アルメニアの首都エレバンで開かれていた生物多様性条約の第17回締約国会議(COP17)が、予定の10月30日を越えて31日朝(現地時間)に閉会した。環境省が11月2日に結果概要を公表した。2030年を期限とする世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」の進み具合を初めて世界全体で点検し、実施の加速を締約国に強く求める決定を採択した。次回COP18の開催地は投票でエクアドルに決まった。一方、名古屋議定書に関わる議題などは時間切れで審議が中断し、合意に至らないまま次回会合へ送られた。

参加は約1万3000人、過去最大の締約国会議

環境省の結果概要によると、会議はアルメニアが議長国を務め、「自然のための行動(Taking action for nature)」をテーマに10月19日に開会した。遺伝子組み換え生物の国境を越える移動を扱うカルタヘナ議定書の第12回締約国会合(CP-MOP12)と、遺伝資源の利用から生じる利益の配分を扱う名古屋議定書の第6回締約国会合(NP-MOP6)も同時に開かれた。開会の全体会合で、前回COP16の議長国コロンビアからアルメニアに議長が交代した。

参加者は約1万3000人で、環境省は生物多様性条約の締約国会議として過去最大の規模だったとしている。開会前の10月16日には開催国によるリーダーズサミット、18日にはパシニャン首相らが出席したオープニングセレモニーが開かれた。

日本からは環境省、外務省、経済産業省、農林水産省、林野庁、水産庁、文部科学省、厚生労働省の関係者が参加した。27、28両日のハイレベル会合には三ッ林裕巳環境副大臣と関谷毅史・環境省地球環境審議官が出席した。三ッ林氏は27日の代表演説で、企業や自治体、市民社会を含む「社会全体」による保全の取り組みや、保護地域以外で生物多様性の保全に役立つ区域を国が認定する「自然共生サイト」を紹介し、2027年に横浜で開かれる国際園芸博覧会「GREEN×EXPO 2027」への参加を呼びかけた。会期中、三ッ林氏はアルメニア、カナダ、モルディブと、関谷氏はフランス、キルギス、国際自然保護連合(IUCN)などと会談した。開幕時の議題と日本の立場は生物多様性条約COP17がアルメニアで開幕 2030年の世界目標、初の進捗点検へで伝えている。

世界目標の初点検、「エレバン・パスウェイ」を示す

今回の会議の中心は、GBFの実施状況を世界全体で確かめる初めての「グローバルレビュー」だった。条約事務局の目標一覧によると、GBFは2030年までの23の目標を掲げる。陸と海のそれぞれ少なくとも30%を保護地域などで保全する目標3、侵略的外来種の侵入と定着の割合を少なくとも50%減らす目標6、あらゆる資金源から年間2000億ドル以上を動員する目標19などが含まれる。

環境省によると、レビューは129の締約国が提出した第7回国別報告書などをもとにしたグローバルレポートを踏まえて行われた。決定では、評価した進み具合を受けて、①行動と実施の加速②範囲と対象の拡充③実施手段の強化④政府全体・社会全体の参画⑤モニタリングと知識の強化――を柱とする「エレバン・パスウェイ」が示された。9月に開かれた「昆明対話」の知見にも留意し、2030年に向けて実施を加速するよう各締約国に強く求めた。

進み具合を測る仕組みについても決定があった。COP19で予定する2回目のグローバルレビューに向け、指標や国別報告、情報の一貫性を改善する。指標の適用では各国の事情と能力を踏まえ、報告の負担を抑えることを重視した。2030年より後の枠組みに向けた検討を始めることも決まった。

遺伝情報の利益配分、基金は暫定運用でCOP18へ

焦点の一つだった遺伝資源の「デジタル配列情報(DSI)」の扱いでは、制度の細部を詰め切れなかった。DSIは生物の遺伝子の塩基配列などを電子データにしたもので、医薬品や化粧品、農業の研究開発で使われる。前回COP16の決定16/2は、DSIを商業利用して利益を得る企業が利益または売上高の一部を国際基金「カリ基金」に拠出すると定めた。総資産2000万ドル、売上高5000万ドル、利益500万ドルの三つの基準のうち二つ以上を過去3年平均で超える企業は、利益の1%か売上高の0.1%を目安に拠出するとしている。

環境省の結果概要によると、COP17では、DSIの利用の程度に応じた拠出のあり方や、企業にとっての法的な安定性と予見可能性に関わる「カリ基金証明書」の法的効果について、さらに検討することにした。資金の配分方法や統治の仕組みは具体化したうえで、見直しを予定するCOP18まで暫定的に運用する。

資金全般では、GBFの実施に向けて資金の不足にどう対応するか、民間資金を含むすべての資金源からどう集めるか、拠出する側をどう広げるかを議論した。途上国支援の資金を扱う地球環境ファシリティ(GEF)への指針も審議した。前回COP16で新設が決まった、先住民と地域社会に関する条約の規定を扱う常設の補助機関は、その参画の方法や運営の仕方が決まった。

分野別の決定は多岐に

分野別の議題でも、多くの決定が採択された。主なものは次の通り。

議題 主な決定の内容
気候変動 生態系を生かした適応・減災の指針の補遺を検討、リオ3条約の連携の工程表を改定
海洋 重要海域(EBSA)の非公式諮問会合を延長、国家管轄圏外の海域の会合を新設
外来種 侵入経路の情報共有、早期発見と迅速な対応、能力構築を推進
健康 「生物多様性と健康」の世界行動計画の実施を促進
合成生物学 技術の進展と影響の情報収集を継続、能力構築の行動計画に合意
農業 土壌生物多様性の研究・監視を支援、汚染の影響低減を促進
COP17で採択された分野別の主な決定出典: 環境省「生物多様性条約第17回締約国会議(CBD-COP17)等の結果概要」

このほか、生物多様性を政策や経済活動、金融に組み込む「主流化」を促す決定や、GBFの実施での地方政府の役割を再確認する決定も採択された。国連の科学機関IPBESがまとめた三つの評価報告書(「生物多様性、水、食料及び健康の間の相互関係」「社会変革」「ビジネスと生物多様性」)の知見をGBFの実施に生かすことも締約国に奨励した。

同時に開かれたカルタヘナ議定書の会合では、遺伝子組み換え生物のリスク評価・管理や検出と識別、国内の規制の枠組み、責任と補償などで決定を採択した。日本でも同議定書に基づく国内法の手続きが続いており、最近では犬パルボの遺伝子組換え生ワクチン、承認前に意見募集 環境・農水両省、11月25日までがある。

時間切れで持ち越し、次回はエクアドル

一方、すべての議題で合意できたわけではない。環境省によると、COP17の議題のうち他の条約や国際機関との協力、締約国会議の複数年の作業計画、名古屋議定書の会合の議題のうち議定書の有効性の見直し、議定書の適用除外を定める第4条4に関わる国際文書、地球規模の多国間利益配分の仕組みなどは、最終日の翌朝に時間の制約から審議が中断された。これらは手続規則15条に従い、次回会合へ自動的に送られる。名古屋議定書の会合では、第4条4に基づく国際文書との関係と、第10条に基づく多国間の利益配分の仕組みについて、必要性の認識と今後の検討の進め方で各国の意見が一致しなかった。

次回COP18の開催地にはエチオピア、エクアドル、パナマの3か国が立候補した。エチオピアが辞退し、残る2か国で締約国が投票した結果、エクアドルに決まった。COP18はカリ基金の暫定運用の見直しの場となり、2回目のグローバルレビューはその次のCOP19で行う。

会議の決定は、2030年までの目標を各国が国内で実施する段階での指針となる。今回の点検は、23の目標を掲げてから各国がどこまで進んだかを初めて世界全体で数え上げたものだ。持ち越された議題とカリ基金の拠出の仕組みが、エクアドルでどこまでまとまるかが次の節目になる。