政党と候補者に限られてきた電子メールによる選挙運動が、一般の有権者にも認められる。7月に成立した公職選挙法などの改正法(令和8年法律第58号)が2027年3月1日に施行され、それ以後に公示・告示される選挙から適用される。改正後の条文は、メールをSNSやウェブサイトと同じ「インターネット等を利用する方法」の中にまとめ、メールだけに課していた送信者の制限と、送信先の事前同意や記録保存の手続きを削った。同じ改正で、AIを使って作った画像・映像への表示義務と、虚偽の情報で選挙の公正を害さないようにする責務の規定も加わった。政府が国会に出している特例法案どおりなら、2027年4月の統一地方選挙が、新しいルールで行われる最初の大型選挙になる。

メールをSNSと同じ扱いに

ネット選挙は2013年の法改正で解禁されたが、ウェブサイトやSNSとメールは別々の条文で扱われてきた。現行の公職選挙法は、第142条の3で「ウェブサイト等を利用する方法」による選挙運動を誰にでも認める一方、その定義からメールを除いている。メールは第142条の4が別に定め、送ってよい者を選挙の種類ごとに列挙している。衆院小選挙区なら候補者と候補者届出政党、知事選や市長選なら候補者と確認書の交付を受けた政党などで、一般の有権者は含まれない。

列挙された者以外が選挙運動のためにメールを送ると、文書図画の頒布を制限する第142条に反することになる。第243条は、第142条に違反して文書図画を頒布した者を2年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金としている。同じ投票の呼びかけでも、SNSに投稿するのは自由で、メールで知人に送ると罰則の対象になる、という線引きだった。

改正後の第142条の3は「ウェブサイト等」という区分をなくし、メールを含む「インターネット等を利用する方法」で選挙運動の文書図画を頒布できると定める。メールを扱っていた旧第142条の4は書き換えられ、メール専用の規定は条文から無くなる。公明党は機関紙の解説で、メールによる選挙運動が「SNSやウェブサイトと同様の規制に一本化される」と説明している。

この見直しは、2013年の改正法がすでに予告していた。同法の附則第5条は、候補者と政党以外の者によるメールの選挙運動について、次回の国政選挙での実施状況を検討し、「次々回の国政選挙」での解禁に向けて「適切な措置」を講じるとしていた。この附則から実際の改正まで13年かかった。

同意の確認や記録保存の手続きも廃止

現行の第142条の4は、メールを送れる政党や候補者にも細かい手続きを課している。送ってよい相手は、あらかじめ送信を求めるか同意し、自分のアドレスを知らせてきた人か、政治活動のメールを継続的に受け取っていて、選挙運動のメールを送ると通知されても断らなかった人に限られる(第2項)。同意などを示す記録の保存(第5項)、送信を断られたアドレスへの送信の禁止(第6項)、本文に「選挙運動用電子メール」であることや送信者の氏名、送信を断る方法などを書く義務(第7項)もある。違反すれば第243条や第244条の罰則の対象になる。

改正後の条文には、「選挙運動用電子メール」という語そのものが無い。代わりに、ネットで選挙運動をする者すべてに、第142条の3第3項がメールアドレスなどの連絡先を受け手の画面に正しく表示するよう求める。これはウェブサイトやSNSで選挙運動をする者に以前から課されていた義務で、メールも同じ扱いになる。

選挙期間中に特定の候補者を当選させないための活動、いわゆる落選運動も同じように整理された。現行の第142条の5第2項は、メールでこの活動をする者に、アドレスと氏名・名称の表示を求め、違反には第244条の罰則があった。改正後の第142条の4は、メールを含むネットの方法全体について、連絡先のアドレスなどの表示を求める形になった。

項目 現行 2027年3月1日以後
メールで選挙運動ができる者 政党・候補者などに限る 制限なし(一般の有権者も可)
送信先の事前同意 必要 規定なし
同意の記録の保存 義務 規定なし
送信者の連絡先の表示 送信者の氏名なども本文に表示 メールアドレスなどの連絡先を表示
選挙運動ができる期間 届出から投票日の前日まで 変わらず
18歳未満の選挙運動 禁止 変わらず
電子メールによる選挙運動の主なルールの比較

出典: 公職選挙法の現行条文と令和9年3月1日施行の改正後条文(e-Gov法令検索)

期間と年齢の制限は残る

改正で変わるのはメールの扱いで、選挙運動そのものの枠組みは変わらない。第129条は、選挙運動ができるのを候補者の届出があった日から投票日の前日までとしている。メールで投票を呼びかけられるのもこの期間に限られ、投票日当日に送ることはできない。届出より前に特定の候補者への投票を求めることも、この期間の制限に反する。

年齢の制限も残る。第137条の2は、18歳未満の者の選挙運動を禁じ、18歳未満の者を使って選挙運動をすることも禁じている。18歳未満の高校生などは、改正後もメールで投票を呼びかけることはできない。この規定をめぐる裁判の動きは18歳未満の選挙運動禁止は違憲と東京地裁 国民民主が原告から聴取、法改正の検討へで伝えている。

候補者名や政党名を出した有料のネット広告を一般の人が出すことも、引き続き第142条の6で禁じられる。メールが解禁されても、お金を払って広告として配信することはできない。

AI画像の表示義務と「責務」の規定

改正法は、生成AIへの対応も公職選挙法に書き込んだ。新しい第142条の5は、AIを使って作ったり改変したりした画像や映像を載せた選挙運動の文書図画をネットで頒布する者に、AIで作成・改変したものである旨を受け手の画面に正しく表示するよう義務付ける。選挙期間中の落選運動の文書図画も対象だ。改変の程度が社会通念に照らして軽微なものや、実際に撮影されたと誤認されるおそれのないものは除く。

第142条の7は、ネット利用者の責務を強めた。現行の規定は、候補者への悪質な誹謗中傷など表現の自由を濫用して選挙の公正を害さないよう、ネットの「適正な利用に努めなければならない」とする努力義務だけだった。改正後は第1項として、選挙に関しネットを使う者は、候補者について虚偽の事項を公にしたり、事実をゆがめて公にしたりして「選挙の公正を害することがないようにしなければならない」との規定を置いた。

改正後の罰則の条文には、AIの表示義務や責務の規定に違反した場合の刑罰は見当たらない。公明党の解説も、責務の規定について「罰則は設けない」と説明している。ただし、当選させない目的で候補者に関する虚偽の事項を公にしたり、事実をゆがめて公にしたりする行為は、改正前から第235条第2項の虚偽事項公表罪の対象で、4年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が定められている。

同じ法律は、情報流通プラットフォーム対処法も改正し、大規模なSNS事業者に偽情報などによる選挙への悪影響を軽くする措置を義務付けた。総務省がこの措置について示した指針案は選挙の偽情報対策、大手SNSに推奨措置の指針案 収益化停止やAI画像の警告表示 総務省が意見募集で伝えている。

6会派の議員立法、統一地方選が最初の大型選挙に

改正法は、自民党の逢沢一郎氏ら11人が提出した議員立法だ。衆議院の議案審議経過情報によると、提出したのは自民、中道改革連合、日本維新の会、国民民主、参政党、チームみらいの6会派で、6月24日に衆院が受理した。政治改革に関する特別委員会で6月25日に可決し、26日の本会議で日本共産党を含む賛成多数で可決した。参議院は7月13日の本会議で可決して成立し、7月17日に公布された。

附則第1条は施行日を2027年3月1日と定め、附則第2条は改正後の規定を施行日以後に公示・告示される選挙に適用するとしている。3月1日より前に告示された選挙は、投票日が施行日の後でも従来のルールで行われる。

政府は10月16日、2027年の統一地方選挙の期日を定める特例法案を国会に提出した。総務省の概要によると、都道府県と政令指定都市の首長・議員の選挙は4月11日、それ以外の市区町村の選挙は4月25日に行い、全体でおよそ1000の選挙を見込む。概要の日程表では、最も早い知事選挙の告示が3月25日で、いずれの選挙も施行日より後に告示される。法案どおりに成立すれば、統一地方選挙は全体が新しいルールの下で行われる。

附則第8条は、在外選挙人がネットで投票する仕組みの導入について、公布後1年をめどに検討することも定めた。本人確認を確実にする手段や、投票画面での候補者の表示方法などを検討事項に挙げている。街頭演説を妨げる行為への対応についても、政治活動の自由に配慮しながら引き続き検討するとした。