政府は10月22日、AI・デジタル改革推進会議の第1回会合を首相官邸2階大ホールで開いた。会議は午後4時20分から30分間で、運営方法と「論点(案)」を議題とし、構成員の有識者と意見を交わした。議長の木原稔官房長官は会議の最後に、「AXの具体像」「AI・デジタル改革原則」「AX社会実装の加速化」の3点を優先し、年末までに「中間整理」として取りまとめると表明した。「AIガバナンスの強化」など残る論点は、年明け以降に具体化し、関連する計画の改定につなげるとした。

官房長官「3点を年末までに中間整理」 4閣僚に宿題

首相官邸の発表によると、木原長官は会議の議論を踏まえ、「AIの急速な発達を踏まえまして、社会全体のAX・DXを強力に推進していくため、本日、『AI・デジタル改革推進会議』を始動いたしました」と述べた。会議では、10月1日の日本成長戦略会議での高市首相の指示を受けた検討状況を、各大臣が説明したという。

木原長官は続けて、関係閣僚に個別の作業を割り振った。名前を挙げたのは、古川俊治AI・デジタル改革推進担当相、中司宏規制改革担当相、山下貴司法制度検証・改革担当相、赤澤亮正AX社会実装担当相(経済産業相)の4人である。

担当閣僚 指示の内容 期限
古川氏 2030年時点の行政・産業・暮らしの姿など「AXの具体像」の明確化 年末まで
古川氏 「AXに対応した構造改革を進めるための原則」の策定 年末まで
古川氏 AI法を含む関連法制度の見直し、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)の機能強化 期限の明示なし
古川氏・中司氏 AIと「人」のベストミックスに向けた規制・制度の整備(山下氏と連携しアナログ規制の見直しも再点検) 「速やかに」
赤澤氏 AX実装を加速する「即効性のあるアクションプラン」の取りまとめ 年末まで
古川氏 自動運転をはじめ公共・準公共分野のAXの方策 「順次具体化」
木原官房長官が第1回会合で関係閣僚に求めた事項

出典: 首相官邸「AI・デジタル改革推進会議」(令和8年10月22日)

AXは「AIトランスフォーメーション」の略で、AIを前提に業務や組織、制度を組み替えることを指す。会議は10月20日の閣議決定で設けられ、2023年設置のデジタル行財政改革会議を引き継いだ(政府、AI・デジタル改革推進会議を設置 デジタル行財政改革会議は廃止し検討引き継ぎ)。議長は官房長官とAI・デジタル改革推進担当相の2人で、有識者は松尾豊東京大学教授、宍戸常寿東京大学教授、山口明夫日本IBM会長(経済同友会代表幹事)ら10人が指名されている。

論点案は5本 「供給構造そのものを作り変える」

古川担当相の名前で配られた「論点(案)」は、AIとデジタルを使った改革の位置づけを、「業務の効率化や個別の規制改革にとどまらず、日本社会の供給構造そのものを作り変えるもの」と書いた。人口減少で「構造的な供給力不足」に直面し、従来の供給構造を続ければ社会経済の維持が難しくなるとの認識が出発点にある。そのうえで、この改革は国際競争力を高める「成長投資」であると同時に、官民が先手を打って行う「危機管理投資」でもあると位置づけた。

論点は次の5本である。

  1. 信頼できるAIで社会全体を駆動するAXの具体像
  2. 「AI・デジタル改革原則」に基づく規制・制度の整備
  3. AX社会実装の加速
  4. AIガバナンスの更なる強化
  5. AX社会実現に向けた横断的課題への対応

資料は、AIの性能が急速に上がっている根拠として、AIエージェントが自律的にこなせる作業の長さを示す図を載せた。人間の専門家ならどれだけの時間がかかる作業を、AIが8割の成功率で完了できるかを測ったもので、2019年は「1秒程度」、2023年は「1分程度」、2026年は「約3時間」と記し、長さは約7か月ごとに倍増しているとした。国際的な報告書「International AI Safety Report 2026」の図を基にした数値である。

論点1では、2030年に国民や現場から見て何が変わっているかを示すべきだとし、例として「申請しなくても必要な支援が届く行政」「少人数でも事業継続できる産業」を挙げた。行政、医療・介護、教育、製造、建設、物流、農業、防災の各領域で分野別の「AX設計図」を描くことや、AIの導入状況に加えて業務時間の削減などの成果を測る指標をAI基本計画に盛り込むことも提案した。検討の結果はAI基本計画の改定に反映させる方向を示している。

士業の業務独占、AIエージェントの契約 規制の論点

論点2は、規制・制度の見直しの土台となる「AI・デジタル改革原則」を新たに定める案である。これまでの「構造改革のためのデジタル原則」に、AIの観点を加える位置づけで、5本の柱を並べた。①AIを前提とした業務・規制・制度のアップデート、②責任あるアジャイル・ガバナンス、③データ・共通基盤のAI-Ready化、④戦略的自律性の確保、⑤官民連携・推進体制の強靱化、である。

①では、人の行為や書面の介在を「不合理に求める」など、AIの普及を妨げる規制の見直しを府省庁横断で進めるとし、「人の行為と比して、有意な先端技術については原則活用」と書いた。②では、事前の一律規制ではなく、実証を通じてリスクを把握し続けながら更新していく考え方を基本に据えた。AI開発に必要なデータを取るための実証は、安全性の確保などを前提に「全面的に容認することを原則とする」とした。④では、AIの基盤となる機能を特定の国や企業に過度に依存しないよう、国産AIの開発を進めるとしている。

具体的な見直しの対象として、資料は士業などのいわゆる「業務独占規制」とAIサービスの関係を挙げた。法務省が2026年8月に公表した、AIを使った法務業務支援サービスと弁護士法72条の関係についての考え方を参考に、他の士業についても府省庁横断で整理するよう求めている。AIエージェントを使った意思表示や代理、契約については、利用者の意図を超えた契約が結ばれるような事例に即して現行法の解釈を整理すべきだとした。AIエージェントによる決済の自律化を見据え、ステーブルコインを金銭に代わって使えるかどうかの法令上の扱いも整理の対象に入れた。

中司規制改革担当相の提出資料は、すでに動いている見直しの進み具合を示した。歩道を歩いて移動する歩行型ロボットの公道実証は、警察庁が2026年8月に道路使用許可の基準を改めた通達を出した。住民検診の画像読影は、医師2人以上で行う決まりを、精度を保ちつつ医師1人でも可能とする方向で厚生労働省が検討している。内閣府などは、AIの社会実装で障害となる規制について企業や国民から情報を募っており、回答の受付は10月19日から30日までとしている。

AI法の見直し 「システム全体」で安全を確保

論点4は、AIのリスクへの対応である。資料は、AIの悪用によるサイバー攻撃などのリスクが複雑化・深刻化していることに加え、AIが自らを改良し続ける「再帰的自己改善」が飛躍的に進む可能性にも触れ、AI法を含む関連法制度の見直しを検討するとした。主要国では政府機関がAIの高度な能力の動向を継続的に評価しているとして、日本でも評価の仕組みを検討すべきではないかと問うている。

対策の考え方として、AIモデルだけを見るのではなく、AIエージェントのシステム全体で安全を確保すべきだとし、6つの要素を挙げた。AIが動く実行環境の枠組み(ハーネス)、誰が動いているかを識別するID認証、許容範囲を外れないようにするガードレール、何をどこまで委ねるかの権限管理、能力と安全性の評価、行動の証跡を残す監査ログ、である。政府はすでに職員向け生成AI「源内」で、AIエージェントを使う際の安全ルールを定めている(政府職員18万人の生成AI「源内」、AIエージェント環境の提供を開始 安全ルール「源内基準」を公表)。論点3では、その「源内」にAIエージェント機能を加えた大規模実証を進める案も示した。

構成員からは4人が資料を出した。宍戸教授は、再帰的自己改善によって社会が不安定になる事態に備え、政府が国内外の情報を能動的に集め、AI開発者からの情報提供や法的根拠に基づく報告を受けて状況を評価し、迅速に発信する体制をつくる必要があると書いた。丸山絵美子慶応義塾大学教授は、AIエージェントが結んだ契約やAIによる事故の責任を誰に帰属させるのかという民法上の課題を整理した。松尾教授は、申請を待たずに支援が届く「プッシュ型」の行政サービスなど、2030年に目指す社会の姿を示した。

年内に短期プラン、自治体の「一人情シス」も課題に

論点3のAX社会実装では、人手不足が著しい医療・介護、運輸、建設などの業種でAIの活用を短期間で進める具体策を「年内を目途に」まとめる案を示した。中小企業・小規模事業者への普及もあわせて進めるとしている。木原長官が赤澤担当相に求めた「即効性のあるアクションプラン」は、この部分にあたる。赤澤氏の提出資料は、中小企業でのAI活用について、DXではプログラミング言語が必要だったが「AXでは日本語のみ」で済むとし、都市部の若いホワイトカラー人材を雇うのと同じ効果があると説明した。

論点5は、データやシステム、自治体の受け皿を整える課題である。法令や行政データを機械が読める形式で整える「Rules as Code」の推進、マイナポータルとGビズポータルのAIエージェント対応、本人や組織、エージェントのID・権限管理や監査ログを共通機能として整えることを挙げた。自治体については、予算や「一人情シス」(情報システム担当が1人しかいない状態)といった制約で実装体制に差が開いているとして、自治体が担いきれない機能を支える体制を検討すべきだとした。東京都などの先行例を参考にし、「源内」の自治体展開や専門人材の派遣も検討の対象に入れている。

運営要領は配布資料と議事録の公表を原則としている。10月25日朝の時点で、デジタル庁の会議ページに掲載されているのは議事次第と資料1〜10で、第1回の議事録は確認できなかった。年末の中間整理までに、どの規制を見直すかがどこまで具体的な形になるかは、次回以降の会合で示される資料を見る必要がある。