デジタル庁は10月14日、「今後のデジタル人材育成政策に関する検討会」の第1回会合の議事概要を公表した。会合は9月9日に同庁の庁議室とオンラインを併用して開かれた。政府が2022年度から掲げてきた「デジタル人材230万人育成」の目標は、2025年度までの累計が243.5万人(速報値を含む)となり、期限より1年早く達成された。松本デジタル相は冒頭のあいさつで、育成された人材がどのような成果を生んでいるかという質的な評価は「十分に検証されているとはいえない」と述べ、今後は量だけでなく質も重視するよう求めた。検討会は2027年度以降の新しい政府目標と取組方針を議論する。

検討会は何を決めるのか

検討会は、7月21日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」で、デジタル人材の育成に関する2027年度以降の政府目標と取組方針をまとめるとされたことを受けて設けられた。9月1日にデジタル監が開催を決め、庶務はデジタル庁の戦略・組織グループが担う。

構成員は9人。座長は国際高等研究所所長の西尾章治郎氏で、第1回会合で矢田稚子氏(矢田わか子政策研究所代表)が副座長に就いた。ほかに慶応義塾大学教授の大屋雄裕氏、日本経済団体連合会常務理事の小川尚子氏、シンシアリー代表取締役の國本知里氏、多摩大学教授の平山敏弘氏、日本CTO協会理事の広木大地氏、労働政策研究・研修機構副統括研究員の藤本真氏、和談代表取締役社長の吉崎亮介氏が名を連ねる。

会合は2026年度内に5、6回開く予定で、初回と最終回だけを対面とオンラインの併用とし、それ以外はオンラインで開く。会議資料は原則公開とする一方、議事そのものは「関係者による闊達な議論につなげる観点から」非公表とし、構成員の確認を経た議事概要だけを公開する。今回公表されたのも、発言者名を伏せて意見を要約した議事概要だ。

事務局が示した論点(資料4)は5つある。エージェンティックAI(自律的に作業をこなすAI)を含むAIの急速な進化やサイバーセキュリティの重要性の高まりを踏まえた人材像、スキルセットを継続的に見直して可視化する仕組み、習得したスキルや資格を証明して活躍につなげる上での課題、「230万人目標」の振り返りと次の目標の在り方、重点的に取り組む施策――である。

「230万人」はどう数えたのか

230万人という数字は、2023年12月26日に閣議決定された「デジタル田園都市国家構想総合戦略(2023改訂版)」に盛り込まれた。地域のデジタル化を引っ張る「デジタル推進人材」について、デジタル社会の推進に最低限必要な人数を「大胆な仮説をもとに」330万人と推計し、当時の情報処理・通信技術者の約100万人との差を230万人とした。2024年度末までに年45万人を育てる体制を整え、2026年度末までの5年間で育成するという計画だった。

330万人の推計には2つの経営理論が使われた。組織の構成員の30%が変わればその組織の文化が変わるという「黄金の3割理論」と、全体の16%の組織が変われば変革がほかにも広がるという「イノベーター理論」を当てはめ、当時の労働人口6800万人から逆算した。基準となった約100万人は、2015年の国勢調査で「システムコンサルタント・設計者」「ソフトウェア作成者」など3つの職業を合算した人数だ。

デジタル庁が会合に出した資料2によると、各年度の育成数は2022年度32.9万人、2023年度51.1万人、2024年度74.0万人、2025年度85.6万人と増えた。2023年度以降は、計画で掲げた年45万人を上回り続けている。

デジタル人材の年度別育成数(関係省庁の施策実績の合計)(万人)

025507510032.922年度51.123年度74.024年度85.625年度
出典: デジタル庁「これまでのデジタル人材育成の目標について」(2024・25年度は一部速報値を含む)
数値で見る(単位: 万人)
項目万人
22年度32.9
23年度51.1
24年度74.0
25年度85.6

数字の中身は試験合格者や大学の定員

育成数は、関係省庁が担当する施策の実績を足し上げたものだ。2025年度の85.6万人の内訳を見ると、最も多いのは文部科学省の数理・データサイエンス・AI教育で、大学などで応用基礎レベルの教育を受けられる1学年あたりの定員数が26.1万人と数えられている。次いで、厚生労働省の人材開発支援助成金を使ったデジタル分野の受講者数が20.0万人で、2022年度の0.8万人から急増した。

経済産業省の分は、デジタル人材育成プラットフォームでの講座紹介やDX(デジタル技術による業務・事業の変革)推進施策を通じた育成が14.4万人、情報処理技術者試験の合格者数が12.3万人だった。情報処理技術者試験は、2027年度から出題の枠組みが変わることが決まっている(情報処理技術者試験、2027年度春から新制度 知識の出題分類は23から30へ 基本情報と情報セキュリティマネジメントのシラバス案を公開 応用情報と高度8区分は3試験に再編)。

厚労省の公的職業訓練と教育訓練給付によるデジタル分野の受講者は8.9万人。農林水産省のスマート農林水産業の人材育成が2.9万人で、総務省のサイバー防御演習「CYDER」と統計データアナリスト研修、デジタル庁の情報システム統一研修、国土交通省のインフラ分野のデジタル技術研修は、いずれも1万人に満たなかった。

資料2は、この目標が主な対象にしたのは「AX/DXを推進する人材」の層だと整理している。AXはAIを使った変革を指す。一方、すべてのビジネスパーソンに求められるリテラシーの層として、ITパスポート試験の合格者13.2万人と、大学などのリテラシーレベルのデータサイエンス・AI教育59.1万人(いずれも2025年度)を別に示した。

構成員「AIを使える人ではなく、変革できる人」

自由討議では、人材像の捉え直しを求める意見が相次いだ。議事概要によると、「『デジタル人材』という概念は解像度が粗い」として、研究開発を担う人材と利活用を担う人材を分けて議論すべきだとの指摘があった。「AIを利用できる人材ではなく、AIを活用して組織や事業を変革できる人材が重要になっている」との意見も出た。

AIエージェントの活用が広がるにつれ、人間には構想力や意思決定能力、マネジメント能力がより求められるとの見方も示された。AIを使って大きな成果を上げる人とそうでない人の「二極化が進む可能性がある」として、成果を上げる人の働き方を類型化して教科書にまとめ、多くの人が追いつける環境を整えるべきだとの提案があった。人材を増やすこと自体が目的ではないとして、本来の業務にデジタルの知識を上乗せした「プラス・デジタル人材」として整理すべきだとの意見もあった。

スキルの身につけ方では、生成AIの普及で必要なスキルが大きく変わっており、スキル標準を継続的に更新する必要があるとされた。歴史、経済、法学などの人文社会科学を含む幅広い知見が要るとして、文系・理系の区分にとらわれない育成を求める声もあった。

資格を賃金に結び付けられるか

学んだ成果をどう生かすかも論点になった。地方の人材需要と、女性を含む社会人の学び直し需要とのミスマッチを解消し、スキルや資格を正当に評価して可視化する仕組みが重要だとの意見が出た。一方で、可視化しても「賃金や雇用等に結び付かなければ十分に機能しない」との指摘もあった。資格の取得から出発するのではなく、配置転換やプロジェクトへの参加といった「出口」を先に設計すべきだとの意見や、スキルや資格が市場価値と結び付いた海外の仕組みを参考にしてはどうかとの提案もあった。

厚労省が9月に公表した労働経済白書は、AIを使う労働者のうち勤め先から訓練を受けた人の割合で日本が米国を大きく下回っていることを示している(AIと協働する訓練を受けた労働者、日本の製造業は33.3%で米国の62.7%の半分 令和8年版労働経済白書 実質賃金は4年連続で減少)。

閉会にあたり西尾座長は、これまでの目標は受講や資格取得などの量的な指標に重点が置かれていたと振り返った。そのうえで、AX/DXによる変革を実現できる人材について、人材像やレベル、果たすべき役割、活躍する場を整理してから目標を設定する必要があると述べた。次の目標が人数で示されるのか、別の指標になるのかは、年度内の議論で詰めることになる。