日本とフランスの両政府は10月19日、サイバー分野の政府間協議「日仏サイバー協議」の8回目を東京都内で開いた。外務省が20日に発表した。前回の第7回は2023年11月にフランスで開かれており、約3年ぶりの開催となる。両国は、サイバーセキュリティの戦略や政策、能力構築支援を含む二国間と多国間の協力について幅広く意見を交わし、今後も協議を続けることを確認した。
日仏の担当大使が代表、両国の関係省庁が出席
外務省によると、日本側の代表は髙羽陽・外務省総合外交政策局参事官兼サイバー政策担当大使、フランス側の代表はアドリアン・アベカシス欧州・外務省デジタル及びAI大使が務めた。
日本側からは外務省のほか、国家サイバー統括室、警察庁、総務省、経済産業省、防衛省の関係者が出席した。フランス側からは欧州・外務省、国家情報システムセキュリティ庁、経済・財務及び産業・エネルギー・デジタル主権省、法務省の関係者が出席した。フランス側の国家情報システムセキュリティ庁は、第6回と第7回の協議にも出席している。
外務省の発表は、意見交換の論点として「日仏両国のサイバーセキュリティ戦略や政策、能力構築支援を含む二国間及び多国間での協力等」を挙げた。能力構築支援は、サイバー攻撃への対処能力が十分でない国に対し、人材育成や制度づくりを手伝う取り組みを指す。発表には、個別の合意事項や共同文書、次回の開催時期は記されていない。
髙羽大使は10月13日にシンガポールで開かれた日米豪印と日米比のサイバー会合にも日本代表として出席しており、1週間足らずの間に3つの協議に臨んだことになる(日米豪印と日米比、シンガポールでサイバー会合 同じ日に2つの枠組みで協議)。
4月の首脳共同声明で「協議を通じた協力強化」を確認
今回の協議について、外務省は「本年4月の日仏首脳共同声明において日仏サイバー協議を通じた協力強化へのコミットメントを確認したことを踏まえ」て開いたと説明している。
マクロン大統領は3月31日から4月2日まで日本を公式訪問し、4月1日に高市早苗首相と東京で首脳会談を行った。会談は約2時間10分に及び、両首脳は「特別なパートナーシップ」の深化・強化を副題とする日仏首脳共同声明に署名した。声明は、2023年から2027年までを対象とする日仏協力のロードマップが着実に実施されてきたことを歓迎している。
声明のサイバー分野の記述は、新たな協力分野として「ハイブリッド脅威や新興技術への対応」を発展させると位置づけた。そのうえで、サイバー脅威に対抗するには同志国との協力が欠かせないことを確認し、サイバー空間での責任ある国家行動を推進するため、国際的な場での取り組みの調整を続けるとした。さらに「日仏サイバー協議を通じた協力強化へのコミットメントを確認した」と明記し、誤情報や偽情報、ハイブリッド干渉への対策について、関係する国家当局間や研究機関間の交流を強めることでも一致した。
声明は北朝鮮についても、暗号資産の窃取や北朝鮮IT労働者の活動を含む「悪意あるサイバー活動」に深刻な懸念を示し、共に対処する必要性を表明した。
声明には、両首脳が「パル・マル・プロセス」で「規制のない商業的サイバー侵入能力の拡散に対処するために協力していく」との一文も入った。パル・マル・プロセスは、英国とフランスがロンドンで共催した会議を起点とする国際的な取り組みで、英国政府は2024年2月6日にこの会議の宣言を公表している。宣言の題名は「商業的サイバー侵入能力の拡散と無責任な使用への対処」で、民間が開発し販売するサイバー侵入の道具やサービスが広がり、無責任に使われることを問題にしている。フランスは、この取り組みを始めた当事国の一つにあたる。
外務省の今回の発表は、協議でパル・マル・プロセスや偽情報対策を個別に取り上げたかどうかには触れていない。
2018年以降で5回、2〜3年おきに開催
外務省のサイバー外交のページによると、日仏サイバー協議は第4回が2018年6月、第5回が2019年7月、第6回が2022年7月、第7回が2023年11月に開かれており、今回は第7回から約3年の間隔が空いた。
第6回と第7回はいずれも、日本の外務省のサイバー政策担当大使とフランス欧州・外務省のアンリ・ヴェルディエ・デジタル大使が共同議長を務めた。フランス側の代表の肩書は、今回「デジタル及びAI大使」に変わっている。
| 回 | 外務省の発表日 | 開催地 | 日本側の代表 | フランス側の代表 |
|---|---|---|---|---|
| 第6回 | 2022年7月7日 | 発表に記載なし | 有馬裕・サイバー政策担当大使 | ヴェルディエ・デジタル大使 |
| 第7回 | 2023年11月21日 | フランス | 石月英雄・サイバー政策担当大使 | ヴェルディエ・デジタル大使 |
| 第8回 | 2026年10月20日 | 東京都内 | 髙羽陽・サイバー政策担当大使 | アベカシス・デジタル及びAI大使 |
出典: 外務省の各回の報道発表
日本側の出席機関も変わった。第6回と第7回には内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)とJPCERTコーディネーションセンターの関係者が出席していたが、今回の出席者には国家サイバー統括室が入り、JPCERTコーディネーションセンターは挙がっていない。
第6回の発表は、2022年6月の首脳会談で岸田文雄首相とマクロン大統領がサイバー分野を含む多層的な協力で一致したことを受けた取り組みと説明していた。第6回では5G技術や人材育成も議題とされ、国連でのサイバー空間の議論で、国家の責任ある行動を進めるための「行動計画(POA)」を有志国と連携して推進することを確認している。
AI対話も新設、先端技術で協力広がる
4月の首脳会談では、サイバー分野とは別に、人工知能(AI)分野で具体的な協力を進めるため「日仏ハイレベルAI対話」を立ち上げることでも一致した。第1回は6月19日にパリで開かれ、政府間の対話に加えて両国のAI関連企業が参加する官民の対話も行われた。外務省によると、政府間対話ではAIのデュアルユース(軍民両用)や安全保障分野での利活用、グローバル・サウスとの協力などが議論された。
高市首相とマクロン大統領は6月16日、フランスで開かれた主要7か国首脳会議(G7エビアン・サミット)の機会にも会談している。高市首相は4月の会談を踏まえ、重要鉱物を含む経済安全保障や先端技術などの分野で協力をさらに深めたいと述べ、マクロン大統領も安全保障や先端技術での一層緊密な連携に意欲を示した。
今回のサイバー協議は、4月の首脳会談で確認された協力の枠組みのうち、サイバー分野で実務者が顔を合わせる場となった。ただ、外務省の発表は論点を列挙するにとどまり、パル・マル・プロセスや偽情報対策で何を具体的に進めるのかは明らかにしていない。
