障害者が福祉サービスを経て一般企業に就職し、職場に定着した実績に応じて事業所の報酬を上乗せする「就労移行支援体制加算」について、政府は10月20日の閣議で決定した答弁書で、現行の加算には「加算を目的とした形式的な一般就労への移行を誘発させかねない」という問題があるとの認識を示した。一方で、利用者が事業所の運営法人と実質的に同じ経営主体の法人に就職した場合を加算の対象から一律に除くことは「考えていない」と答えた。大阪市が加算の不正請求を理由に就労継続支援A型の4事業所の指定を取り消した事案を受け、立憲民主党の石垣のりこ参院議員が10月8日に提出した質問主意書への回答で、内閣総理大臣の高市早苗氏の名前で参議院議長の関口昌一氏に送られた。

大阪市が4事業所の指定を取り消し、約110億円の返還を請求

質問の発端は大阪市の処分だ。大阪市は3月27日、市内の就労継続支援A型の4事業所に監査をした結果、訓練等給付費の請求に不正があったとして、障害者総合支援法に基づく事業者の指定を5月1日付で取り消すと発表した。対象はNPO法人リアン(事業所名・リアン内本町)、株式会社レーヴ(レーヴ)、株式会社リベラーラ(リベラーラ)、株式会社JOB connect(Mirrime)の4法人で、事業所はいずれも大阪市中央区にある。

市が不正と判断した中身は2つある。1つは、事業所が「36ヶ月プロジェクト」と名付けた独自の支援方針のもとで、利用者をA型事業所の利用に戻すことを前提に自社で雇い、そのたびに就労移行支援体制加算を請求していた点だ。市は、この自社雇用は「事業所の支援計画のプロセスの一部にすぎず」、加算の趣旨である「定着に向けた継続的な支援体制が構築されている」とは評価できないとした。もう1つは、過去3年間に加算の対象にした利用者を、市町村長が適当と認める例外に当たらないのに、重ねて就労定着者として届け出ていた点だ。

市は不正に受け取った訓練等給付費に、障害者総合支援法8条2項に基づく100分の40の加算額を上乗せし、総額110億7650万7073円の返還を求めた。

事業所(運営法人) 不正と認定した期間 対象の利用者 返還請求額
リアン内本町(NPO法人リアン) 2024年4月〜2026年1月 272人 33億3827万8887円
レーヴ(株式会社レーヴ) 2024年4月〜2026年1月 240人 38億4826万8011円
リベラーラ(株式会社リベラーラ) 2024年4月〜2026年1月 266人 31億2510万7718円
Mirrime(株式会社JOB connect) 2025年4月〜2026年1月 105人 7億6485万2457円
大阪市が指定を取り消した就労継続支援A型の4事業所と返還請求額(利用者は大阪市が支給を決めた人に限る。返還請求額は不正請求額に100分の40の加算額を含む)

出典: 大阪市 報道発表資料(2026年3月27日)

4事業所の不正請求額だけを合わせると79億1179万1557円で、これに4割の加算額が上乗せされている。石垣氏の質問主意書は、4法人が株式会社絆ホールディングスの傘下にあり、同社グループの事業所閉鎖が進んだうえ、同社の会社更生手続き開始の申し立てが棄却され、破産手続き開始前の保全管理命令が出たと記している。主意書はまた、この取り組みが障害者の就労支援の先進的な事例として紹介され、国会議員も視察に訪れていたと指摘し、個別の事業者の問題にとどまらず、移行実績を評価する制度のあり方を検証する必要があると訴えた。石垣氏は今国会で、公共交通の行政処分についても質問主意書を出している(政府答弁書、バス・船の使用停止に代わる金銭的制裁「予定していない」 利用者への影響は処分時に考慮)。

就労移行支援体制加算とは 6か月の定着を前年度の人数で評価

就労継続支援A型は、一般企業で働くことが難しい障害者が事業所と雇用契約を結び、働きながら訓練を受ける福祉サービスだ。厚生労働省とこども家庭庁が9月28日の「障害福祉報酬改定検討チーム」第64回会合に出した資料によると、事業所が利用者を一般企業に送り出すと一時的に収入が減り、送り出しに消極的になる恐れがあるため、送り出しに一定の動機付けをする目的で加算を設けている。

仕組みは、前年度にA型などを利用した後に一般就労へ移り、6か月以上働き続けている人が1人以上いれば、評価点に応じた単位数に前年度の実績の人数と利用者数を掛けて報酬に上乗せするものだ。資料が抜粋したA型(従業者配置7.5対1)の点数表では、1日1人当たりの単位数は、評価点170点以上・定員20人以下の93単位から、評価点60点未満・定員81人以上の8単位まで幅がある。

同じ人で繰り返し加算を取る運用には、これまでも手当てがされてきた。答弁書によると、2024年度の報酬改定では、過去3年間にA型事業所などで就労について加算を算定した人を原則として対象から外した。2026年度の改定(4月施行)では、1事業所で加算を算定できる就労定着者の数を事業所の定員までとする上限を設けた。検討チームの資料は、同じ利用者がA型事業所と一般企業の間で離職と就職を繰り返し、そのたびに加算を取る事業者が報道され、多額の不正請求で指定取り消しになった事例も「複数報告されている」と記している。

政府「形式的な移行を誘発しかねない」 関係法人の一律除外は否定

答弁書は、大阪市の事案への受け止めを問われ、上野厚生労働相が6月1日の参院決算委員会で「極めて遺憾だと考えています」と答弁したとおりだと答えた。加算の仕組みの問題点については、検討チームの資料で示したとおり、この事案なども踏まえ「現行の加算では、加算を目的とした形式的な一般就労への移行を誘発させかねない」という問題があると認めた。

石垣氏は、事業所の運営法人と資本関係にある法人や、実質的な支配者が同じ法人への就職は、法人格が別でも「人事異動に近い」場合があるとして、加算の対象から外すよう求めた。これに対し答弁書は、加算の目的は「一般就労への定着に向けた継続的な支援体制が構築されている事業所を評価する」ことにあり、同じ経営主体の法人への就職でも「利用者のニーズを踏まえた支援」が適切に行われている場合があるとして、一律に除外すべきだとは考えていないと答えた。

項目 主意書の問い 答弁書の答え
一 大阪市の事案の受け止めと加算の問題点 厚労相の「極めて遺憾」の答弁のとおり。形式的な移行を誘発しかねない問題がある
二 同じ経営主体の法人への就職を対象から外すべきか 目的に沿った支援の場合もあり、一律の除外は考えていない
三 元の事業所へ短期で戻った場合に実績に算入しない仕組み 運営法人への就職を0.5人分と数える案などを示した。適切に検討する
四 全国的な実態調査と制度改正 重複届け出の確認を自治体に依頼済み。資本関係は確認事項に入れていない
石垣氏の質問主意書(4項目)と政府答弁書の答えの要旨

出典: 参議院 質問主意書・答弁書(第222回国会 第6号)

運営法人への就職は「0.5人分」 2027年度改定へ検討の方向性

一般就労へ移った後に短期間で元の事業所へ戻る場合に、当初の就職を実績に数えないなどの仕組みが要るのではないかという問いには、答弁書は検討チームの資料に示した「検討の方向性」を挙げた。

資料は、一般就労への送り出しを加算で評価する仕組み自体は続けるとしたうえで、見直し案を並べている。評価の基準を「就労定着者数」から、定員などに対する就労定着者の「割合」に改める。1つの事業所から同じ就職先に就いた人は、数える人数に上限を設ける(例として5人まで)。当該事業所の運営法人への就職は、関係法人を含めて「0.5人分」として数える。復職の支援は、この加算とは別の形で評価することを検討する。

就職者を一般企業へ送り出す就労移行支援についても、利用定員に対する就労定着者の割合が「5割以上」の区分より上の基本報酬の区分を設け、短期間で送り出す事業所を評価する案を示した。就職後の定着を支える就労定着支援は、支援の濃度に応じた段階的な報酬にする方向だ。答弁書は、これらを今後の検討チームの議論を踏まえて「適切に検討してまいりたい」とした。資料は、2027年度の報酬改定に向けて加算のあり方を改めて議論するとしている。

全国で重複の届け出を確認中 資本関係は調べず

同じような事業所がほかにもないか全国調査をすべきだという問いに対し、答弁書は、厚労省が4月10日付の事務連絡で都道府県、政令指定都市、中核市に確認と報告を求めていると説明した。過去3年間に同じ事業所やほかの事業所で同じ人が重ねて就労定着者として届け出られていないか、重なっている場合に適切な算定かを確かめる内容で、不適切な例として、事業所から企業に就職して6か月が過ぎた後に退職して事業所の利用者に戻り、後日また同じ企業に就職するなど、離職と就職を繰り返すケースを示している。

答弁書は、この確認によって「一般就労への移行後に元の事業所へ復帰した状況」や加算の算定状況を全国的に把握しているところだとした。ただし、石垣氏が把握を求めた就職先と元の事業所の資本関係や実質的な支配関係は、一律の除外を考えていないという二の答えと同じ理由で、確認事項に入れていない。不適切な算定を防ぐための制度改正は、確認の結果を踏まえて必要性も含めて検討するとした。

就労移行支援体制加算は、障害者を一般企業へ送り出す事業所の負担を報酬で補うために設けられた。その仕組みを使って、同じ利用者の雇用と事業所の利用を行き来させ、加算を重ねて受け取る運用が大阪市で認定された。政府は加算の仕組みに問題があることを答弁書で認めつつ、見直しの具体案は2027年度改定に向けた検討チームの議論に委ねており、資本関係のある法人への就職を対象から外すかどうかでは、質問者と政府の考えが分かれた。