政府は10月23日の閣議で、2026年版(令和8年版)の自殺対策白書を報告した。2025年(令和7年)の自殺者は全国で1万9188人と前年より1132人減り、統計開始以降で初めて2万人を下回った。一方で小学生・中学生・高校生の自殺者は計538人に上り、統計のある1980年(昭和55年)以降で最も多かった。白書は自殺対策基本法の制定から20年を迎えたことを受けた特集を組み、自殺者が減った層と減らない層を分け、こども・若者の自殺が増えている背景を分析した。

自殺対策白書は、自殺対策基本法第11条に基づき、政府が毎年国会に提出する法定白書である。正式な名称は「令和7年度 我が国における自殺の概況及び自殺対策の実施状況」で、厚生労働省がまとめた。官房長官は23日午前の記者会見で、閣議で厚生労働大臣からこの報告について発言があったと説明した。

小中高生は538人、中学生・高校生とも過去最多

白書の第1章によると、2025年の自殺者のうち学生・生徒等は1082人で、前年より5人多く、2年続けて増えた。内訳は小学生10人、中学生172人、高校生356人、大学生424人、専修学校生等120人だった。

小中高生を合わせた538人は、前年の529人を9人上回った。白書の概要版は、中学生と高校生がいずれも最多となり、とりわけ中学生は3年続けて最多を更新したとしている。小学生は前年の15人から5人減った。

学校段階別にみた自殺者数(人)

2024年2025年

02004006001510小学生163172中学生351356高校生434424大学生
前年の値は、白書の2025年の人数から前年差を差し引いて本紙が算出出典: 厚生労働省「令和8年版自殺対策白書」第1章
数値で見る(単位: 人)
項目2024年2025年
小学生1510
中学生163172
高校生351356
大学生434424

特集の第3節は、長い期間の推移も示している。小中高生の自殺者は2011年以降、毎年300人を超える状態が続き、2020年に大きく増えて500人に迫った。2021年にいったん400人台後半となった後は、500人台前半で推移している。

年齢層別にみると、19歳以下は830人で前年より30人増えた。20歳代以上の各年齢層がいずれも前年を下回るなかで、増えたのは19歳以下だけだった。白書は、19歳以下の男女と20歳代の女性で、人口10万人当たりの自殺者数を示す自殺死亡率が近年上昇していると指摘している。

中高生では女子が男子を上回る

性別でみると、こどもの自殺には全体と異なる傾向が出ている。自殺者全体では男性が1万3176人、女性が6012人で、男性が女性の約2倍に当たる。ところが中学生と高校生では女子が男子を上回った。

学校段階 男性 女性 計
小学生 4人 6人 10人
中学生 77人 95人 172人
高校生 177人 179人 356人
大学生 253人 171人 424人
2025年の学校段階別・男女別の自殺者数

出典: 厚生労働省「令和8年版自殺対策白書」第1章 図表1-9

白書の第3節によると、男子は高校生が2019年に増えた後、増減を繰り返している。女子は高校生と中学生が2020年に急増し、その後も増える傾向にある。2023年以降は女子中学生が男子中学生を、2024年以降は女子高校生が男子高校生を上回った。白書は「直近の中高生の状況は、こうした全体の男女比の傾向を覆す推移となっている」と記した。

女性の学生・生徒等は505人で、前年より19人多かった。女性で最も多いのは高校生の179人で、大学生の171人を上回った。男性で最も多いのは大学生の253人だった。

原因・動機は「家庭」「健康」「学校」

白書は警察庁の自殺統計をもとに、小中高生の自殺の原因・動機も分けて示した。統計では、遺書などの資料や家族らの証言から推定できる原因・動機を、1人につき4つまで数える。

これまでの白書の分析では、小中高生は原因・動機が「不詳」となる割合が高く、多くみられるのは「家庭問題」「健康問題」「学校問題」だった。「家庭問題」の割合は小学生で最も高く、学校段階が上がるにつれて下がる。「健康問題」は逆に学校段階とともに上がり、女子では高校生で急に高くなる。「学校問題」は、男子では学校段階とともに上がり、女子では中学生で最も高い。白書は、2025年の小中高生でも「おおむね同様である」とした。

詳しい項目を中高生についてみると、「家庭問題」では性別や学校段階にかかわらず「親子関係の不和」と「家族からのしつけ・叱責」が多かった。「学校問題」は男子高校生で多く、高校生では「学業不振」と「進路に関する悩み(入試以外)」が目立った。「学友との不和(いじめ以外)」なども増えており、白書は、類型に分けられない原因・動機を含む項目として「注視が必要」とした。

白書はこども・若者の自殺について、原因・動機や前触れが周りから把握されにくい場合が多いことに加え、「こどもは危機を言語化しにくいことも対策を進める上での重大な課題である」と指摘している。

自殺未遂の後、支援につながらない例

特集は、自殺未遂の実態にも踏み込んだ。消防庁のデータでは、自殺未遂を含む自損行為による救急搬送は2019年以降増える傾向にあり、2024年は4万2000人を超えた。白書が引いた分析によると、0〜19歳の自損行為による救急搬送率は2016年から2023年の間に2.5倍になった。

自殺未遂は自殺の重大な危険因子とされる。2025年の自殺者のうち、自殺未遂歴があったのは19.9%で、女性に限ると30.1%と男性の15.3%の約2倍だった。

白書は、日本臨床救急医学会といのち支える自殺対策推進センターが2022年12月から運用する症例登録の仕組み「自傷・自殺未遂レジストリ(JA-RSA)」のデータも詳しく分析した。登録は救命救急センターを受診した人に限られ、全国308機関のうち研究に参加するのは78機関、登録を始めたのは47機関にとどまるため、白書は全体の一部の症例であると断っている。

それでも分析からは課題が浮かんだ。女性で自傷・自殺未遂歴がある症例の割合は男性より大幅に高く、29歳以下の女性では約6割に上った。救命救急センターを出た後に帰宅した症例では、ほかの支援機関への「つなぎ」や情報提供が無かった例が3〜4割程度あり、女性では4割以上に上った。新たな連携先へのつなぎを実施した例は、帰宅した場合で1割程度、入院した場合で2割程度だった。白書は、自殺未遂を繰り返しているとみられる危険の高い人が「医療的な措置だけを経て元の生活に戻っていくケースが多くある」とまとめた。

国は2023年度から、精神科医や心理職などの専門家でつくる「こども・若者の自殺危機対応チーム」を都道府県・指定都市に置く事業を始めている。学校や市町村が自傷行為の経験があるこどもへの対応に迷ったときに助言する仕組みで、2025年度は24自治体に置かれた。白書は大阪府と静岡市の例を紹介した。

3万人台から2万人割れまでの20年

白書の特集は、自殺者全体の減り方も分析した。自殺者は1998年に急増した後、3万人台で推移し、2010年に減少に転じた。2020年から2023年にかけて緩やかに増えたが、長い目でみると減っている。今年に入っても減少は続いており、警察庁の暫定値では1〜9月の自殺者が前年同期を下回った(自殺者数、1〜9月は1万3583人で前年同期比1131人減 9月の暫定値は1296人)。

白書によると、2010年以降に減ったのは、主に同居人のいる働く男性や男性の失業者、主婦などだった。男性では、経済・生活問題や健康問題を原因・動機とする自殺が減った。白書は、景気・雇用対策と関連施策を自殺対策の観点から束ねて進めてきたことが減少につながったとみている。

これに対し、一人暮らしの有職者、一人暮らしの年金・雇用保険等の受給者、同居人のいる働く女性、学生・生徒等は減っていない。白書は、これらの層では経済的な問題だけでなく、健康や、家庭・職場・学校での人間関係の問題など、個別の対応が要る困難の比重が大きくなっていると分析した。

そのうえで今後の方向性として、悩みを抱える人が特定の制度や支援の対象にすぐ当てはまらなくても、地域、学校、職場、医療機関、相談窓口などで接点を持てるようにし、危険の度合いに応じて支援を続けられる仕組みが求められるとした。自殺未遂を「端緒として、再度の自殺企図の防止につなげていくこと」も挙げた。

悩みを抱えた人やその周りの人に向けて、厚労省は電話の相談窓口を案内している。「#いのちSOS」(0120-061-338)と「よりそいホットライン」(0120-279-338)は24時間受け付けている。いじめなどこどもの悩み全般は、文部科学省の「24時間子供SOSダイヤル」(0120-0-78310)が夜間・休日も応じる。