GMOインターネットが提供するクラウドサービス「お名前.com デスクトップクラウド」が第三者による不正アクセスを受け、利用者がサーバー内に保存していた取引口座のログイン情報などが外部に持ち出された。同社は10月24日、サービスを利用しているすべての客に、被害の有無にかかわらず見舞金として一律5000円を払い、不正な取引で生じた実際の損失を補償すると発表した。攻撃者とみられる者から金銭を要求され、応じなければ情報を公開すると脅されていることも明らかにした。要求には応じないとし、政府の関係機関に「能動的サイバー防御」に関する措置をとるよう要請した。親会社のGMOインターネットグループが23日と24日に東京証券取引所で適時開示した。

不正プログラムを確認、全プランのサーバーを停止

両社の開示と第4報によると、同社は10月19日に客からの問い合わせを受けて調査を始め、20日、一部の客のサーバー環境に第三者が不正なプログラムを設置していることを確認した。同日に新規の申し込みとコントロールパネルを止め、21日午前4時からは被害の拡大を防ぐため全プランのサーバーを順次停止した。21日に第1報を出し、22日に警察に相談した。

日付 経過
10月19日 客からの問い合わせを受け調査を開始
10月20日 不正なプログラムの設置を確認。新規申し込みとコントロールパネルを停止
10月21日 午前4時から全プランのサーバーを順次停止。第1報を掲載
10月22日 警察に相談。第2報を掲載
10月23日 第3報。親会社が適時開示(影響の可能性があるサーバー2万6739件)
10月24日 第4報。見舞金・補償の方針、攻撃者からの金銭要求、政府への要請を公表
お名前.com デスクトップクラウドへの不正アクセスの経過

出典: GMOインターネットグループ適時開示(10月23日・24日)、同社「サイバー攻撃について(第4報)」

23日の開示では、影響の可能性があるサーバーを全プランの2万6739件とした。これは対象になり得るサーバーの数で、不正アクセスや情報の取得が確かめられた件数ではないと断っている。影響の可能性がある情報は「サーバー内に保存されていた情報」で、取引ツールなどに保存された取引口座のログイン情報を含む。同社はクレジットカードなどの決済情報をこのサービスのサーバー上に持っていないが、客が自分でサーバーに保存した情報は影響範囲に入るという。

24日の第4報では、サービスのシステムに「セキュリティ上の問題が存在し」、サービス環境への不正なアクセスと、客の情報が外部に持ち出された事実を確認したと記した。一部の客からは、取引口座で身に覚えのない取引があったとの報告を受けている。同社は客に対し、取引に使っていない端末から取引口座と取引ツールのパスワードなどを変えること、ログイン中の全セッションを切ること、取引履歴と残高を確かめること、二要素認証を設定することを求めている。

見舞金は全利用者に一律5000円、実損は補償

見舞金は、いまサービスを利用しているすべての客が対象で、金銭的な被害の有無を問わない。迷惑と不安をかけたことへの見舞金で、不正取引の損失の補償とは別に払う。連絡方法、受け取りの手続き、支払いの時期は、10月30日午後11時59分までに登録のメールアドレスへ知らせる。

不正取引の補償は、同社が調べて不正アクセスによる客の意思によらない取引と認めたものについて、取引の差損や手数料など実際に生じた損失を対象とする。市場の変動による損失、得られたはずの利益、その他の間接的な損害は含まない。客には、取引の日時・内容・損失額を客観的に確かめられる情報を出すことと、取引所などに取引の取り消しや返金を相談することを求める。本人確認書類や、同社が取引履歴を直接見るための閲覧専用パスワード(MT4/MT5など)の提示を求める場合もある。

取引所などから返金があればその分を差し引いた残りを同社が払い、取引所などが返金に応じない場合も補償の対象となる損失を同社が払う。申請方法、必要書類、受付期間、支払い時期は11月6日までに公式サイトとメールで案内する。同社は、補償の手続きでパスワード(閲覧専用のものを除く)や暗証番号を尋ねることはないとして、心当たりのない連絡に注意するよう呼びかけている。

いまの基盤はそのままでは再開しない。同社は「抜本的なセキュリティアーキテクチャの刷新」を行うと判断し、引き続きWindowsのデスクトップ環境を使いたい客には、独立したクラウド基盤で動く代替サービスへの乗り換えを案内する。乗り換え後は6か月間無料で使える。客の同意なく移すことはしないとし、提供開始の時期や申込方法、移行を望まない客の契約と料金の扱いは10月30日までにメールで知らせる。

攻撃者から金銭要求、「70を超える証券・FX会社の口座」を脅しに

第4報によると、同社は攻撃者とみられる者から金銭を要求され、応じなければ同社と客に関する情報を公開するといった連絡を受けている。同社が示した脅しの中身は次の3つだ。

  1. 国内外の70を超える証券会社・FX会社などに開設された客の取引口座への不正な操作(不正な注文による口座残高の毀損)を続ける
  2. サービスとサービスに接続した客のパソコンに関する情報を公開し、ランサムウェア攻撃を実行する
  3. 同社のシステムや運用体制などに関する情報を公開する

同社は要求には応じないとした。理由として、応じても取得された情報の削除や不正利用の防止が保証されるわけではないことを挙げた。通信記録などの証拠をすべて警察のサイバー犯罪対策部門に出し、刑事事件として捜査するよう求めている。攻撃者が同社や客の情報と称するものを公開する可能性があり、その中には事実と異なる内容が含まれるおそれがあるとして、同社の正式な知らせは自社のウェブサイトなどで出すと説明した。

緊急の措置として、主な取引所と証券各社に、このサービスを経由したアクセスの遮断、全セッションの強制切断、不正取引の緊急監視を要請している。影響を受けたシステムはネットワークの接続を止め、外部からの侵入経路を断った。

国内の被害の傾向はサイバー攻撃と情報漏えいの全体像 ランサム被害は最多123件、入口はVPNと委託先にまとめた。見舞金を払う例では、パーク24がタイムズカー情報漏えい、免許証画像146万件流出でお見舞金3000円 特損55億円と公表している。今回の見舞金は、被害の確認を条件にせず利用者全員を対象にしている。

政府に「能動的サイバー防御の発動第1号」を要請

同社は第4報に別紙を付け、今回の件を「国民の財産とサイバー空間の信頼を守るための能動的サイバー防御の『発動第1号』事案」と位置付けたうえで、国が主導して攻撃基盤を追跡・遮断し、無力化する措置をとるよう政府関係機関に「強く具申(緊急要請)」したと明らかにした。理由として、手口が暗号化や情報の窃取にとどまらず「一般国民の取引口座(金融資産)を標的とした不正操作・資産毀損」に及ぶ前例のないものであり、民間事業者だけでは国境を越えて動く犯罪集団に対処しきれない点を挙げた。持っている全ログと侵害情報を政府と捜査機関に提供するとしている。警察と所管官庁には初報を済ませた。

同社の別紙は、能動的サイバー防御を、被害が深刻になる前に国や関係機関が主導して攻撃者の基盤や侵入経路を特定し、無力化(無害化)する枠組みと説明している。制度の根拠は2025年5月16日に成立し、23日に公布された「サイバー対処能力強化法」(重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律)と、その整備法だ(内閣官房)。内閣官房の説明資料によると、攻撃に使われるサーバーなどへの「アクセス・無害化措置」は警察と自衛隊が担う。

警察の措置は、整備法で警察官職務執行法に加わった第6条の2に定めがあり、e-Gov法令検索によると2026年10月1日に施行された。警察庁長官が指名する「サイバー危害防止措置執行官」が、不正な行為に使われる通信やデータを認め、そのまま放置すれば「人の生命、身体又は財産に対する重大な危害」が生じるおそれがあり緊急の必要があるとき、攻撃元のコンピューターの管理者に危害を防ぐ措置を命じたり、自ら電気通信回線を通じてデータの消去などの措置をとったりできる。原則としてあらかじめサイバー通信情報監理委員会の承認を得なければならず、相手のコンピューターが国内にあると認める相当な理由がないときは警察庁の警察官に限り、事前に外務大臣と協議する。

業績への影響は算定できず、再開時期は未定

親会社のGMOインターネットグループは、見舞金と補償が連結業績に与える影響は現時点で算定できていないとし、詳細が分かり次第知らせるとした。GMOインターネットは東証プライムに上場する連結子会社(証券コード4784)。サービスの再開時期は未定で、同社は安全を確かめたうえで決まり次第知らせる方針だ。

政府への要請について、同社の発表には政府側がどう応じたかは記されていない。強化法が守る対象は題名のとおり「重要電子計算機」で、法律の定義では政府機関や、経済安全保障推進法の特定社会基盤事業者、重要情報を持つ事業者などが使う電子計算機のうち政令で定めるものを挙げている。一方、警察官職務執行法の無害化措置の要件は、人の生命・身体に加えて「財産」への重大な危害のおそれを含んでおり、対象を重要電子計算機に限る書き方はしていない。民間のクラウドサービスの利用者の口座を狙った攻撃に、10月に施行されたばかりの仕組みが使われるかどうかは、政府の判断にかかっている。

相談窓口は、お名前.com のお問い合わせフォーム(https://help.onamae.com/contact/)と電話(03-5456-2560、土日・祝日を含め24時間受付)。