会計検査院は10月19日、政府開発援助(ODA)の実施状況について、外務大臣と独立行政法人国際協力機構(JICA)理事長に対し、会計検査院法第36条に基づく意見を表示した。モザンビーク、パラグアイ、ルワンダ、東ティモール、ウズベキスタンの5か国で実施された事業を検査したところ、無償資金協力2事業(贈与額計10億6943万余円)で事業の目的が十分に達成されず、援助の効果が十分に出ていなかった。モザンビークでは日本の資金で整備した移動式変電所が落雷で故障し、約4年半にわたり整備の目的どおりに使われていなかった。ウズベキスタンでは贈った点字作成機材の規格が合わず、点字書籍が1冊も作られていなかった。

5か国の115事業を検査

検査の対象は、5か国で平成16年度から令和7年度までに実施された無償資金協力82事業(贈与額計357億0328万余円)、技術協力18事業(経費累計額79億2981万余円)、有償資金協力15事業(貸付実行累計額3131億2441万余円)。無償資金協力のうち56事業(贈与額計5億4469万余円)は、在外公館がNGOや地方公共団体などに資金を贈る「草の根・人間の安全保障無償資金協力」(草の根無償)だった。

援助の種類 事業数 金額
無償資金協力 82 贈与額計357億0328万余円
(うち草の根無償) 56 贈与額計5億4469万余円
技術協力 18 経費累計額79億2981万余円
有償資金協力 15 貸付実行累計額3131億2441万余円
会計検査院がODAの実施状況を検査した5か国の事業出典: 会計検査院「政府開発援助の実施状況について」(令和8年10月19日)

検査院は外務本省とJICA本部で協力準備調査報告書などを確認し、在外公館とJICAの在外事務所でも説明を聴いた。さらに外務省またはJICAの職員の立ち会いのもと、相手国の事業実施責任者から直接説明を受けて現場を確かめる現地調査を行った。

着眼点は二つある。一つは、外務省とJICAが事前の調査や審査で、事業が相手国の実情に合っているかを十分に検討し、援助後も状況を把握して必要な追加措置を執っているか。もう一つは、援助で整備した施設や機材が当初の計画どおりに使われ、援助の後も相手国によって順調に運営されているかである。この結果、効果が十分に出ていないとされたのが、次の2事業だった。

モザンビーク 落雷で故障した移動式変電所

一つ目はモザンビークの「送変電網緊急改修計画」(贈与額10億5957万余円)。首都マプト近郊のインフレネ変電所の変圧器の容量を増やすなどして、南部の電力供給を安定させることを目的とした事業で、外務省は平成29年(2017年)8月にモザンビーク政府と交換公文を取り交わした。

事業には、変圧器などの機器をトレーラーに載せた「移動式変電所」の整備も含まれていた。JICAの協力準備調査報告書によれば、過負荷になっている変電所の急増する電力需要に応じるほか、配電用変電所で変圧器を点検する間に代わりとして使い、マプト首都圏近郊の変電所の間を移動して保守を支える計画だった。

検査院によると、インフレネ変電所の変圧器は支障なく運用されていた。一方、移動式変電所は令和2年(2020年)1月に導入され、負荷が最も高いとされていたマトラガレ変電所で運用を始めたが、3年(2021年)11月に落雷で故障した。マプト首都圏近郊は落雷が多い地域で、当初は移動式変電所の避雷器を配置先の変電所の接地設備とつないで雷の電流を逃がす設計だった。ところがマトラガレ変電所で不具合が頻繁に起きたため、事業実施機関のモザンビーク電力公社は接地設備との接続を外し、移動式変電所の避雷器だけで運用していた。JICAは、単独で運用する際の避雷対策が不十分だったため、雷の電流を逃がせなかった可能性が高いと説明している。

故障の原因は4年(2022年)4月にメーカーの確認で特定されていた。だが、電力公社がもともと持っていた別の故障変圧器1台と一緒に修理する調整などで手続きが長引き、5年(2023年)12月に2台を南アフリカへ運び出した。修理は8年(2026年)2月に終わったものの、モザンビーク国内の金融機関で外貨が不足して修理費を払えず、変圧器は戻ってこなかった。

この結果、落雷から検査院が現地調査をした8年4月まで約4年半にわたり、移動式変電所は整備の目的どおりに使われなかった。その間、マトラガレ変電所では、トレーラー上の変圧器以外の機器を地面に据えた代替の変圧器とつないで運用しており、変電所の間を移動するという本来の使い方ができなかった。電力公社は検査の後、8年5月に修理費を払い終え、変圧器は同年7月にモザンビークへ戻された。試運転を経て運用を再開する見込みだという。

ウズベキスタン 規格が合わない点字作成機材

二つ目は、草の根無償の「ウズベキスタン視覚障害者協会点字作成機材整備計画」(贈与額985万余円)。点字プリンタや点字翻訳ソフトなど5セットをそろえ、ウズベク語の点字書籍や点字教材を作れるようにして、視覚障害者の教育と情報の入手を後押しする事業だった。在ウズベキスタン日本大使館が令和4年(2022年)3月に協会と贈与契約を結び、9万1283ドル(邦貨換算985万余円)を贈った。協会は申請時、ウズベキスタン政府の求めに応じて点字書籍などを毎月約400冊作り、特別支援学校や点字図書館に配る計画を大使館に出していた。

協会は4年7月に機材を調達し、5年(2023年)3月に事業完了報告書を出した。しかし8年4月の検査院の現地調査では、この5セットで点字書籍が作られた実績は無かった。政府の求める点字書籍を作るにはA3判の両面に印刷できる機材が要ったのに、協会は機材で点字書籍を作った経験が無く、選び方の知識も十分でなかったため、A4判の片面印刷の機材を調達していた。点字プリンタの手入れなどに使う工具類「スタータキット」5組のうち4組(4480ドル、邦貨換算48万余円)は紛失していた。

協会は5年8月、自己負担でA3両面印刷の機材を買い、政府向けの点字書籍はそちらで作っていた。日本が贈った5セットは「今後も活用の見込みがない」として、8年4月に大使館の承認を得て視覚障害者学校と視覚障害者特別図書館へ貸し出した。紛失したキットも自己負担で買い直して貸し出している。

検査院が問題にしたのは、大使館の事前調査だった。外務省の草の根無償のガイドラインは、申請団体が過去2年以上にわたり実体のある活動を続けているかなどを調べ、実施能力を確かめるよう定めている。協会は昭和31年(1956年)から平成17年(2005年)までは手作業で点字書籍を作っていたが、その後令和4年まで長く作っていなかった。大使館はこうした実績の無さを把握しておらず、点字書籍のサンプルの確認や、発注元となる政府の部署への機材の仕様の聞き取りもしていなかった。

外務省とJICAに求めた二つの対応

検査院は、効果が出ていない状態は適切でなく、外務省とJICAが必要な措置を講じて改善する必要があるとした。原因として、モザンビークの事業では、落雷や外貨不足という外部の要因もあったとしたうえで、JICAが落雷の多い地域だと踏まえながら、配置先の変電所に不具合が起きて移動式変電所を単独で使う場合の避雷対策を十分に講じるよう助言していなかったことを挙げた。ウズベキスタンの事業では、外務省が事前調査で、申請団体に点字書籍づくりの実績が続いてあるか、機材の仕様が目的に合っているかを十分に確かめていなかったとした。

そのうえで二つの対応を求めた。JICAには、修理後の変圧器の状況を引き続き確認して事業の効果が出ているかを適時に把握し、今後の無償資金協力などで移動式変電所を整備する際は、配置先の変電所に不具合が起きた場合の避雷対策を十分に講じるよう事業実施機関へ助言することを求めた。外務省には、機材を調達して書籍類を作る草の根無償で、事前調査の際に申請団体が計画を確実に実行できる活動実績を続けて持っているかを確かめ、使った経験の無い機材を調達するときは相手国政府の関係部署などにも仕様が妥当かを確認するよう、在外公館に周知徹底することを求めた。

ODAの仕組みと検査院の「意見表示」

ODAには、返済を求めずに資金を贈る無償資金協力、技術研修員の受け入れや専門家の派遣、機材の供与などを行う技術協力、低い金利や長い返済期間の緩やかな条件で資金を貸す有償資金協力がある。無償資金協力は平成20年(2008年)10月以降、外務省が実施する一部を除いてJICAが担い、草の根無償のように在外公館が資金を贈るものは外務省に残った。草の根無償は原則1000万円以下の比較的小さな事業で、贈与契約から1年以内に終えることになっている。

検査院によると、令和7年度に外務省またはJICAが実施した無償資金協力は2069億8774万余円、JICAの技術協力は799億5780万余円、有償資金協力は2兆0607億8076万余円だった。ODAの基本方針である開発協力大綱(令和5年6月閣議決定)は、開発途上国と対等なパートナーとして開発課題や地球規模の課題の解決に共に取り組むことを掲げている。

会計検査院法第36条は、検査の結果、法令や制度、行政に改善が必要な事項があると認めるとき、検査院が主務官庁などに意見を表示したり、改善の処置を要求したりできると定めている。検査院は10月6日にも、国内の補助事業について橋・トンネル修繕の補助金149億円分、制度の目的に沿わず 会計検査院が15府県88事業主体を指摘とする検査結果を公表している。