不動産大手のヒューリック(東京都中央区)は10月13日、連結子会社で東証プライム市場に上場するリソー教育グループ(東京都豊島区)の株式を、株式公開買付け(TOB)で取得すると発表した。買付価格は1株295円で、期間は10月14日から11月26日まで(30営業日)。ヒューリックはリソー教育株の50.87%を持っており、TOBと、その後に残る株式を買い取る手続きを通じて完全子会社にする。リソー教育は同日の取締役会でTOBへの賛同を決め、株主に応募を勧めた。成立すればリソー教育株は上場廃止となる見通し。

買付価格は直前の株価を41%上回る

ヒューリックの開示資料によると、買付価格の295円は、発表前の最後の取引日である10月9日のリソー教育株の終値209円を41.15%上回る。同日までの過去1か月の終値の平均210円に対しては40.48%、3か月平均の206円に対しては43.20%、6か月平均の201円に対しては46.77%の上乗せ(プレミアム)となる。

ヒューリックは今回、リソー教育株を8,688万5,599株持っている。買付けの下限は2,664万6,601株(15.60%)に設定し、応募がこれに届かなければ1株も買い取らない。下限に達した場合の持ち株比率は66.56%となり、株式併合に必要な株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)を通せる水準になる。上限は設けていない。

すべての株式が応募された場合に必要な資金は約247億5,900万円で、ヒューリックは自己資金で賄う。決済の開始日は12月3日。TOBの後に残った株式は、株式等売渡請求か株式併合によって取得し、ヒューリックだけが株主となる形にする。

TOBの成立を確実にするため、ヒューリックはリソー教育の第2位株主である学校法人駿河台学園と、保有する1,033万3,700株(6.05%)をすべて応募する契約を10月13日に結んだ。

塾の「TOMAS」、幼児教育の「伸芽会」を運営

リソー教育は1985年設立の教育グループで、完全1対1の個別指導で進学指導をする学習塾「TOMAS」や、名門幼稚園・小学校の受験塾「伸芽会」を運営している。託児所や学童、英会話スクールなども手がける。

ヒューリックは本業の不動産に加え、子ども向けの教育事業を育てている。2020年9月にリソー教育と資本業務提携を結んで株式5.29%を取得し、教育事業に参入した。その後も買い増しを重ね、2021年11月には持ち株比率が21.54%となり、リソー教育を持分法適用関連会社にした。

2024年には1株320円で上限付きのTOBを行い、第三者割当増資の引き受けと合わせて持ち株比率を51.12%に高め、同年5月28日に連結子会社とした。ただ当時は、上場企業であることが顧客からの認知や人材の獲得に役立つとして、完全子会社化による上場廃止は望ましくないと考えていたと、今回の開示資料で説明している。

両社は、塾や習い事、託児所などを1棟に集めた子ども向けの教育ビル「こどもでぱーと」の出店を共同で進めてきた。ヒューリックは2026年7月、東大受験指導専門塾「鉄緑会」を運営する東京教育研をグループに迎えている。

「親子上場の見直し要請」も契機に

方針を転換した理由について、ヒューリックは発表資料で、完全子会社化によって連携を深め、意思決定を速めることで相乗効果を高められると説明した。さらに「親子上場に対する資本市場からの見直し要請の高まりも契機となった」としている。

親子上場とは、親会社と子会社がともに株式を上場している状態を指す。子会社の一般株主と親会社の利害がぶつかったとき、少数株主の利益が損なわれかねないとの指摘がある。今回のTOBでも、リソー教育はヒューリックから独立した特別委員会を設けて条件を交渉した。

ヒューリックは、リソー教育の幼児教育・個別指導と鉄緑会の大学受験指導を合わせれば、幼児から最難関大学の受験までを幅広くカバーする教育サービスがそろうとしている。少子化で生徒数の伸びが限られる一方、共働き世帯の増加などで「子ども1人あたりの教育投資」は増えており、オンライン教育やデジタル化への先行投資をグループ一体で進める考えだ。上場の維持にかかる費用を削れる点も利点に挙げた。

リソー教育も、上場廃止で「プライム市場上場企業」という知名度が失われれば、人材の採用や雇用の維持に影響が出る懸念があるとしつつ、鉄緑会との相乗効果やM&A(合併・買収)の加速といった利点がそれを上回ると判断した。

240円から5回の提案、前回TOBより25円低く

買付価格は、リソー教育が7月10日に設けた特別委員会との交渉で決まった。特別委員会は独立社外取締役2人と独立社外監査役2人の計4人で、弁護士の小西徹氏が委員長を務めた。

開示資料によると、ヒューリックは9月1日に1株240円を提示した。リソー教育と特別委員会は、似た取引の上乗せ水準を十分に考慮しておらず、事業計画から見た株式の本来の価値と比べても「著しく不十分」として引き上げを求めた。ヒューリックはその後、9月9日に260円、18日に280円、29日に290円、10月2日に295円と提示額を上げた。

ヒューリックが示した買付価格(円)

01002003002409/12609/92809/182909/2929510/2
出典: ヒューリック「リソー教育グループ株券等に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」
数値で見る(単位: 円)
項目円
9/1240
9/9260
9/18280
9/29290
10/2295

特別委員会は295円にもなお引き上げを求めたが、ヒューリックは10月8日、295円が「最良にして最終の提案」でこれ以上は引き上げられないと伝えた。リソー教育と特別委員会は9日、株主に合理的な売却の機会を与えるもので、応募を勧められる水準だと判断したとヒューリックに伝えた。特別委員会は同日、委員全員の一致で答申書を取締役会に提出した。

交渉の過程で特別委員会は、ヒューリック以外の株主の過半数が応募しなければTOBを成立させない「マジョリティ・オブ・マイノリティ」条件の設定も求めていた。ヒューリックは、この条件を付けるとTOBの成立が不安定になり、応募を望む株主の利益にかえって反しかねないとして設定しなかった。

価格の妥当性について、ヒューリック側の算定機関のみずほ証券は、将来の収益から割り引いて評価する手法(DCF法)で1株160円から470円、リソー教育側のプルータス・コンサルティングは同じ手法で170円から354円と算定した。リソー教育はプルータスから、295円が一般株主にとって財務的な見地から公正だとする意見書(フェアネス・オピニオン)も得ている。

今回の295円は、2024年のTOB価格320円を25円下回る。ヒューリックは、前回は公表直前の株価218円に46.79%を上乗せした価格だったのに対し、今回は209円に41.15%を上乗せしたもので、株価の水準と上乗せ幅がともに違うためだと説明している。ヒューリックは2021年に1株443円でリソー教育株650万株を引き受けたこともある。

リソー教育の取締役会決議には、ヒューリックの取締役を兼ねる西浦三郎氏を除く取締役6人が参加し、全員が賛成した。