会計検査院は10月21日、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が進める共済システムの再構築について、会計検査院法34条に基づき是正の処置を求め、同法36条に基づく意見を表示した。宛先は中小企業庁長官と中小機構の理事長。再構築に関わる26契約の契約額は、当初の計555億4661万円余りから2026年3月末時点で計962億6777万円余りと約1.7倍に増え、支払額は計679億3028万円余りに上る。新システムは2025年8月に稼働させる予定だったが、2度の延期で2027年2月にずれ込み、まだ動いていない。検査院は、増えた費用のうち365億0961万円余りは機構の進め方が適切でなかったために生じたと認定し、品質を十分に確かめたうえで稼働させるよう求めた。

加入者約239万の共済、50年前のシステムを作り直す

中小機構は、小規模企業共済と中小企業倒産防止共済の2つの共済を運営している。制度を所管するのは中小企業庁で、機構は実施機関にあたる。

小規模企業共済は、個人事業主などが掛金を積み立て、事業をやめたときなどに共済金を受け取る仕組みで、2025年度末の加入者は約172万者。中小企業倒産防止共済は、取引先が倒産して売掛金などを回収できなくなったときに、共済金を無利子・無担保で貸し付ける(限度額8000万円)仕組みで、加入者は約67万者。2025年度末の資産は、小規模企業共済勘定が16兆3942億円余り、倒産防止共済勘定が3兆4139億円余りに上る。

加入者の情報や掛金の収納、貸付金の支払いを処理しているのが共済システムだ。いまのシステムは1975年に富士通が開発し、制度改正のたびに改修を重ねてきたが、大規模な刷新は1995年が最後になっている。報告書は、技術の老朽化や肥大化・複雑化、中身が分からなくなる「ブラックボックス化」が進んだ、いわゆるレガシーシステムだと位置づけた。サーバーに使う富士通の大型汎用機(メインフレーム)は、2035年度で保守が終わると富士通が発表している。

機構は2018年4月に共済制度改革推進室を置き、申請手続きのオンライン化など業務の流れを全面的に見直したうえで、システムを作り直す計画を立てた。2021年9月にまとめた全体計画書では、政府の「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン」に沿って進め、いまのシステムの業務内容を基にゼロから組み直す「リビルド」の手法と、設計・開発・テストを順番に進めるウォーターフォール型の開発方式を採ることにしていた。稼働は2025年8月の予定だった。

26契約で962億円、稼働は2027年2月へ

主な契約は5つある。全体計画と要件定義(システムに求める機能をまとめる工程)はアクセンチュアが当初24億1942万円余りで、そのプロジェクト管理はPwCコンサルティングが2億3100万円で請け負った。2022年3月からの設計開発段階では、日本IBMが新システムの設計・開発・保守を当初206億7976万円余りで、EYストラテジー・アンド・コンサルティングがプロジェクト管理を15億3010万円で受注した。アクセンチュアは随意契約で、機構職員を支える発注者支援も69億9600万円で請け負った。これらを含め、相手方は計20社に及ぶ。

ところが、日本IBMとの設計開発契約は2026年3月末までに8回変更され、17の業務が足された。契約額は当初の約2.4倍の487億0941万円に増えている。アクセンチュアの発注者支援契約も149億1622万円と2倍超になった。

稼働時期は2024年8月、2025年8月から2026年9月への延期が決まり、2025年9月には2027年2月への再延期が決まった。当初より1年6か月遅い。工程が遅れた結果、本来は順番に進めるはずの設計・開発・各種テストが同時並行で進む状態になっていた。

検査院によると、2026年3月末時点で再延期に伴う変更契約を結んでいない契約があり、契約額はさらに増える見込みだ。報告書は「679億3028万余円が支払われているにもかかわらず」稼働できておらず、事業の効果が出ていないと指摘した。中小企業庁は2024年3月と2025年12月に機構を指導していたが、遅れの解消と再延期の防止には至らなかった。

増えた費用の内訳、最大は「移行データ」の205億円

検査院は、追加された17業務のうち13業務に伴う増加額365億0961万円余りを、機構の進め方が適切でなかったために生じたと認定した。このうち46億5392万円余りは、いったん作ったプログラムを作り直すなどの「手戻り」の費用だった。要因は大きく5つに分けられている。

機構の進め方が原因とされた契約額の増加(億円)

移行データ205法令要件51現行仕様44一括移行30安全対策19テスト環境13
2026年3月末時点。億円未満は切り捨て出典: 会計検査院「共済システムの再構築について」(2026年10月21日)
数値で見る(単位: 億円)
項目億円
移行データ205
法令要件51
現行仕様44
一括移行30
安全対策19
テスト環境13

最も大きいのは、いまのシステムにあるデータの仕様を調べないまま要件定義書を作ったことによる205億7941万円余りだ。機構は早く設計開発に着手するため、データの調査をせずに契約を結んでいた。さらに、データ移行では富士通が日本IBMの質問に答えると仕様書に書いたが、富士通が応じるかを事前に確かめておらず、契約後に支援を受けられないことが分かった。移行データを検証するテストの追加だけで109億2520万円余りかかり、これが最初の稼働延期につながった。

例として挙げられたのが、データの保存場所の見落としだ。機構はデータを主要なファイルのほか、ディスク上に設けた仮想のテープ領域にも保存していたが、そこにはバックアップしか無いと考え、移行の対象に入れていなかった。2024年3月の調査で、その領域にしか無いデータがあると判明し、対応に計7億8918万円余りがかかった。

法令と違う設計、仕様の見落とし

2番目に大きいのは、共済の法令や実際の運用に沿った要件を要件定義書に十分に書かず、日本IBMにも伝えていなかったことによる51億7109万円余りで、2度目の延期の原因になった。機構とアクセンチュアは、日本IBMが法令を参照して設計するものとしていた。

たとえば、加入者が掛金の額を変えるとき、法令では申込書を受け取った日の属する月に効力が生じる。しかし要件定義書にこの点は書かれず、機構の職員には周知の事実だったため日本IBMにも十分に伝えられなかった。出来上がった基本設計書は、機構が承認した日の属する月に効力が生じる仕様になっていた。機構は二重の確認などの体制を作らないまま設計書を点検し、人事異動で業務に詳しくない職員が点検に加わる中、確認項目やマニュアルも整えていなかった。2023年10月に点検を終えて設計書を受け取った後、2024年3月に担当課からの問い合わせで違いが分かったが、開発済みのプログラムの広い範囲に影響が及び、仕様変更に32億8894万円余り、うち手戻りに13億2756万円余りがかかった。

いまのシステムの仕様を十分に調べなかったことによる増加は44億1472万円余り。2021年7〜8月の情報提供依頼の段階で、富士通は、設計書が整理されていないレガシーシステムではプログラムの解析だけで業務の意味や背景をつかむのは難しいとして、追加の調査が必要だと意見していた。だがアクセンチュアが法令や既存のプログラムで設計できるとの見解を示し、PwCも異論を示さなかったため、機構は追加調査をしなかった。決算に使う倒産防止共済の「リスク管理債権」の帳票を出す機能が抜けていたことも、後から分かった。

このほか、貸付制度の移行も見込み違いだった。機構は小規模企業共済の貸付けをオンラインの新制度へ一括で移す前提で、いまの貸付制度の機能を要件定義書に入れていなかった。2022年3月に顧問弁護士から、振込手数料がかかるなど加入者に不利益が生じるため個別の同意が必要で、一括移行は難しいとの意見を受けたが、日本IBMに伝えたのは2023年3月だった。この分の増加は30億4319万円余り。情報セキュリティの検討が不十分で、2022年6月にネットワークへの不正侵入のおそれが見つかった分は19億4887万円余り、開発とテストを並行させるためのテスト環境の追加などは13億5232万円余りだった。

検査院「潜在する不具合のおそれ」、品質確認を要求

検査院は、工程が同時並行になって管理が複雑になっていることや、設計書の点検体制が整っていなかったことを踏まえ、「現在検知できていない不具合等が開発中の新システムに潜在しているおそれがある」と指摘した。

そのうえで、機構に対し、共済の実施に必要な品質が確保されていることを十分に確かめてから新システムを稼働させ、懸念が生じた場合は必要な対応をとるよう是正を求めた(34条)。今後ほかのシステムを作り直す際には、既存システムの業務内容とデータの仕様を把握し、法令や運用の実態に基づく要望を開発事業者に正確に伝えるなど、ガイドラインに沿った体制を整えるよう意見を表示した(36条)。中小企業庁には、これらが確実に実行されるよう機構を指導・助言することを求めた。

報告書は原因として、機構がガイドラインに沿って業務の整理や仕様の把握、問題点の検討を進めることの大切さを十分に理解していなかったことと、中小企業庁の指導が不十分だったことを挙げた。機構は新システムの稼働を目指して再構築を続ける方針だという。

約240万の加入者を抱える2つの共済は、いまも50年前に開発されたシステムで動いている。大型汎用機の保守は2035年度で終わる。検査院が問題にしたのは作り直すこと自体ではなく、作り直すと決めた後の進め方だ。業務の中身を整理せず、データの所在を確かめず、法令の細目を開発会社に伝えないまま設計を進めた結果、数百億円単位の追加と1年半の遅れが生じた。

稼働予定の2027年2月までに残る工程は、設計・開発・テストが重なり合っている。再延期に伴う契約の見直しも残っており、総額はまだ固まっていない。中小機構と中小企業庁が品質の確認をどう進め、その結果をどこまで示すのかが、次に問われる。