成25年度の2万1223件(28.8%)から令和6年度には5倍超になった。資料は増減の理由を示していない。
死亡は65例77人、0歳児が7割近く
首相が触れた子どもの死亡については、こども家庭審議会の専門委員会が毎年検証している。9月にまとまった第22次報告は、令和6年4月から令和7年3月までに起きた、または明らかになった虐待による死亡65例77人を対象とした。前回の第21次報告の56例65人から増えた。
77人の内訳は、保護者の自殺を伴わない「こどもの虐待死」が46例50人、「保護者の自殺を伴うこどもの虐待死」が19例27人だった。専門委員会は第22次報告から、これまでの「心中以外」「心中」という呼び方を改めた。第21次報告の特集は「心中によるこどもの死亡は、『こどもが保護者に殺害される』という虐待による死亡である」としている。
保護者の自殺を伴わない50人のうち、0歳児が34人で68.0%を占め、生まれたその日に亡くなった0日児が17人(34.0%)いた。3歳未満では37人(74.0%)になる。主たる加害者は実母が22人(44.0%)で最も多い。第22次報告は特集で「予期しない妊娠/計画していない妊娠とその背景」を取り上げた。
189と相談窓口
キャンペーンの今年度の標語は、全国からの応募作から選ばれた「189(いちはやく) 気づいたあなたに できること」。キャンペーンは、こども家庭庁が11月に行う「秋のこどもまんなか月間」の取り組みの一つと位置づけられている。
「189」は、24時間、全国どこからでも担当の児童相談所につながる虐待対応ダイヤルだ。一部のIP電話からはつながらない。こども家庭庁の特設サイトは「思い過ごしでも、大丈夫です」と記し、専門家が対応するとしている。同サイトは虐待に気付く手がかりとして、子どもの泣き叫ぶ声や保護者の怒鳴り声がいつもする、不自然な傷や打撲の跡がある、衣類や体がいつも汚れている、夜遅くまで一人で遊んでいる、といったサインを挙げる。保護者側のサインには、地域との交流が少なく孤立している、小さい子どもを家に置いたまま外出している、子どものけがについて不自然な説明をする、などがある。
子育てや親子関係に悩む保護者や子どもに向けては、別の窓口がある。児童相談所の相談専用ダイヤル「0120-189-783(いちはやく・おなやみを)」は通話料が無料で、スマートフォンで匿名で相談できる「親子のための相談LINE」は18歳未満の子どもとその保護者などが使える。首相はメッセージで、妊娠・出産や乳幼児の発達の相談、訪問支援をまとめて担う市区町村の「こども家庭センター」の設置率が全国の市区町村の約86%に達したと説明した。
虐待などで家庭で暮らせない子どもは、里親や児童養護施設などに預けられる(里親などに預けられた子ども8499人、代替養育の26.3% 10年前の16.5%から上昇 登録1万8038世帯のうち実際に預かっているのは5411世帯)。
