厚生労働省は10月16日に開いた社会保障審議会医療保険部会(第218回)に、後期高齢者医療制度で上場株式の配当などの金融所得を保険料の算定と窓口負担割合の判定に反映するスケジュール案を示した。金融機関などが税務署に出している「法定調書」を、後期高齢者医療広域連合にもオンラインで出す義務を2029年1月に始め、2028年分の金融所得を2029年8月から保険料と窓口負担に反映する。2030年8月以降は、すべての法定調書に記載された金融所得を反映する。
この仕組みは、5月に成立し6月5日に公布された健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)に盛り込まれた。施行日は「公布後5年以内に政令で定める日」とされており、今回の資料はその具体的な時期を案として示した。厚労省は2027年度予算の概算要求に、関連するシステム改修費として56億円を計上した。
確定申告するかどうかで負担が変わる 改正の狙い
後期高齢者医療制度は75歳以上の人が加入する医療保険で、保険料と、医療機関の窓口で払う自己負担の割合(1割・2割・3割)は、市町村が把握した所得をもとに決まる。資料3によると、年金や給与、不動産の所得は市町村民税の課税所得として市町村がつかんでおり、保険料と窓口負担に反映されている。
上場株式の配当などの金融所得は扱いが分かれる。確定申告をすれば市町村が所得を把握できるが、源泉徴収だけで済ませて確定申告をしない場合は、市町村が所得を把握できない。同じ額の配当を受け取っていても、申告したかどうかで保険料や窓口負担が変わる。資料3はこれを「不公平が発生しており是正が必要」と位置づけた。
改正法は、金融機関などに対し、所得税法などの規定で税務署長に提出が義務付けられている報告書や調書(法定調書)を、後期高齢者医療広域連合にもオンラインで提出する義務を課した。対象は改正後の高齢者の医療の確保に関する法律第138条の2に列挙されており、金融商品取引業者などが出す特定口座の年間取引報告書のほか、上場株式等の配当等に関する支払調書、信託の計算書、名義人として配当を受け取った者の調書が並ぶ。提出する枚数が少ないと見込まれる事業者が税務署に出した分は、税務署長が広域連合に提供する。
2029年1月に提出義務 2回に分けて反映
スケジュール案では、2029年1月を金融機関などのオンライン提出義務の施行日とした。それまでの期間で、仕様の検討、法定調書データベース(仮称)の構築、金融機関のシステム、国税庁のe-Tax、広域連合の標準システムなどの改修を進める。
反映は2段階で進む。法定調書には、翌年1月31日までに1年分をまとめて出す「年次提出分」と、支払いから1か月以内に出す分がある。最初に使うのは、2029年1月末に提出される2028年分の年次提出分で、2029年8月から保険料と窓口負担に反映する。年次提出分は枚数で全体の約8割を占める。次に、2029年2月から2030年1月末までに提出される2029年分の法定調書を使い、2030年8月以降はすべての法定調書の金融所得を反映する。
| 法定調書の名称 | 提出期限 |
|---|---|
| 特定口座年間取引報告書 | 翌年1月31日 |
| 利子等の支払調書 | 翌年1月31日 |
| 国外公社債等の利子等の支払調書 | 翌年1月31日 |
| 名義人受領の利子所得の調書 | 翌年1月31日 |
| 名義人受領の配当所得の調書 | 翌年1月31日 |
| 信託の計算書 | 翌年1月31日 |
| 配当、剰余金の分配、金銭の分配及び基金利息の支払調書 | 1か月以内 |
| 国外投資信託等又は国外株式の配当等の支払調書 | 1か月以内 |
| 投資信託又は特定受益証券発行信託収益の分配の支払調書 | 1か月以内 |
| オープン型証券投資信託収益の分配の支払調書 | 1か月以内 |
| 配当等とみなす金額に関する支払調書 | 1か月以内 |
出典: 厚生労働省「後期高齢者医療制度における金融所得の公平な反映のスケジュールについて」(第218回医療保険部会 資料3)
国保中央会がデータベース 国が改修費を負担
集まった法定調書の情報は、法定調書データベース(仮称)で個人ごとに名寄せし、広域連合が保険料と窓口負担の判定に使う所得として計算する。改正法の第138条の3は、広域連合が報告の受け取りや情報の整理の事務を「指定法人」に委託できると定めており、資料3はその指定法人を公益社団法人国民健康保険中央会とし、データベースの開発と運用を担うとした。
概算要求の56億円は、全額が「投資枠」に当たる。事業の実施主体は国保中央会、自治体、金融機関などで、国の補助率は国保中央会と自治体が10分の10、金融機関などが2分の1である。自治体のシステムは新たな税項目を連携できるように、金融機関のシステムはオンライン提出に合わせて改修する。
資料3は、この見直しの位置づけについて、自民党と日本維新の会の政調会長間の合意などで「年齢にかかわらず公平な応能負担を実現するための第一歩」として、まず後期高齢者医療制度の窓口負担割合や保険料に金融所得を反映することとされたと説明している。
国会は早期実施と対象の拡大を求めた
資料3は、改正法を審議した衆参両院の厚生労働委員会で出た金融所得の反映に関する主な指摘として、後期高齢者医療制度への反映を早期に実施すべきだという意見、国民健康保険や介護保険でも金融所得の勘案を検討すべきだという意見、金融機関や自治体のシステム整備を国が支援すべきだという意見を挙げている。介護保険でも2割負担の線引きとあわせて負担の在り方が議論されている(介護の2割負担、対象拡大の議論が始まる 年金収入280万円の基準引き下げを2026年度中に結論)。
衆議院厚生労働委員会は4月24日、参議院厚生労働委員会は5月28日に、それぞれ附帯決議を採択した。いずれも、制度導入後の後期高齢者の受診への影響を把握・検証して必要な見直しを行うことを政府に求めた。参院の附帯決議はさらに「把握されていない所得を正確に捕捉する方策」の検討を求めている。衆院の附帯決議は、国保中央会の強化を含め、自治体の事務負担を軽くするよう求めた。
窓口負担の見直し議論と並行 年内に工程表
同じ部会では、70歳以上の窓口負担の見直しも並行して議論されている。資料1によると、7月21日に閣議決定された骨太方針2026は、原則3割の現役世代との間で「年齢によらない真に公平な応能負担」を実現する観点から窓口負担割合を見直し、改革工程表を2026年末までに策定するとした。医療・介護保険での金融所得と資産の扱いも、取り組む項目に挙げている。マイナンバー制度を使った所得・資産情報の把握基盤の整備を急ぐことも明記された。
資料1には、判断の材料となる数字も並ぶ。2023年度の後期高齢者の実効給付率、つまり医療費のうち保険から支払われた割合は、3割負担の現役並み所得者が80.0%、2割負担の一定以上所得者が89.0%、1割負担の一般・低所得者が93.3%で、後期高齢者全体では91.7%だった。世帯主が75歳以上の世帯の貯蓄は、4割以上が1000万円以上の一方、貯蓄がない世帯も11.5%ある。
10月1日の前回部会では、委員から「高齢者を年齢だけで別のくくりとして特別扱いをするということは、合理性が非常に少なくなってきているのではないか」という意見と、「自己負担を一律3割にするのは早計ではないか」という意見の両方が出た(事務局が整理した主な意見)。どの所得を負担の判定に数えるかを決める今回の工程案は、窓口負担割合の線引きそのものを動かす年末の工程表に先立って、判定の土台となる所得の範囲を広げるものになる。株式の配当を源泉徴収だけで受け取っている75歳以上の人は、2029年8月以降、保険料と窓口負担割合が変わる可能性がある。
