デジタル庁は9月30日、令和8年熊本地震の被災自治体などに緊急提供していた政府職員向けの生成AI利用環境「ガバメントAI 源内(げんない)」の提供を、同日で終了したと公表した。7月29日午前11時ごろの開始から64日間で、ログインのあった登録アカウントは全国で148機関・団体の325個、プロンプトの入力回数は83機関・団体の計1,305回だった。要請のあった一部の自治体については、令和8年度末まで提供を再延長している。
平時は政府職員向け、災害時は全国の自治体へ開放
源内は、デジタル庁が自ら作った政府職員向けの生成AI利用環境だ。2026年5月から全府省庁の職員約18万人を対象にした大規模実証に入っており、チャットや文章作成、法制度の調査、音声の文字起こしなど多数のAIアプリを職員が選んで使える。10月ごろにはAIエージェントを職員が作って動かせる環境を導入する計画で、その内容はデジタル庁が9月18日に公表している(政府職員18万人の生成AI「源内」、10月ごろAIエージェント環境を導入へ 職員の業務手順を「スキル」にして省庁横断で共有 政府全体で1万〜数万件と見積もり)。
今回の緊急提供は、この平時の枠を災害時に外した措置になる。デジタル庁は目的を「大規模災害が発生した際、様々な災害情報の調査・整理・分析が必要となり、平時をはるかに超える業務が一度に集中するため」と説明している。
使える相手は被災自治体だけではない。災害時応援協定に基づく支援業務のために全ての都道府県と全ての市区町村(いずれもlg.jpドメイン)、災害ボランティア団体・災害支援団体(or.jpドメイン)、政府機関(go.jpドメイン)、そして災害対策基本法に基づく指定公共機関まで対象に含めた。被災地の外から応援に入る自治体や消防本部、医療チームも使えるようにした立て付けである。
物資システム向けのアプリ3件を現場の要請で緊急開発
提供した機能は4つに分かれる。1つめは災害対応業務に有用なAIアプリ16件で、このうち3件は被災自治体などの要請に基づいて緊急に開発した。デジタル庁が例に挙げたのは、検索したい物資を入力すると新物資システム「B-PLo」で定義されている正式な項目名と単位を返すアプリ、必要物資の申告を普段の言い回しのまま入力すればAIが物品名を正規化してB-PLoに読み込める形式に整理するアプリ、災害時保健医療福祉活動支援システム「D24H」が出力するラピッドアセスメントシート(Excel)をダッシュボード化して分析できるアプリの3件だ。いずれも、現場が手作業で表を整えていた工程をAIに任せるためのものだ。
2つめは災害対応向けのユースケース集・プロンプト集80件、3つめは通常の対話型AI機能で、使う大規模言語モデルはClaude Opus 4.8、Claude Sonnet 4.6、Claude Haiku 4.5、Nova Liteの4種類。4つめはAIエージェント利用環境「エージェントチャット」で、複数の作業を連続して実行させ、データの整理・調査・分析やファイルの操作・生成ができる。
緊急提供の告知では、いわゆる「神エクセル」を分析しやすい表形式に変換する使い方や、避難者数の推移グラフの作成、会議録・現地報告音声の文字起こしも活用例として挙げていた。一方で、利用者のデータストレージ機能やデータ共有・交換機能は提供していない。
実行1,305回のうち711回が熊本県内
9月30日時点の提供実績は次のとおりだ。ログインのあった登録アカウント数は全国で148機関・団体の計325個。うち九州地域が21機関・団体の132個、熊本県内が7機関・団体の112個を占める。プロンプトの入力回数は全国で83機関・団体の計1,305回、うち九州地域が735回、熊本県内が711回だった。内訳は通常のチャットが1,096回(73機関・団体)、AIアプリが209回(43機関・団体)。AIエージェントの利用は14機関・団体の71セッション、指示の回数にあたるターン数は541ターンで、このうち熊本県内は33セッション・95ターンだった。
利用した機関・団体の内訳は、市が73、町が28、国の政府機関が19、都道府県が12、法人(大学、放送、社団法人など)が11、特別区が3、村が2。対象は全ての都道府県と全ての市区町村に広げていたが、実際にログインがあったのは都道府県で12、市区町村では市73・町28・村2・特別区3の計106だった。
なお、デジタル庁は8月31日に公表した8月28日時点の実績について、利用者の内訳に誤りがあったとして訂正した。都道府県は39機関・団体から12機関・団体へ、市は131から72へ、町は28から27へ、国の政府機関は19から10へ、法人は13から11へと、いずれも下方に改めている。
デジタル支援チームは延べ253人日、罹災証明書のオンライン申請は6,426件
同じ公表文では、災害派遣デジタル支援チーム(D-CERT)の活動も報告している。7月29日から9月15日まで被災地へ派遣し、延べ253人日。デジタル庁職員が30名で223人日、民間事業者が8名で30人日という構成だった。9月16日以降はオンラインなどを通じて支援を続けている。
活動の中身は、B-PLoの入力効率化ツールの提案、防衛省が借り上げた民間船舶「はくおうⅡ」の宿泊者が一時下船する際の受付手続を効率化する専用アプリの開発・運用で、8月30日からは乗下船時の受付手続にも同じアプリによる支援を広げた。
マイナンバーカードの活用では、被災者生活再建支援金の給付や税・保険料・公共料金の減免・猶予などの申請に必要な罹災証明書について、マイナポータルと各自治体のシステムを使ったオンライン申請の案内を始めている。マイナポータルを通じて被災自治体に提出された罹災証明書の発行申請は、7月28日から9月29日までの累計で6,426件に達した。
地震の概要
気象庁によると、令和8年熊本地震は2026年7月28日午後4時27分に熊本県熊本地方で発生し、地震の規模はマグニチュード7.1、最大震度は7だった。気象庁は陸域でマグニチュード7.0以上かつ最大震度5強以上という基準を満たしたことから、この地震とそれ以降の一連の地震活動を「令和8年熊本地震」と名付けている。デジタル庁は発生当日の7月28日午後6時20分に庁内の災害対策本部を設置し、8月4日午前9時には管轄する政府情報システムが正常に稼働していることを確認したと公表している。
