パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘が始まった2023年10月7日以降、日本が治療のためにガザ地区から受け入れた患者は2人で、いずれも防衛省の自衛隊中央病院で治療を受けた。2人は治療を終え、2026年9月27日にガザ地区へ戻った。政府が10月23日付の答弁書で明らかにした。今後さらに受け入れることについては「国内の医療提供体制の状況等も踏まえ、検討が必要であると考えている」と答えるにとどめた。参議院の奥田ふみよ議員が10月14日に提出した質問主意書への回答で、内閣総理大臣の高市早苗氏の名前で参議院議長の関口昌一氏に送られた。
受け入れは2人、9月27日にガザへ帰還
答弁書の番号は「内閣参質二二二第七号」。参議院の記録では、質問主意書は10月14日に提出され、19日に内閣へ転送された。参議院が答弁書を受け取ったのは23日。
質問は4項目あった。最初の問いは、2023年10月7日以降にガザ地区の患者のうち治療・療養のために「日本の公的な医療機関」が受け入れた人数を尋ねた。答弁書は「公的な医療機関」の意味が「必ずしも明らかではない」と断ったうえで、「『患者』二名を自衛隊中央病院で受け入れた」と記した。
2番目の問いは、その人数のうち治療後に日本での滞在を続けることを認められた人と、国外に出ることを求められた人をそれぞれ尋ねていた。答弁書は2人について、日本での治療を終えた後、「本人の要望により、許可された在留期間内に出国し、令和八年九月二十七日、ガザ地区に帰還した」と答えた。日本に残った人はいなかったことになる。一方、国外に出ることを「求めた」かどうかには触れず、本人の要望による出国と説明した。
2人の性別や年齢、病名、日本に滞在した期間は答弁書に書かれていない。
2025年3月、WHOの要請を受けて始まった
受け入れが始まったのは2025年3月だ。外務省は同月26日の報道発表で、ガザ地区の戦闘で傷病を負った後にエジプトで入院していたパレスチナ人1人を日本に移送し、自衛隊中央病院で治療を始めたと公表した。近日中に2人目も移送して同じように治療を始める予定とした。発表は、ガザの深刻な人道状況と、それを受けた世界保健機関(WHO)の要請を踏まえた医療支援の一環で、エジプト政府の協力を得て実施したと説明し、「治療後は現地に戻ることが大前提であり、日本での定住を目的とするものではありません」と明記した。
同じ日の記者会見で、外務省の北村外務報道官は、対象はエジプトで入院していたパレスチナ人の女性2人で、本人の希望も踏まえて日本での治療を決めたと述べた。「医学的観点から、特に日本で治療を行うことで効果的に機能改善することが見込まれる傷病者」を選んだとし、今後のさらなる対応は「決まっておりません」と答えていた。
今回の答弁書が示した2人という数は、この発表の人数と一致する。発表時に「治療後は現地に戻ることが大前提」としていた条件どおり、2人は受け入れの発表から1年半後にガザ地区に戻ったことになる。
国外搬送1万3555人、待機は1万8500人超
奥田氏の質問主意書は、国境なき医師団のホームページによるとして、2025年12月25日時点でガザ地区では数千人の子どもを含む1万8500人以上が地区外への医療搬送を必要とする患者として登録されていると記した。
WHOの集計でも規模は近い。WHOが2026年の保健緊急アピールで示した数字では、ガザ地区で受けられない治療を必要とし、医療搬送を待つけが人や慢性疾患の患者は1万8500人を超える。
WHO東地中海地域事務局の集計によると、2023年10月から2026年9月16日までにガザ地区から国外へ搬送された患者は1万3555人で、このうち子どもが6326人だった。付き添いの家族などは1万6761人に上る。2025年10月13日の停戦後に限ると、搬送された患者は3172人だった。
ガザの患者の主な搬送先(2023年10月〜2026年9月16日)(人)
数値で見る(単位: 人)
| 項目 | 人 |
|---|---|
| エジプト | 8,782 |
| UAE | 1,518 |
| カタール | 970 |
| ヨルダン | 739 |
| EU諸国 | 637 |
| トルコ | 455 |
搬送先は隣接するエジプトが8782人と最も多く、アラブ首長国連邦(UAE)の1518人、カタールの970人、ヨルダンの739人が続く。欧州連合(EU)諸国は合わせて637人、トルコは455人だった。上位10か国・地域にはアルジェリア(136人)、ウズベキスタン(100人)、チュニジア(73人)、オマーン(56人)も入る。日本の2人はこの一覧には出てこない。
WHOは、どの患者を国外に搬送するかの選定や優先順位付けには関わっておらず、その役割はガザの保健省が担うと説明している。WHOの役割は、患者を検問所まで安全に移送することに置かれている。
追加の受け入れ、人数も条件も示さず
3番目の問いは、地区外への搬送が必要な患者を「より積極的に」受け入れるべきだとして政府の見解を求めた。答弁書は「公的な医療機関」と「より積極的に」の意味が「必ずしも明らかではない」としたうえで、受け入れについては「国内の医療提供体制の状況等も踏まえ、検討が必要であると考えている」と答えた。受け入れるかどうか、受け入れるなら何人か、いつかは書いていない。2025年3月の会見で「決まっておりません」とした状態から、文言の上では大きく動いていない。
4番目の問いは、ガザ地区を含む「ジェノサイドが行われている地域」から治療目的で日本を訪れた人々に、治療後も長期の滞在を認めて支援すべきだとし、どのような支援策があるかを尋ねた。答弁書は「ジェノサイドが行われている地域」の意味が「必ずしも明らかではなく」、治療目的で日本を訪れる人々の状況は「様々である」として、「一概にお答えすることは困難である」と答えた。支援策の有無や中身は示していない。
政府はガザ地区の復興では、暫定的な統治を担う機関との協議を進めている(日本とガザ暫定行政機関、再建へ作業部会を初開催 66事業の復旧計画で協力探る)。一方で、患者の受け入れについて今回の答弁書が示したのは、これまでの2人という実績と、その後を「検討が必要」とする見解だった。
質問主意書とは
質問主意書は、国会議員が内閣に文書で質問する仕組みで、国会法第74条と第75条に定めがある。議員が内閣に質問するには議長の承認が要り、承認された質問は議長が主意書を内閣に転送する。内閣は受け取った日から7日以内に答弁しなければならない。今回は、内閣への転送(10月19日)から4日後に答弁書が参議院に届いた。
答弁書は内閣総理大臣の名前で議長に送られ、参議院のホームページで質問と並べて公開される。委員会での口頭のやり取りと違い、政府が文書で答えた内容として残る。今回は、ガザ地区からの患者受け入れの実績が、2人という数と帰還の日付まで政府の文書で示された。一方、受け入れを今後どうするかは「検討が必要」との一文にとどまり、受け入れを広げるかどうかの判断は示されなかった。
