デジタル庁は10月20日、「今後のデジタル人材育成政策に関する検討会」の第2回会合をオンラインで開き、文部科学省、厚生労働省、経済産業省と情報処理推進機構(IPA)から、デジタル人材の育成施策について説明を受けた。同庁が同日公表した資料で、議論の取りまとめを2027年2〜3月ごろに行う日程が示された。政府が2022年度から掲げてきた「デジタル人材230万人育成」の目標は、2025年度までの累計が243.5万人(速報値を含む)となって1年前倒しで達成されている。検討会は、その後継となる2027年度以降の政府目標づくりに入る。
取りまとめは2027年2〜3月、残る会合は4回程度
資料2「今後のスケジュール」によると、この日の第2回は「230万人目標における主要省庁からのヒアリング」に充てられた。第3回は11月17日で、AI・サイバーセキュリティなど近年の課題についてのヒアリングと、「育成対象とするデジタル人材のスコープについて」を議題とする予定。第4回は12月15日で「これまでの議論の整理」に入り、年明けに2回程度を開いたうえで、2月〜3月ごろに議論を取りまとめる予定とした。
この日程は、7月21日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が定めた期限に沿っている。重点計画は、デジタル人材育成の次期政府目標について「令和8年度夏を目途に関係省庁会議及び有識者会議を立ち上げ」、そのうえで「令和8年度以内を目途に、令和9年度以降の次期政府目標及び取組方針等を取りまとめる」としていた。令和8年度は2027年3月末までで、2〜3月の取りまとめはその範囲に収まる。重点計画は、取りまとめに際して「人材・スキルのトレンド把握の手法やKPIの策定についても検討を行う」とも書いており、育成数の数え方そのものが検討の対象に入っている。
検討会は令和8年9月1日のデジタル監決定で設置された。構成員は9人で、座長は公益財団法人国際高等研究所所長の西尾章治郎氏。慶應義塾大学法学部教授の大屋雄裕氏、日本経済団体連合会常務理事の小川尚子氏、労働政策研究・研修機構副統括研究員の藤本真氏、日本CTO協会理事の広木大地氏らが名を連ねる。議事次第によると、第2回は午前10時30分から正午までオンラインで開かれ、3省とIPAのヒアリングの後に自由討議が行われた。
230万人の土台は「必要330万人」との推計
230万人という数字は、「デジタル田園都市国家構想総合戦略(2023改訂版)」(令和5年12月26日閣議決定)が定めたKPIで、2022年度から2026年度末までの5年間で育成することを政府全体の目標としていた。第1回検討会の資料2によると、2025年度までの関係省庁の施策の実績は累計で244万人(表の値は243.5万人、速報値を含む)となり、1年前倒しで目標を達成した。
目標値の導き方も同じ資料に示されている。将来必要となるデジタル人材を330万人と推計し、そこから当時の情報処理・通信技術者の人数である約100万人を差し引いた230万人を、育成・確保すべき数とした。330万人の推計は、現在の労働人口6800万人から逆算して導いたものだと注記されている。総合戦略は、2024年度末までに年間45万人を育成する体制を整えるとしていた。
年度ごとの育成数は、2022年度が32.9万人、2023年度が51.1万人、2024年度が74.0万人、2025年度が85.6万人と増え続けた。累積では32.9万人、84.0万人、158.0万人、243.5万人となり、4年目で5年分の目標を超えた。2024年度と2025年度の実績には一部速報値が含まれる。
デジタル人材育成数の累積(万人)
数値で見る(単位: 万人)
| 項目 | 万人 |
|---|---|
| 22年度 | 32.9 |
| 23年度 | 84.0 |
| 24年度 | 158.0 |
| 25年度 | 243.5 |
助成金の受講者は25倍、文科省のKPIは「定員数」
内訳を見ると、施策ごとの伸び方には大きな差がある。
| 担当省庁・施策(KPI) | 2022年度 | 2025年度 |
|---|---|---|
| 経産省 情報処理技術者試験の合格者数 | 8.3万人 | 12.3万人 |
| 経産省 コンテンツ紹介やDX推進施策を通した育成促進 | 6.1万人 | 14.4万人 |
| 厚労省 公的職業訓練・教育訓練給付のデジタル分野受講者数 | 7.3万人 | 8.9万人 |
| 厚労省 人材開発支援助成金のデジタル分野受講者数 | 0.8万人 | 20.0万人 |
| 文科省 数理・データサイエンス・AI教育(応用基礎レベル)の1学年定員数 | 6.7万人 | 26.1万人 |
| 農水省 スマート農林水産業の人材育成の対象者数 | 2.6万人 | 2.9万人 |
| 国交省 インフラ分野のデジタル技術研修の受講者数 | 0.03万人 | 0.2万人 |
| 総務省 サイバー防御演習・統計研修などの受講者数 | 0.3万人 | 0.4万人 |
| デジタル庁 情報システム統一研修の修了者数(延べ) | 0.7万人 | 0.4万人 |
| 合計 | 32.9万人 | 85.6万人 |
表: デジタル人材230万人目標の施策別実績(2022年度と2025年度) 出典: デジタル庁「これまでのデジタル人材育成の目標達成状況について(各省庁内訳)」(検討会第1回資料2)。末端の四捨五入のため各項目の合計と合計値は必ずしも一致しない
最も伸びたのは厚生労働省の人材開発支援助成金で、デジタル分野の受講者数は2022年度の0.8万人から2025年度の20.0万人へ25倍になった。同省のもう一つのKPIである公的職業訓練と教育訓練給付のデジタル分野の訓練受講者数は、7.3万人から8.9万人でほぼ横ばいだった。この日の同省の説明資料も人材開発支援助成金が中心で、高度デジタル人材の育成のための訓練や大学院での訓練には経費の75%(中小企業以外は60%)、IT分野未経験者の即戦力化を狙うOJTとOFF-JTを組み合わせた訓練には賃金助成として1人1時間あたり1000円(同500円)などの助成率・助成額が整理されている。資料にはこのほか、17の戦略分野とエッセンシャルワーカーを含む分野について、業所管省庁の取り組みと厚労・経産・文科3省の支援策を連携させ、スキルの可視化から講座の開発・提供まで一気通貫で支援する枠組みも示された。
文部科学省のKPIは、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」の応用基礎レベルにおける1学年あたりの定員数で、6.7万人から26.1万人へ4倍近くになった。ただし同省の資料には「各年度の人数は認定時点におけるプログラムを受講できる学生の規模で算出」と注記がある。実際に履修した学生や修了した学生の数ではなく、受講できる枠の規模を数えた指標である。制度は大学等の優れた教育プログラムを国が認定する仕組みで、認定が広がれば数字は伸びる。
経済産業省の2本のKPIのうち、情報処理技術者試験の合格者数は8.3万人から12.3万人へ着実に伸びた。一方、デジタル人材育成プラットフォームなどを通じた育成促進は、2024年度の20.6万人から2025年度は14.4万人へ減った。このほか農林水産省のスマート農林水産業の人材育成は2.9万人、国土交通省のインフラ分野のデジタル技術研修は0.2万人、総務省の実践的サイバー防御演習(CYDER)と統計データアナリスト研修などは0.4万人、デジタル庁の情報システム統一研修は延べ0.4万人だった。
情報処理技術者試験は2027年度に区分を見直す方向
経産省・IPAの説明資料は、デジタルスキル標準を軸に、国家試験・講座・実践プログラムを組み合わせる構図を示した。企業のAX・DX推進とデジタル人材の育成を「両輪」で進めるとし、生成AIの進展に応じて施策を刷新する方針を挙げている。
国家試験の情報処理技術者試験は、年間の応募が77万人、2025年度の合格者は25.5万人で、うちITパスポート試験が13.2万人を占める。資料は、特定の人材像を目指す試験区分体系から、「根幹」となる幅広いスキルを身につけることでAIも活用して新たな価値創造を行う人の目標となる体系へ見直しを検討しているとし、2027年度の開始を目指すとした。論述試験のあり方については2028年度以降に向けて継続して検討する。見直しの中身は情報処理技術者試験、2027年度春から新制度 知識の出題分類は23から30へで詳しく取り上げた。
教育コンテンツの面では、民間の講座を審査してスキル標準に紐付けて示すポータルサイト「マナビDX」に、約360社・約780講座が掲載されている。このうち経済産業大臣が認定するReスキル講座は357講座、厚生労働省の助成対象講座は272講座で、一定レベル以上の認定講座は要件を満たせば専門実践教育訓練給付の対象になる。講師を置かず受講生同士が教え合う形式の「マナビDXクエスト」では、データ付きのケーススタディ教材や地域企業との協働プログラムを提供している。
IPAは「デジタル人材スキルプラットフォーム」のシステム開発を進めている。個人のスキル情報を蓄積・可視化するアカウントを立ち上げ、情報処理技術者試験やリスキリングで得たスキルを証明できるようにして、スキル情報を労働市場の「共通言語」にすることを狙う。重点計画は、このプラットフォームについて令和9年度中に機能拡張に着手するとし、AI社会で新たに求められるスキルセットや成長分野固有のAI・デジタル関連スキルの登録情報の拡充、ガバメントクラウド・国産クラウドの率先利用、マイナンバー制度との連携を目指すと書いている。
第1回では「量より質」、育成対象の線引きは次回の議題
資料1として配られた第1回会合(9月9日)の主な意見では、量的な指標への偏りを見直すべきだという指摘が並んだ。「デジタル人材230万人育成目標は達成したが、成果の質的評価は不十分」「受講者数や資格取得者数等の量的指標だけでなく、育成した人材が生み出す変革やイノベーション等の成果を重視する必要がある」といった意見が挙がっている。第1回会合の議事概要の内容はデジタル人材「230万人」は1年前倒しで達成、次は質を問う デジタル庁検討会が初会合の議事概要で報じた。
求められる人材像についても、「変革の構想、技術の開発・運用、セキュリティ、現場実装など役割別に整理し、必要能力と活躍の場を具体化する必要がある」「AI時代には、業務を理解し、組織・事業の変革を主導する力が重要」との意見が出た。技術知識に加えて構想力、問いを立てる力、論理的思考、言語化、意思決定、マネジメントも重視すべきで、人文社会科学の知識や倫理を組み合わせることでAIを適切に活用できるという指摘もあった。AIで組織や事業の変革を実現した実践事例を類型化して教材として共有すべきだという意見も記録されている。
スキルの可視化については、「スキル・資格を可視化するだけでなく、処遇、雇用、配置、実務経験、キャリア形成に結び付ける」「地方や自治体の人材不足も踏まえ、学び直しの成果を就労につなげる仕組みを強化する必要がある」とされた。資格を取っただけで終わらせず、賃金や配置に反映させる道筋をどうつくるかが問われている。
誰をデジタル人材として数えるのかという線引きは、次の第3回会合で正面から議論される。資料2は第3回の議題に「育成対象とするデジタル人材のスコープについて」を挙げている。生成AIとAIエージェントの進展で従来の職務定義やスキル区分が流動化しているという認識は重点計画にも書かれており、次期目標では何を数えるのかという土台から見直されることになる。
