公正取引委員会は9月28日、関東地区のマンションの大規模修繕工事をめぐり、受注する業者をあらかじめ決めていたとして、設計コンサルタント会社2社と施工業者らに独占禁止法違反(不当な取引制限)で排除措置命令と課徴金納付命令を出した。課徴金は総額16億3788万円。違反した事業者は延べ57社(実数42社)にのぼる。工事を発注していたのはマンションの管理組合で、原資は住民が毎月積み立てた修繕積立金だった。

対象になったのは、東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城、栃木、群馬の1都6県にあるマンションの管理組合が、リノシスコーポレーション(東京)または翔設計(東京)に設計コンサル業務を委託したうえで発注した大規模修繕工事である。大規模修繕工事とは、外壁全面に足場を組むような大がかりな修繕を、管理組合が計画的に発注して実施するものを指す。

設計コンサルが受注業者を決め、見積価格まで示していた

管理組合は専門知識を持たないため、施工業者を選ぶ手助けを設計コンサル会社に頼むことが多い。今回の事件では、その選定を助ける側が、受注する業者を決めていた。

公取委によると、リノシスコーポレーションと施工業者36社は、遅くとも2021年9月27日以降、工事ごとに同社と協力関係を築いた1社を受注予定者とし、ほかの業者は受注予定者が受注できるように協力する、という合意をしていた。翔設計と施工業者19社も、遅くとも2021年11月16日以降、同じ枠組みで受注調整をしていた。

手口はこうだ。設計コンサル会社から発注情報を得た施工業者が受注希望を伝えて受注予定者になる。設計コンサル会社は、業務の過程で知った「設計予算」、つまり管理組合が決めた発注予定金額を受注予定者に教える。受注予定者は、ほかの業者が管理組合に示す見積価格まで決める。ほかの業者は、受注予定者から連絡された価格をそのまま管理組合に出すか、見積り合わせに参加しない。設計コンサル会社は受注予定者の意向を踏まえて設計業務そのものを行っていた。公取委は「特定大規模修繕工事の大部分が本件違反行為によって受注されていた」としている。

管理組合の側から見れば、複数社から見積もりを取って比べたつもりでも、金額は事前に決められていたことになる。

工事代金の5%が設計コンサルに渡っていた

公取委は審査の過程で、工事を受注した施工業者が、原則として工事請負契約の契約価格の5%を目安とする金額を設計コンサル会社に支払っていた事実を確認した。設計コンサル会社は管理組合から設計コンサル業務の報酬を受け取る一方で、施工業者からも金銭を受け取っていたことになる。

公取委はこの手数料について、情報提供などの協力に対する「報酬」として機能する可能性があると指摘した。そのうえで、工事の発注前に手数料の支払いを取り決めることや、手数料の取り決めをしている業者に有利な条件になるよう設計コンサル会社が管理組合に働きかけることは、施工業者どうしの自由な競争をゆがめるおそれがあるとした。

公取委は、全国マンション改修設計コンサルタント協会、マンション計画修繕施工協会、日本塗装工業会の3団体に対し、この考え方を会員に周知するよう申し入れた。命令の対象にならなかった業者も含めて、業界全体の商慣行に手を入れる狙いがある。

課徴金は最高で3億円超 支払期限は2027年4月30日

課徴金は、リノシスコーポレーション側の工事で33社に計9億2157万円、翔設計側の工事で17社に計7億1631万円が命じられた。両方に関わった業者があるため、実数では37社が対象になる。排除措置命令は延べ51社(実数38社)が対象で、独占禁止法を守るための行動指針の作成や、営業担当の役員・従業員への定期的な研修の実施が命じられた。

最も額が大きいのは伊勝(横浜市鶴見区)で、翔設計側で3億1751万円、リノシスコーポレーション側で6453万円。長谷工リフォーム(東京)はリノシスコーポレーション側で2億7648万円、翔設計側で5289万円、富士防(神奈川県横須賀市)は翔設計側で1億3074万円だった。支払期限はいずれも2027年4月30日である。

一部の業者には課徴金減免制度が適用された。伊勝、シンヨー、大和は30%、長谷工リフォームやシミズ・ビルライフケア、セラフ榎本は25%の減免を受けている。これは違反を自主的に申告した順番に応じた減免率と、調査への協力の度合いに応じた減算率を合わせたものだ。

命令を受けた側の動きも出ている。長谷工リフォームの親会社である長谷工コーポレーションは9月28日、子会社が両方の命令を受け取ったと開示した。課徴金は2件の合計で3億2937万円、減免制度の適用で25%の減額が認められたとしている。同社によると、長谷工リフォームが公取委の立入検査を受けたのは2025年3月4日で、命令までに1年半あまりかかった計算になる。

長谷工コーポレーションは同日、長谷工リフォームの代表取締役会長が経営責任を明確にするため辞任し、代表取締役社長が月額報酬の10%を9月から3か月自主返納すると発表した。関係する役職員の懲戒処分も決めた。課徴金3億2937万円は中間連結会計期間に営業外損失として計上する見込みだが、2027年3月期の連結業績予想の修正はないとしている。

原資は住民の修繕積立金 発注者が官公庁の談合とは違う

国土交通省によると、分譲マンションのストックは2025年末時点で約723.6万戸ある。1世帯あたりの平均人員をかけると約1600万人で、国民の1割超がマンションに住んでいる計算になる。令和5年度マンション総合調査では、駐車場使用料などからの充当分を除いた修繕積立金は1戸あたり月平均1万3054円だった。大規模修繕工事の費用は、こうして長年ためた積立金から出ていく。

公取委が最近手がけた受注調整の事件は、香川県が発注する土木一式工事(2026年6月25日措置)、首都高速道路が発注する道路清掃業務(同年4月22日措置)、東京五輪のテストイベント計画立案業務(2025年6月23日措置)など、発注者が官公庁や公的機関のものが中心だった。今回はそれと異なり、発注者が民間のマンション管理組合である。入札の仕組みも監査の目も持たない住民の団体が発注者だった点に、この事件の特徴がある。

公取委は9月25日にも、石油関連製品の値上げ要請、通ったのは48.3% 公取委の緊急調査 三次受注者以降は45.4% 発注者59名に注意喚起という調査結果を公表しており、建設・物流分野の取引慣行への監視を強めている。建設業では建設現場の職人不足、8月は1.3%の不足で今年最大 資材13品目の価格は横ばい 3か月先はH形鋼で29都道府県が値上がり予想という状況が続いており、工事費そのものが上がりやすい局面にある。競争が働かないまま価格が決まる構造は、管理組合の負担に直結する。