政府は10月20日の閣議で、「AI・デジタル改革推進会議」の開催を決定した。AIとデジタルの活用による社会変革を政府横断で進める会議体で、議長は内閣官房長官とAI・デジタル改革推進担当大臣の2人が務める。同じ閣議決定の附則により、2023年(令和5年)10月に設置された「デジタル行財政改革会議」は廃止され、これまで検討してきた事項は新会議に引き継がれる。首相官邸が公表した同日の定例閣議案件では、デジタル庁提出の「一般案件」として扱われた。
「AIによるリスクの最小化を前提に」 掲げた所管事項は3つ
閣議決定の第1項は、会議を開く理由をこう記している。「急激な人口減少に対応し、我が国の経済成長の実現や公共サービスの維持・強化を図るため、AIによるリスクの最小化を前提に、AI・デジタルの徹底活用による社会変革(AX/DX)を推進する」。
ここで出てくる「AX」は、AIによる変革(AI Transformation)を指す言い方で、デジタル技術による変革を指す従来の「DX」(Digital Transformation)と並べて使われている。政府文書でこの2つを並記したうえで、その推進を「AIによるリスクの最小化を前提に」と条件づけているのが、今回の閣議決定の書き方だ。活用を進める目標と、リスクを抑える前提条件が、1つの文のなかに同時に置かれている。
そのうえで、政府横断で推進する事項として3つを挙げた。①経済社会の規制・制度及び運用ルールの見直し、②AI・デジタル基盤の在り方の検討、③AX/DXの社会実装である。規制や制度の見直しと、基盤整備、そして実際に現場で使われるようにする社会実装までを、同じ会議の射程に収めた形だ。
会議の庶務(事務局の仕事)は、内閣官房、内閣府その他関係行政機関の協力を得て、デジタル庁が処理すると定めた。会議の運営に関する事項その他必要な事項は、閣議決定に定めるもののほかは議長が定める、としている。実際に同日、議長決定として構成員の指名と運営要領の2件が決められ、デジタル庁のサイトに掲載された。
政府部門でのAI活用そのものは、すでに個別の施策として動いている。デジタル庁は10月20日、政府職員18万人の生成AI「源内」、AIエージェント環境の提供を開始 安全ルール「源内基準」を公表したところで、新会議の設置はその同じ日の閣議決定にあたる。
議長2人・副議長4人 13の席を8人の大臣が兼務で占める
構成員の顔ぶれは、閣議決定の第2項が役職名で列挙している。議長が内閣官房長官とAI・デジタル改革推進担当大臣の2つ。副議長がAX社会実装担当大臣、内閣府特命担当大臣(規制改革)、内閣府特命担当大臣(人工知能戦略)、デジタル大臣の4つ。構成員が地域未来戦略担当大臣、法制度検証・改革担当大臣、行政改革担当大臣、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)、総務大臣、財務大臣、経済産業大臣の7つである。
この13の役職を、首相官邸が公表している第2次高市改造内閣の閣僚名簿(令和8年10月15日現在)と突き合わせると、実際に席に座る大臣は8人になる。担当大臣の兼務が重なっているためだ。
| 区分 | 閣議決定が挙げる役職 | 就任している大臣 |
|---|---|---|
| 議長 | 内閣官房長官 | 木原 稔 |
| 議長 | AI・デジタル改革推進担当大臣 | 古川 俊治 |
| 副議長 | AX社会実装担当大臣 | 赤澤 亮正 |
| 副議長 | 内閣府特命担当大臣(規制改革) | 中司 宏 |
| 副議長 | 内閣府特命担当大臣(人工知能戦略) | 古川 俊治 |
| 副議長 | デジタル大臣 | 古川 俊治 |
| 構成員 | 地域未来戦略担当大臣 | 藤井 比早之 |
| 構成員 | 法制度検証・改革担当大臣 | 山下 貴司 |
| 構成員 | 行政改革担当大臣 | 中司 宏 |
| 構成員 | 内閣府特命担当大臣(経済財政政策) | 城内 実 |
| 構成員 | 総務大臣 | 藤井 比早之 |
| 構成員 | 財務大臣 | 片山 さつき |
| 構成員 | 経済産業大臣 | 赤澤 亮正 |
古川俊治氏はデジタル大臣で、AI・デジタル改革推進担当と内閣府特命担当大臣(人工知能戦略)を兼ねている。このため議長の一席と副議長の二席を同じ大臣が占めることになる。中司宏氏は内閣府特命担当大臣として規制改革を担当し、行政改革担当も兼ねるため副議長と構成員の両方に、赤澤亮正氏は経済産業大臣とAX社会実装担当を兼ねるため副議長と構成員の両方に名前が入る。藤井比早之氏も総務大臣と地域未来戦略担当の兼務で、構成員の二席にあたる。
第2項にはただし書きがあり、議長は必要があると認めるときは、列挙された国務大臣以外の国務大臣を構成員として参加させ、または関係者の出席を求めることができる。テーマによって所管の大臣を呼び足せる余地を残した書き方になっている。
有識者10人を議長決定で指名 産業界・自治体・法学者を並べる
閣議決定の第2項は、大臣の役職に加えて「AI・デジタル改革、規制改革及び行政改革に関し優れた識見を有する者のうちから議長が指名する者」も構成員とすると定めている。この規定に基づき、同じ10月20日の議長決定で10人が指名された。
| 氏名 | 肩書き(議長決定の記載) |
|---|---|
| 北野 宏明 | ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長/日本経済団体連合会デジタルエコノミー推進委員会AI活用戦略タスクフォース主査 |
| 久保田 由美恵 | 安川電機取締役執行役員技術開発本部AIロボティクス統括部長 |
| 佐藤 孝弘 | 山形県山形市長 |
| 宍戸 常寿 | 東京大学大学院法学政治学研究科教授 |
| 中室 牧子 | 慶應義塾大学総合政策学部教授 |
| 松尾 豊 | 東京大学大学院工学系研究科教授 |
| 丸山 絵美子 | 慶應義塾大学大学院法務研究科教授 |
| 村岡 嗣政 | 山口県知事 |
| 山口 明夫 | 日本アイ・ビー・エム代表取締役会長/経済同友会代表幹事 |
| 吉永 京子 | 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授 |
肩書きの並びを見ると、産業界からは北野氏と山口氏が経団連・経済同友会の役職を併記された形で入り、久保田氏が産業用ロボットのAI開発の実務から加わる。自治体側は山形市長と山口県知事の2人で、市と県の両方の層が入った。学界では松尾氏がAI研究、宍戸氏と丸山氏が法学、中室氏が教育経済学の分野から名を連ねる。会議が規制・制度の見直しを所管事項に掲げていることを踏まえると、法学の研究者が2人入っている点が構成の特徴といえる。
人材面の課題はすでに別の場で議論されている。デジタル庁の検討会では、デジタル人材「230万人」は1年前倒しで達成、次は質を問う デジタル庁検討会が初会合の議事概要が公表されており、量の目標を達成した後の質の議論に移っている。
廃止されるデジタル行財政改革会議 14回開き「取りまとめ2026」まで
今回の閣議決定の附則は1文で、「デジタル行財政改革会議の開催について(令和5年10月6日閣議決定)は、廃止する。ただし、廃止前のデジタル行財政改革会議が検討した事項等については、会議に引き継がれるものとする」と定めた。会議体そのものはなくすが、審議の中身は新会議が受け継ぐという整理である。
廃止されるデジタル行財政改革会議は、2023年(令和5年)10月6日の閣議決定で設置された。内閣官房のサイトに残る記録では、第1回が同年10月11日に開かれ、以後およそ2〜4か月おきに会合を重ねて、第14回の令和8年7月7日が最後の開催となっている。約2年9か月で14回である。
最終回となった令和8年7月7日の会合では、「デジタル行財政改革 取りまとめ2026」が会議決定として取りまとめられた。この会議の下には、戦略や準備の検討会、自治体との対話の場など複数の下部組織が置かれ、内閣官房のサイトには各回の議事次第・資料と議事要旨・議事録が並んでいる。関連する法改正としては、「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律及び情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律」が第221回国会で令和8年7月10日に成立し、同年7月17日に公布されたことも同サイトに記されている。
新会議は、この蓄積を引き継いだうえで、会議の名称に「AI」を掲げ直す形になる。旧会議が「デジタル行財政改革」という枠で行政と財政の側からデジタル化を進める位置づけだったのに対し、新会議は閣議決定の第1項でAXとDXを並べ、規制・制度の見直しとAI・デジタル基盤、社会実装を所管事項に挙げている。庶務の処理もデジタル庁と明記された。
資料と議事録は公表が原則 初会合の日程は公表されていない
同じ10月20日の議長決定で、運営要領も定められた。内容は3項と短い。第1項が「会議において配布された資料は、原則として、公表する」、第2項が「会議の議事録を公表する。ただし、議長が特に必要と認めるときは、議事録の一部を公表しないものとすることができる」、第3項が運営要領に定めるもののほか必要な事項は議長が定める、というものだ。
注目したいのは第2項が「議事要旨」ではなく「議事録」を公表対象にしている点である。政府の会議では、発言の要点をまとめた議事要旨だけを出す例と、発言をそのまま載せる議事録を出す例がある。新会議の運営要領は議事録の公表を原則とし、非公表にできるのは「議長が特に必要と認めるとき」の「一部」に限る書き方になっている。廃止されるデジタル行財政改革会議では、本体会議について「議事要旨・議事録」が各回ごとに公開され、下部組織では議事要旨だけの回もあった。
一方で、第1回会合がいつ開かれるかは、この記事の執筆時点でデジタル庁のサイトに掲載されていない。同サイトの「新着情報」は10月20日の閣議決定と議長決定の2件のみで、「資料」の欄に並ぶのも今回の3つの決定文書だけである。会議の目的、構成員の顔ぶれ、運営の原則までは決まったが、具体的な議題と日程は、まだ公表された一次情報では確認できない。
会議が所管事項に掲げた「経済社会の規制・制度及び運用ルールの見直し」は、既存の法令や行政運用に手を入れる話である。どの分野から着手し、どんな工程で進めるのかは、初会合で配布される資料と議事録を待つことになる。運営要領が資料と議事録の公表を原則としたことで、その中身は会議後に確認できる建前になっている。
