自動車産業の脱炭素化を国の施策として束ねる議員立法が、衆議院経済産業委員会での審査を待っている。中道改革連合・無所属と国民民主党・無所属クラブが共同で提出した「自動車産業における脱炭素化の推進に関する法律案」(第221回国会・衆法37号)で、衆議院の議案審議経過情報によると、令和8年10月5日に同委員会へ付託された。提出者は山岡達丸氏ほか12人。全13条と附則からなり、政府に対して電動自動車の取得費用の補助と税制上の優遇措置の拡充、有料道路料金の減額などによって取得の負担を「大幅に軽減」することを求め、施策全体を束ねる「推進計画」の閣議決定と毎年の国会報告を義務づける内容である。経過情報の審査終了年月日と審査結果の欄は空欄のままで、委員会での審査はまだ始まっていない。

推進計画は閣議決定へ 毎年の国会報告も条文に書き込む

法案の骨格は、個別の規制や補助金を直接定めるのではなく、国に計画をつくらせて進み具合を国会に報告させる「基本法」型である。

第7条は、政府が「自動車産業における脱炭素化の推進に関する計画」(推進計画)を定めなければならないと規定する。計画に書く事項は、施策についての基本的な方針、政府が重点的に講ずべき施策、その他施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項の3つ。計画案は経済産業大臣が関係行政機関の長の意見を聴いて作成し、閣議の決定を求める。閣議決定があったときは、速やかに国会に報告するとともに公表しなければならない。

計画は作って終わりではない。政府は脱炭素化をめぐる情勢の変化を勘案し、施策の効果に関する評価を踏まえて、少なくとも3年ごとに推進計画に検討を加え、必要があると認めるときは変更しなければならないとした。計画の実施に必要な資金については、毎年度、国の財政の許す範囲内で予算に計上するなど円滑な実施に必要な措置を講ずるよう努めるものとしている。「財政の許す範囲内」という限定と「努める」という表現が付いており、予算の確保までを縛る規定ではない。

国会への報告は2段構えになっている。推進計画そのものの報告(第7条第4項)とは別に、第6条で「政府は、毎年、国会に、政府が自動車産業における脱炭素化の推進に関して講じた施策に関する報告書を提出しなければならない」と定めた。いわゆる年次報告(白書)の義務である。第5条は、政府が推進のために必要な法制上、財政上または税制上の措置その他の措置を講じなければならないとしている。第4条は国の責務として、基本理念にのっとって施策を総合的かつ計画的に策定・実施する責務を負うこと、広報活動などを通じて国民の理解を深めるよう努めることを挙げた。

条文の動詞は書き分けられている。推進計画の策定、年次報告、法制上の措置は「しなければならない」で、後述する個別の施策は「講ずるものとする」である。国に対する拘束の強さが前者の方が重い形になっている。

取得費補助・税優遇・有料道路料金 負担軽減の手段を条文に並べる

第8条以降が具体的な施策で、最初に来るのが電動自動車の普及促進である。第8条第1項は、国が講ずる措置として次のものを挙げた。

第一に、電動自動車の普及に係る最新の海外の知見を踏まえ、取得に要する費用の補助の拡充、税制上の優遇措置の拡充、有料道路に係る料金の減額などにより、取得等に係る負担の「大幅な軽減」を図ること。第二に、充電が容易になるよう、既存のエネルギー供給網である給油所や、共同住宅その他の住宅などにおける充電に必要な施設・設備の整備を促進すること。給油所を充電の拠点として名指ししている点が目を引く。

第三は蓄電池である。製造に必要な原材料の確保と、これに代替する素材の開発の支援を行うことと、使用済みの蓄電池の再生利用を促すため、国際的な動向を踏まえつつ国内における循環的な利用のためのシステムを構築することの2つを並べた。第四に、電動自動車の整備等に関する専門的な知識・技能を持つ自動車整備士その他の人材の育成と確保を図ること。第五に、使用を終了した電動自動車とその部品の輸出、および電動自動車に関する技術の国外流出の防止を図るための措置の在り方について「速やかに検討を行うこと」とした。中古車や使用済み部品の海外流出、技術流出への対応を検討課題として条文に書き込んだ形である。

第8条第2項は開発側の支援で、脱炭素化に資する燃料や水素を燃料として用いる内燃機関に関する先端的な研究開発を含む幅広い研究開発と、人工知能関連技術の活用を含む技術の高度化、人材の育成・確保への支援を挙げた。あわせて部品を製造する事業者への支援と、事業者の技術の活用や創意工夫の発揮を妨げるような規制の撤廃・緩和を速やかに推進することを求めている。

法案がいう「電動自動車」の範囲は第2条第2項で定義されている。燃料電池を利用して発生させた電気を動力源とし内燃機関を持たない燃料電池自動車、地方税法附則第12条の3第1項に規定する電気自動車、同項第1号の充電機能付電力併用自動車その他の電力併用自動車、そしてこれらに相当する二輪車である。電気自動車と燃料電池車に加え、外部充電ができるプラグインハイブリッド車や対応する二輪車までが入る。同条第1項は「脱炭素化」を、温室効果ガスの排出量の削減と吸収作用の保全・強化を行うことと定義し、地球温暖化対策推進法の用語を引いている。

基本理念は「車種にかかわらず」 合成燃料と水素内燃機関も並べる

第3条の基本理念は6項あり、法案の立場が最もよく出ている部分である。

第1項は、電動自動車の普及促進に加えて、水素と二酸化炭素を合成して製造される燃料、燃料としての水素その他の脱炭素化に資する燃料の実用化、水素を燃料として用いる内燃機関の実用化の促進など、「脱炭素化に資する自動車に関するあらゆる取組を適切に組み合わせる」ことで総合的に行われなければならないとする。電気自動車への一本化ではなく、合成燃料(いわゆるe-fuel)や水素エンジンを並べて置く書き方である。

第3項はさらに踏み込み、自動車には多数の部品が使われ、自動車産業が他の多くの産業と密接に関連することを踏まえ、「ガソリン自動車、電気自動車その他の自動車の種類にかかわらず」、ライフサイクルアセスメントの観点から総合的かつ効果的な温室効果ガスの排出量の削減その他の環境負荷の低減を図り、循環型社会の形成に資する経済活動の促進を図ることを旨とするとした。走行時の排出だけでなく、製造から廃棄までを通した排出で評価するという考え方である。これに対応して第10条は、製鉄における水素の使用の実用化の促進その他、自動車の製造・使用・再生利用・廃棄などの各段階の脱炭素化を促す措置を定めた。鋼材の製造工程まで視野に入れている。

第2項と第9条は、蓄電池を積んだ電動自動車と住宅との間で電気を融通する仕組み(V2H)が分散型エネルギー社会に寄与し、災害時にも有用であることを踏まえ、地域の脱炭素まちづくりの観点から、地方公共団体と連携して電動自動車の普及促進と住宅の再生可能エネルギー発電・蓄電池の普及促進を一体的に進めるとした。第4項と第11条は、自動車の製造と電気自動車の走行に使う電気の発電側の脱炭素化と一体で進めるとし、再生可能エネルギーの発電・利用と、火力発電の燃料としての水素・アンモニアの活用を挙げた。電源構成の脱炭素化は政府の側でも見直しが進んでおり、高市首相、「パワーGX戦略」を年末までにまとめるよう赤澤経産相に指示している。

第5項と第12条は雇用と中小企業である。自動車産業では多数の労働者が雇用され、高度なものづくり技術を持つ多くの中小企業に支えられていることに鑑み、産業構造の転換が円滑に行われるよう「労働力の公正な移動」の確保と中小企業への適切な支援が行われなければならないとした。第12条は具体策として、雇用の安定と雇用機会の創出、中小企業に対する経営支援と事業転換の支援を挙げている。第6項と第13条は国際面で、炭素国境調整措置の導入等の国際的な取組で日本が主導的な役割を担うことを旨とし、脱炭素化に資する自動車に係る知的財産の創造・保護・活用を進めた上で、技術と規制の国際標準化の枠組みにおける日本の主導的役割の確保や技術協力を進めるとした。附則により、施行は公布の日からとなる。

運輸部門のCO2は1億8,700万トン 自家用車と貨物車で8割超

法案が相手にしている排出量の規模を、政府の統計で押さえておく。環境省と国立環境研究所温室効果ガスインベントリオフィスが2026年4月に公表した2024年度の集計では、日本の温室効果ガスの排出・吸収量は約9億9,400万トン(二酸化炭素換算)だった。2023年度の約10億1,300万トンから1.9%減り、2013年度と比べると28.7%減。初めて10億トンの大台を下回り、2013年度以降の最低値となった。政府の目標は2013年度比で2030年度に46%減、2035年度に60%減、2040年度に73%減、2050年に排出・吸収量をゼロにするネット・ゼロである。

部門別のエネルギー起源二酸化炭素では、工場などの産業部門が3億3,400万トン(2013年度比27.9%減、2023年度比2.5%減)、自動車などの運輸部門が1億8,700万トン(同16.5%減、同1.6%減)だった。運輸部門は約6割が旅客輸送、約4割が貨物輸送に起因する。旅客は1億900万トンで2013年度比19.1%減、貨物は7,820万トンで同12.6%減である。

輸送機関別に見ると、自家用自動車が運輸部門の45%(8,370万トン)、貨物自動車が38%(7,070万トン)で、この2つで8割以上を占める。自家用自動車の内訳は、マイカーが31%(5,720万トン)、社用車等が14%(2,650万トン)。残りは航空(旅客)940万トン、鉄道(旅客)680万トン、バス・タクシー・二輪車550万トン、船舶(貨物)620万トン、船舶(旅客)330万トン、航空(貨物)90万トン、鉄道(貨物)34万トンとなっている。法案が電動自動車の普及と貨物を含む自動車の脱炭素化に重点を置くのは、この構成に沿っている。

運輸部門の輸送機関別CO2排出量(2024年度)(万トン)

貨物車7,070マイカー5,720社用車2,650航空旅客940鉄道旅客680船舶貨物620
エネルギー起源CO2。運輸部門の合計は1億8,700万トン。上位6機関のみ。電気自動車は算定対象外出典: 環境省・国立環境研究所「2024年度温室効果ガス排出量及び吸収量」要因分析 2.4 運輸部門
数値で見る(単位: 万トン)
項目万トン
貨物車7,070
マイカー5,720
社用車2,650
航空旅客940
鉄道旅客680
船舶貨物620

なお、この統計では電気自動車は算定の対象外となっている。走行に使う電気に伴う排出は、運輸部門ではなく発電側で計上される仕組みのためである。電動化が進むほど運輸部門の数字は下がるが、発電の脱炭素化が伴わなければ国全体の排出は減りにくい。法案が第11条で発電側の脱炭素化を一体で進めるとしたのは、この関係に対応したものといえる。

同じ日に3本が経産委へ 審査終了の欄はいずれも空欄

10月5日には、同じ衆議院経済産業委員会に別の議員立法2本も付託されている。いずれも国民民主党・無所属クラブの鈴木義弘氏ほか3人が第221回国会に提出したものである。

議案 件名 提出者・会派
衆法37 自動車産業における脱炭素化の推進に関する法律案 山岡達丸氏ほか12人(中道改革連合・無所属/国民民主党・無所属クラブ)
衆法32 受託中小企業振興法の一部を改正する法律案 鈴木義弘氏ほか3人(国民民主党・無所属クラブ)
衆法33 ものづくり基盤技術振興基本法の一部を改正する法律案 鈴木義弘氏ほか3人(国民民主党・無所属クラブ)

表: 令和8年10月5日に衆議院経済産業委員会へ付託された議員立法 出典: 衆議院「議案審議経過情報」(第221回国会・衆法37、衆法32、衆法33)

受託中小企業振興法改正案(衆法32)は、委託事業者と中小受託事業者等が作る振興事業計画の例示に、委託事業者が関係する中小受託事業者における「適正な対価の決定の状況の把握」を加える。経済産業大臣が定める振興基準の事項に中小受託事業者の人材育成に関する事項を追加し、国・地方公共団体・受託中小企業振興協会その他の関係者の責務として、中小受託事業者が補助金等の交付を申請する際の支援などを連携して行うことを加える。取引の対価をめぐっては、下請法から名称が変わった取適法の運用が進んでおり、知的財産の無償提供要求、公取委が「ノウハウ・データ」も含むと明記した指針の改正も10月1日に施行されている。

ものづくり基盤技術振興基本法改正案(衆法33)は人材の入口を広げる内容である。ものづくり労働者の確保等のため国が講ずる基本的施策に、高等学校で工業その他の産業に関する専門教育を主とする学科を修めて卒業した者のものづくり基盤産業への就業促進を加える。あわせて国が高校教育について、専門学科の魅力の増進に係る取組の支援と、ものづくり基盤産業に関する産業教育の充実を図る施策を講ずるとした。中小事業者の経営基盤の強化を図る基本的施策には、設備の更新とものづくり労働者の適切な処遇の確保を加える。製造現場の人材は細っており、製造業の技能継承、「うまくいっている」は1.9%という同法に基づく年次報告の調査結果もある。2本とも施行は公布の日からである。

3本の議案審議経過情報では、衆議院の審査終了年月日と審査結果、審議終了年月日と審議結果、参議院の各欄がいずれも空欄である。委員会での審査がいつ行われるかは決まっていない。3本はいずれも提出の回次が第221回国会で、付託は令和8年10月5日。提出から付託までに国会の区切りをまたいでおり、付託だけが済んで審査に入っていない状態が続いている。自動車産業の脱炭素化という論点を国の計画と年次報告の対象に格上げするかどうかは、委員会が審査日程を組むかにかかっている。