会計検査院は10月20日、長期固定金利の住宅ローン「フラット35」で取得された戸建て住宅のうち64件(融資額計30億4074万円)が、住宅金融支援機構の承諾や届け出のないまま店舗・事務所や民泊・旅館として使われていたと指摘し、同機構の理事長に会計検査院法第34条に基づく是正の処置を求めた。あわせて同法第36条に基づき、金融機関が使う融資審査の確認表と借り手への説明資料に、間取りの確認や民泊での利用の禁止を具体的に書き込むよう意見を表示した。
自ら住む家に限るローン
フラット35は、民間の金融機関が販売する長期固定金利の住宅ローンで、住宅金融支援機構が金融機関から債権を買い取る「証券化支援事業」の仕組みで成り立っている。機構が買い取った債権は2023年度が2万9246件・9398億円余り、2024年度が2万4975件・7862億円余りだった。
機構の業務方法書は、買い取る債権を「自ら居住するなどの住宅」を建設・購入する人への貸し付けに限っている。金融機関と借り手が結ぶ金銭消費貸借契約の証書には、①借入金を表示された使途以外に使う②届け出ないまま本人や親族が住まない③承諾を得ずに住宅以外の用途に使う――のいずれかに当たり、書面で返済を求められた場合は、借入金の全部または一部を直ちに返すと定めている。検査院の報告はこれらを「不適正利用」と呼ぶ。
機構は、届け出をせずに本人が住まないまま民泊や特区民泊の施設にすることや、承諾を得ずに旅館業の施設として使うことも不適正利用に当たるとしている。機構のフラット35のウェブサイトは、不適正な目的で融資を受けることは契約違反で、残っている債務の一括返済を求めると説明している。
1万925件を調べ、64件を確認
検査院は、2023、2024両年度に機構が買い取った債権5万4221件のうち、住宅以外の用途に使われていれば外観から比較的分かりやすい戸建て住宅4万2622件に着目した。そこから、人口が集中し観光客が多いなど、店舗や事務所、民泊の需要が高いとみられる都市部の物件など1万925件(融資額計4078億6639万円)を抜き出した。
この1万925件について、機構から提供を受けた融資実行データやインターネット上の情報で住宅以外の用途に使われていないかを調べ、兆候があった209件(同89億1074万円)は現地で利用状況を確認した。不適正利用が疑われた135件(同59億4098万円)は機構に調査を求め、金融機関が審査で確認した書類を取り寄せた。その結果、64件が不適正利用に当たると認めた。
| 区分 | 件数 | 融資額 |
|---|---|---|
| 店舗・事務所として利用 | 39件 | 16億6395万円 |
| 民泊(住宅宿泊事業) | 7件 | 3億9600万円 |
| 特区民泊 | 2件 | 7472万円 |
| 旅館業 | 16件 | 9億0607万円 |
| 計 | 64件 | 30億4074万円 |
出典: 会計検査院「証券化支援事業におけるフラット35の債権に係る融資審査等について」
店舗・事務所の39件のうち、美容室やエステサロン、ネイルサロンといった美容業の店舗が16件(同7億7559万円)、飲食店や食品販売店が9件(同2億9686万円)だった。
出入口が2つ、申込み前から旅館の許可
報告は、融資の審査の段階で見抜く手がかりがあったとみられる事例を挙げた。店舗・事務所の39件のうち32件は、店舗用と居住用とみられる2か所の出入口がある住宅だった。このうち6件は、金融機関が借り手から間取りなどが分かる資料を受け取っていなかった。資料を受け取っていた26件の中にも、2か所の出入口に加え、業務用の設備とみられる記載がある図面があった。
福岡市の事例では、借り手が2階建ての新築戸建て住宅をすべて住宅として使うとして2023年5月に5490万円の融資を受けたが、1階でラーメン店を営んでいた。金融機関が受け取った間取りの資料には、2か所の出入口に加え「オーダーカウンター」という飲食店用とみられる設備の記載があった。
民泊・旅館の25件のうち12件(融資額計6億7226万円)は、審査の時点で手に入る情報から、取得後に民泊などに使われるおそれを認識できたと検査院はみている。内訳は、申込みの時点で購入する住宅に既に民泊などの届け出や許可があったものが2件、借り手が別の住宅で既に民泊などを営んでいたものが2件、借り手の勤務先などが民泊を運営する会社だったものが9件(一部重複)。
東京都墨田区の事例では、借り手が3階建ての中古戸建て住宅を2025年1月に5292万円の融資で取得したが、玄関扉に旅館の施設名を書いた貼り紙があった。区のウェブサイトによると、この住宅には申込みより1年以上前から旅館業の許可が出ていた。東京都豊島区の事例では、借り手が2025年2月に8000万円の融資で新築戸建てを取得したが、旅館業の施設として使っていた。借入申込書にあった勤務先は、玄関の貼り紙に書かれた住宅宿泊管理業者と同じで、ほかにも複数の旅館業の施設を運営する会社だった。
審査の確認表と説明資料に穴
機構は金融機関向けの業務マニュアルで、借り手の居住の意思などを確かめる「フラット35融資審査シート」を示している。検査院が確かめたところ、このシートには「賃貸用や事業用の取得の懸念はないか」という項目はあるものの、間取りが分かる資料の提出を受けることにはなっておらず、民泊などを確認項目として明示してもいなかった。機構は金融機関向けの説明会で最近の事例を使って確認方法を説明しているが、具体的な審査項目をシートに書き込むまでには至っていなかった。
借り手に対面で説明し署名を得る「顧客説明資料」にも、店舗などとしての利用や、住まずに第三者へ貸すことが不適正利用に当たるとは書かれていたが、住まずに民泊や特区民泊にすることや旅館業の施設として使うことは具体的に示されていなかった。
検査院は、契約の決まりを守る認識が欠けた借り手がいる中で、機構が審査シートや説明資料に具体的な内容を書き込む検討を十分にしていなかったことが原因だとした。
64件への対応と今後の申込み
検査院が求めた是正の処置は、64件が要件に合うよう借り手に必要な対応を取らせ、それができない場合は全額の繰り上げ返済を請求するなど必要な措置を講じることだ。
意見表示では、過去に判明した事例と似ているなど、取得後の不適正利用のおそれが高い申込みについて、間取りが分かる資料を出してもらうことや、自治体が公表する民泊の所在地を確かめることなどを審査シートに明記するよう求めた。説明資料には、住まずに民泊や特区民泊にすることや旅館業の施設にすることが不適正利用に当たると書き込み、見直した2つの資料を金融機関に周知するよう求めた。
検査院は、機構が今後も証券化支援事業を続けるとしたうえで、不適正利用を可能な限り未然に防ぐよう求めている。今回の調査は戸建て住宅の一部を抜き出したもので、マンションなどの共同住宅は対象に含まれていない。住宅の一部を店舗や事務所にしたい場合、譲渡債権の基準では住宅以外の部分はフラット35の融資の対象にならない。
