東京電力福島第一原子力発電所の廃炉の工程を定める「中長期ロードマップ」について、政府は10月23日付の答弁書で、策定と改訂への政府の関与の在り方は「法令上、明示的に規定されているものではない」と説明した。そのうえで、原子力災害対策特別措置法に基づく原子力災害対策本部の下に置いた会議で2011年12月21日に策定し、これまでに5回改訂してきたと答えた。工程表の内容が実行できなかった場合に東京電力とその経営者が負う法的責任については「一概にお答えすることは困難である」とした。参議院の奥田ふみよ議員が10月14日に提出した質問主意書への回答で、内閣総理大臣の高市早苗氏の名前で参議院議長の関口昌一氏に送られた。
4問に3項目で答える
答弁書の番号は「内閣参質二二二第八号」。参議院の質問主意書情報によると、質問主意書は10月14日に提出され、19日に内閣へ転送された。答弁書の受領日は23日だった。奥田議員は同じ日に、前科を理由にした外国人の上陸拒否についても質問主意書を出している(政府答弁書、前科による上陸拒否は令和7年437人 葬儀などの例外規定「必要ない」)。
質問は四つあった。一つ目は工程表の策定と改訂に政府がどう関与しているか、二つ目はその関与の法的根拠を尋ねた。三つ目は、工程表に書かれた内容が実行できなかった場合に東京電力とその経営者がどのような法的責任を負うのか、政府の見解を求めた。四つ目は、工程表が第3期を「第2期終了~廃止措置終了まで(目標はステップ2完了から30~40年後)」としている点を取り上げ、ここでいう「廃止措置」に、原子炉等規制法第12条の6の規定が適用されるのかを問うた。
答弁書は一つ目と二つ目をまとめて「一及び二について」とし、三つ目、四つ目にはそれぞれ答えた。三つ目には「お尋ねの『同ロードマップに記載された内容』が具体的に何を指すのか必ずしも明らかではないが」、四つ目には「お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが」と前置きしている。
根拠は法令でなく、災害対策本部の下の会議
一つ目と二つ目への答弁で、政府は関与の在り方に法令上の明文の規定がないことを認めた。そのうえで、原子力災害対策特別措置法第16条第1項に基づいて設置した原子力災害対策本部の下に「政府・東京電力中長期対策会議(当時)」を置き、2011年12月21日に同会議で「東京電力(株)福島第一原子力発電所一~四号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」を策定したと説明した。その後、同会議などで5回改訂したとしている。
改訂の経緯は、現行の工程表(2019年12月27日の第5回改訂版)の参考資料に記されている。それによると、2011年11月に経済産業大臣と原発事故収束・再発防止担当大臣が、東京電力、資源エネルギー庁、原子力安全・保安院(当時)に工程表の策定を指示した。12月21日に初版を決め、2012年7月30日に第1回改訂を行った。
工程表を決める会議はその後入れ替わった。2013年2月8日に原子力災害対策本部が「東京電力福島第一原子力発電所廃炉対策推進会議」を設け、中長期対策会議は廃止された。同年6月27日に推進会議が第2回改訂を行った。汚染水タンクから約300立方メートルが漏れたことが8月に判明すると、9月3日に原子力災害対策本部が「廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議」を設置し、12月20日に推進会議を閣僚等会議に統合した。第3回改訂は2015年6月12日、第4回は2017年9月26日、第5回は2019年12月27日で、いずれも閣僚等会議が行った。
一方、東京電力が福島第一原発で講じる措置そのものは原子炉等規制法の規制を受ける。同法第64条の2により、原子力規制委員会は福島第一原発の原子炉施設を「特定原子力施設」に指定し、2012年11月15日に公示した。東京電力は同法第64条の3に基づき「実施計画」を作って規制委の認可を受け、変更するときも認可が要る。工程表は政府の会議が決める目標であり、規制委が認可する実施計画とは根拠が異なる。
責任は「個別具体の状況に即して判断」
三つ目への答弁で政府は、東京電力とその経営者の法的責任は「原子力災害対策特別措置法等の関係法令に基づき、個別具体の状況に即して判断されるべきもの」だとし、一概に答えるのは困難だとした。工程表の期限を守れなかったことだけを理由にした責任の有無や中身には触れていない。
工程表自身も、工程が変わり得ることを前提にしている。第5回改訂版は「本中長期ロードマップにおける工程・作業内容は、現状のリスクレベルや適切な実施時期等を考慮して策定したものの、今後の現場の状況、廃炉・汚染水対策の進捗や研究開発成果等によって変わり得るもの」と記し、「継続的に検証を加えながら見直していく」としている。
工程表の時期区分と主な目標は次のとおり。
| 区分・目標 | 内容 | 時期 |
|---|---|---|
| 第1期 | ステップ2完了(2011年12月)から初号機の使用済燃料プールの燃料取り出し開始まで | 2年以内(2013年11月18日に4号機で開始し終了) |
| 第2期 | 第1期終了から初号機の燃料デブリ取り出し開始まで | ステップ2完了から10年以内 |
| 第3期 | 第2期終了から廃止措置終了まで | ステップ2完了から30~40年後 |
| 初号機の燃料デブリ取り出し開始 | マイルストーン | 2021年内 |
| 1~6号機の燃料取り出し完了 | マイルストーン | 2031年内 |
燃料デブリは、事故で溶けた燃料が被覆管などとともに冷えて固まったものだ。東京電力は廃炉の情報を載せるページで、取り出し作業を初号機の2号機から着手し、段階的に取り出し規模を拡大していくと説明している。取り出したデブリは構内に新設する予定の保管設備で保管する。各号機の推定では、1号機は圧力容器内にほぼなく大半が格納容器に落ちており、2号機は圧力容器の底部に多く、3号機は格納容器内にある程度あるとしている。政府のエネルギー白書も第1部でデブリの取り出しを取り上げている(エネルギー白書2026を閣議決定 ホルムズ通航難を検証、備蓄は7月末に計206日分)。
終了の確認は規制委、許可は失効
四つ目への答弁で政府は、原子炉等規制法第64条の4に基づく特例政令(平成25年政令第53号)で、同法第43条の3の34第3項が準用する第12条の6第3項から第9項までのうち、第8項と第9項を福島第一原発に適用していると答えた。
通常の原子力発電所の廃炉では、電力会社が「廃止措置計画」を作って規制委の認可を受け、計画の変更や完了までの手続きに第12条の6第3項から第9項までが準用される。第8項は、廃止措置が終わったときに結果が基準に適合していることについて規制委の確認を受けなければならないと定める。第9項は、その確認を受けると発電用原子炉の設置許可が効力を失うと定める。
福島第一原発では、特例政令が廃止措置計画の認可を「実施計画」に置き換えている。発電用原子炉設置者に廃止措置計画を求める規定は、「当該廃止措置に関する事項を実施計画に」定めて第64条の3の認可を受けると読み替える。計画の変更などを定める第3項から第7項までは適用から外した。答弁書の説明は、福島第一原発の廃炉も最後は規制委の終了確認を経て設置許可が失効する枠組みの中にあることを示している。
30~40年の目標と「第3期に定める」事項
工程表は、廃止措置に関する事項は「30~40年後の廃止措置終了を目標に、燃料デブリ取り出し等の廃炉作業や研究開発等の進捗状況を踏まえ、東京電力が第3期に定める」としている。終了した時点の敷地や建屋の姿は、工程表の中では、東京電力がこれから定める事項とされている。
この目標年数の出発点は、2011年12月のステップ2完了だ。工程表によると、原子力委員会の専門部会は事故の年に「廃止措置がすべて終了するまでは30年以上の期間を要するものと推定される」と整理していた。30年後は2041年、40年後は2051年にあたる。
今回の答弁書は、工程表が法令に根拠を持たない政府の目標であり、目標どおりに進まなくても直ちに特定の法的責任に結び付くものではないとの立場を示した。他方で、廃炉の完了は規制委の確認という法律上の手続きで判断される。現行の工程表は、初号機のデブリ取り出しの開始を「2021年内」と記したまま、2019年12月の第5回改訂から6年10か月余り改訂されていない。終了の姿をいつ、誰がどの手続きで決めるのかは、工程表の次の改訂で問われる。
