文部科学省は10月29日、ヒトの受精胚やES細胞、iPS細胞を使う研究のルールを定めた6本の指針について、5本を改正し1本を廃止する案をまとめ、意見募集(パブリックコメント)を実施すると発表した。ゲノム編集技術で加工したヒト胚を人や動物の胎内に移植することを禁じる「ヒトゲノム編集胚等の取扱いの規制に関する法律」(令和8年法律第70号)の施行に合わせた見直しで、案はこども家庭庁、文科省、厚生労働省の担当課が連名で示した。意見は電子政府の窓口(e-Gov)で10月30日から11月30日まで受け付ける。

新法が禁じるのは「胎内への移植」

根拠となる法律は第221回国会で成立し、2026年7月24日に公布された。第3条は「何人も、ヒトゲノム編集胚等を人又は動物の胎内に移植してはならない」と定める。例外は、動物の胎内に移植する場合で、その胎内で胎盤の形成を始める可能性がないものとして政令で定める要件に当てはまるときだけだ。違反した者は第19条により、10年以下の拘禁刑か1000万円以下の罰金、またはその両方が科される。施行は附則第1条で「公布の日から起算して一年を経過した日」とされている。

法の対象となる「ヒトゲノム編集胚等」は、ゲノム編集技術などで加工したヒト胚やヒトの生殖細胞を指す。これまで、こうした研究は法律ではなく、国が告示で定める指針で管理されてきた。指針に違反した研究への措置は、たとえば「ヒト受精胚を作成して行う研究に関する倫理指針」の改正案第33条でも、基準に適合しない研究があったときに国が「その旨を公表する」ことにとどまる。新法の施行で、ゲノム編集胚を扱う研究は罰則のある法律の下に移る。

法に基づく新しい指針の案は、こども家庭庁・文科省・厚労省の合同会議に示された(ゲノム編集したヒト胚を人の胎内に移植する行為、来年7月24日から禁止 違反は10年以下の拘禁刑か1000万円以下の罰金 研究の指針案が合同会議に示される)。今回の意見募集は、その新しい指針とは別に、従来の指針を新法の体系に合わせて組み替えるものだ。

6本の指針をどう扱うか

見直しの対象は次の6本で、いずれも告示の形で定められている。

指針(略称) 告示 扱い
ヒト受精胚を作成して行う研究に関する倫理指針 平成22年文科省・厚労省告示第2号 全部改正
ヒトES細胞の樹立に関する指針 平成31年文科省厚労省告示第4号 一部改正
ヒトES細胞の分配機関に関する指針 平成31年文科省告示第69号 一部改正
ヒトES細胞の使用に関する指針 平成31年文科省告示第68号 一部改正
ヒトiPS細胞等から生殖細胞又はヒト胚モデルの作成を行う研究に関する指針 平成22年文科省告示第88号 一部改正
ヒト受精胚の提供を受けて行う遺伝情報改変技術等を用いる研究に関する倫理指針 平成31年文科省・厚労省告示第3号 廃止
新法の施行に合わせて見直す指針と扱い

出典: こども家庭庁・文部科学省・厚生労働省「指針改正の概要」、e-Gov パブリック・コメント案件番号185001514

廃止するのは、提供を受けたヒト受精胚にゲノム編集などの遺伝情報改変技術を用いる研究の指針だ。概要は、この指針が対象としてきた研究が「全て法の適用の範囲に含まれることとなる」ことを理由に挙げている。指針の名が示すとおり、提供胚を使うゲノム編集研究は、これからは法律と法に基づく指針で扱われる。

ヒト受精胚の作成研究、生殖補助医療に限る

改正の中で最も大きいのは、精子と卵子からヒト受精胚を作って行う研究の倫理指針だ。告示の題名は「全部を改正する告示」で、条文を一から書き直す。

現行の指針には、受精胚の作成研究のうち遺伝情報改変技術を使うものと、遺伝性・先天性疾患の研究に関する規定がある。概要によると、これらは「全て法に基づき行われることとなるため」削除する。改正案の第3条は、指針の対象を新法の適用を受ける研究を除いた受精胚の作成研究とし、研究の中身を受精、胚の発生や発育、着床に関するもの、配偶子や受精胚の保存技術の向上に関するものなど「生殖補助医療の向上に資するもの」で、科学的合理性と意義を持つものに限るとした。

遺伝性・先天性疾患の研究が抜けることに伴い、この指針の確認や報告の窓口となる大臣から厚生労働大臣を外す。改正後はこども家庭庁と文科省の共管になる。改正案の附則には経過措置を置き、旧指針のもとで3庁省がした確認や、3庁省に出された届け出は、改正後の指針でこども家庭庁長官と文部科学大臣がしたもの、出されたものとみなす。

研究の進め方に関する規定も具体的に書き直す。第5条は、精子や卵子の提供者に対価を払わないことを求め、採取や提供に要する「通信費、交通費その他の費用」だけは除くと経費の範囲を明記した。第7条は受精胚の作成を研究に「必要かつ最小限の数」に限り、第8条は作成した日から14日を過ぎた受精胚を扱わないと定める(凍結保存の期間は数えない)。第9条は研究に用いた受精胚を人や動物の胎内に移植することを禁じ、移植ができる設備のある部屋で研究することも認めない。研究機関の長には、教育研修の実施状況を確かめ、必要に応じて指導・監督する責務を加える。

ES細胞とiPS細胞、生殖細胞づくりは法の側へ

ES細胞やiPS細胞から精子や卵子のもとになる細胞(幹細胞由来生殖細胞)を作る研究も、新法の下で行われることになる。このため、ES細胞の使用に関する指針と、iPS細胞などから生殖細胞やヒト胚モデルを作る研究の指針から、生殖細胞を作る研究に関係する規定を削る。iPS細胞の指針では、目的、定義、適用の範囲、研究の要件など11項目の規定が削除の対象に挙がっている。

一方で、ES細胞の樹立と分配の指針には規定を足す。法に基づく研究計画(指針適合届出取扱計画書)でES細胞から生殖細胞を作るとされている研究者に、ES細胞を分配・譲渡するときの手続きを定める。人クローン胚から樹立したES細胞からは、生殖細胞を作ってはならないとする規定も加える。

ES細胞の使用に関する指針には、法に基づいて作ったゲノム編集胚からES細胞を作る場合の要件を新設する(改正案第23条)。研究計画でゲノム編集胚を滅失させてES細胞を作るとされていること、そのES細胞を人や動物の胎内やヒト胚に入れないこと、ES細胞から生殖細胞を作らないこと、共同研究先以外へ分配しないこと、使い終えたら直ちに廃棄することなど、列挙した要件をすべて満たすことを求める。

2027年7月の施行へ、残る日程

概要が示した日程では、改正・廃止の告示は2027年(令和9年)3月下旬に公布し、同年7月に施行する予定だ。新法も公布から1年を経過した日に施行されるため、法律、法に基づく指針、改められた従来の指針が同じ時期にそろって動き出すことになる。

意見はe-Govの意見提出フォームのほか、郵送か電子メールで文科省のライフサイエンス課生命倫理・安全対策室に送ることができる。要領は、意見に理由を付けることを求め、電話では受け付けない。締め切りは11月30日で、郵送の場合も同日必着としている。

見直しによって、ゲノム編集胚と幹細胞由来の生殖細胞を扱う研究は法律で、それ以外の受精胚やES細胞、iPS細胞の研究は従来どおり指針で管理する形に分かれる。研究者や大学・研究機関の倫理審査委員会にとっては、自らの研究計画が法と指針のどちらの対象になるかを、施行までに見極める作業が必要になる。