情報処理推進機構(IPA)は10月30日、企業どうしがサプライチェーン(供給網)のデータを共有する仕組みについて、業界をまたいで共通する要件をまとめた「データ連携の仕組みに関するガイドラインの手引き サプライチェーン共通編」の2.0版を公開した。3月10日の1.0版から7か月での改訂となる。参照する設計モデル「ODS-RAM」がV2に改訂されたのに合わせて、基本原則の章を7項目から6項目に組み直し、「データスペース」などの用語を改めた。国が運営事業者を認定する「公益デジタルプラットフォーム(公益DPF)運営事業者認定制度」との関係も新たに整理した。
業界ごとの指針の「共通部分」をまとめた文書
手引きは、経済産業省とIPAのデジタル&AIシステムズ・デザインセンター(DADC)が作成した。対象は、原材料の調達から製品の製造、流通までの企業間のデータ連携で、取引契約に基づく信頼関係があることを前提とする。契約関係のない企業間の連携は対象外としている。想定する読者は、製品の供給網でデータをやり取りするサービスを企画・設計する事業者と、業界ごとの「個別ガイドライン」を作成する人だ。
背景には、個別ガイドラインが分野ごとに増えてきたことがある。IPAによると、蓄電池のカーボンフットプリント(CFP、製品の生涯で出る温室効果ガスの量)とデュー・ディリジェンス(DD、人権や環境への配慮の確認)、自動車のライフサイクルアセスメント(LCA)を皮切りに、供給網の強靭化(車載半導体関連)や製品に含まれる化学物質の管理へと整備が広がった。一方で、それぞれの取り組みで固まった要件や判断の結果はガイドラインごとに分散しており、新しい分野で再利用しにくかった。
このため手引きは、既存のガイドラインに共通する部分を取り出し、原則、業務要件、ビジネスアーキテクチャ(関係者の役割と構造)、システムアーキテクチャ、システム仕様の順に整理した。附属書として用語一覧、システム化した業務の流れ、非機能要件の例も付ける。IPAは、新しい分野の個別ガイドラインを作る際の品質のばらつきを抑え、策定期間を短くすることを目的に掲げる。経緯としては、2025年12月16日に意見募集用の1.0版beta、2026年3月10日に1.0版を出しており、2.0版は3版目にあたる。
原則を6項目に、用語は「データ連携の仕組み」へ
最も大きな改訂は、第2章「原則」の組み直しだ。経産省・IPA・新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公開する、企業・業界・国境をまたぐデータ管理の参照モデル「ODS-RAM」がV2に改訂されたことを受け、節の構成を7項目から6項目にした。2.0版の6項目は「データ主権」「トレーサビリティ」「トラスト」「相互運用性」「サービス多様性」「標準への準拠」である。
用語も改めた。主な読み替えは次のとおり。
| 1.0版 | 2.0版 | 変更の意図(手引きの記載) |
|---|---|---|
| データスペース、データ連携基盤 | データ連携の仕組み | 読者に伝わりやすい表現に整理 |
| データスペース運営事業者/運営事業者 | データ連携のサービス提供者 | 事業者の呼称を実態に合わせて統一 |
| データ主権 | データ主権(考え方)/データの利用制御(技術的な手段) | 実現手段をODS-RAMの「利用制御」に合わせて命名 |
| 基盤/基盤への参加者 | データ連携の仕組み/仕組みへの参加者 | システムに加えガバナンスも含む表現に |
| データ連携 | データマネジメント/分散データマネジメント | ODS-RAM V2の中核概念を反映。「データ連携」は総称として残す |
出典: データ連携の仕組みに関するガイドラインの手引き サプライチェーン共通編(2.0版)
「分散データマネジメント」は、各社が自らのデータを手元で管理したまま、1か所に集めずに相互に使えるようにする考え方を指す。文書の体系も変え、別紙1を附属書A、別紙2を附属書B、付録1を附属書Cとした。
原則の中身を見ると、データ主権の節では、データを出す企業が「利用相手」「保存場所」「利用条件」を自ら決めると定める。その決定を守る手段として、技術的な利用制御と契約の2つを挙げ、すべてを技術だけで担保できるとは限らないため、決定ごとに手段を設計し履歴を記録するよう求めた。トレーサビリティの節では、製品ごとに重複しない「トレース識別子」を割り当てて部品の構成と企業間の取引をひも付け、供給網をさかのぼれるようにする。識別子にはUUIDなど衝突しない形式を使うよう注記している。
構成の図は「必要な層を選ぶ」考え方に
機能の配置図も、ODS-RAMが示す層の構成に合わせて描き直した。2.0版は、まず必要な機能を洗い出し、共通の基盤側が担う機能と業界向けのサービスが担う機能に分けたうえで、基盤側についてどの層を使うかを判断するよう求める。層をすべてそろえる構成のほか、データの意味を扱う「セマンティクス層」を省く構成、さらに「アイデンティティ層」も省く構成を例示した。
既存の供給網向けガイドラインについては、法規への対応のためデータの定義をあらかじめ統一する必要があることなどから、データの宛先や意味を具体的に決めており、L1からL3の範囲で構成し、L4(セマンティクス層)は前提にしていないと説明している。
事業者を識別する番号の例も示した。国内向けには13桁の法人番号を挙げ、海外との連携用には法人番号に加えて、国際規格ISO 17442に準拠した20桁の英数字「LEI(取引主体識別子)」を候補とした。欧州などがLEIを求めてくる可能性があるためとしている。
経産省とIPA、NEDOは別の分野でも同じ考え方の指針づくりを進めており、10月には地下の水道・ガス・通信管の図面を共通データに 経産省・IPAが指針案 位置の精度をS〜Cで表示でも、データの持ち主が利用条件を決める仕組みを打ち出している。
国の認定制度で「準拠確認の対象」になり得る
もう一つの柱が、公益DPF認定制度との関係の整理だ。この制度は、複数の企業をまたいでデータを共有するシステムの運営者のうち、DX認定の基準に加えて「データ連携システムの運用及び管理」「安全性・信頼性」「相互運用性」「事業安定性」の基準を満たす事業者を経済産業大臣が認定するもので、IPAが申請の受け付けと審査の事務を担う。基準は情報処理の促進に関する法律施行規則で定められ、認定にはIPAが定めるガイドラインへの準拠が求められる。
IPAの案内によると、現時点で準拠が必要なガイドラインとして指定されているのは「サプライチェーン上のデータ連携の仕組みに関するガイドラインβ版(蓄電池CFP・DD関係)」で、対象は今後順次定める予定だ。認定事業者の一覧に載っているのは一般社団法人自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センターで、2024年9月1日に最初の認定を受け、2026年9月1日に更新した。現在の認定期間は2028年8月31日までとなっている。
2.0版は、この手引きを参照して作る個別ガイドラインが同制度で準拠確認の対象になり得ると明記した。一方で、手引きそのものは同制度が指定する文書ではないとも注記している。ODS-RAMの参照も認定基準には含まれず、手引きでの扱いは「推奨」にとどまる。
個別ガイドラインの作成者には「第2章は踏襲」
2.0版は、手引きの使い方も具体的に示した。個別ガイドラインが認定で準拠確認の対象になり得るため、手引きを参照先として挙げるだけでなく、内容を個別ガイドラインの本文に書き下すよう求めている。原則を記した第2章は踏襲することを基本とし、分野に特有の要件があれば追加する。第3章以降の業務要件や機能要件は、分野の目的や業務に合わせて柔軟に編集してよいとした。
IPAは、手引きが個別ガイドラインの基礎として参照されることで、供給網のデータ連携が共通の要件に沿って効率的に進み、分野や国境を越えた分散データマネジメントへ広がることを期待するとしている。新しい分野で個別ガイドラインを作る業界団体や、データ連携サービスの提供を検討する事業者にとっては、どの部分を共通の前提として受け継ぎ、どこを自分たちで決めるのかの線引きが2.0版で示されたことになる。どの分野のガイドラインを次に認定制度の対象として指定するかは、IPAの案内からは確認できていない。
