日本、米国、オーストラリア、インドの4か国(日米豪印)と、日本、米国、フィリピンの3か国(日米比)が10月13日、シンガポールでそれぞれサイバー分野の高級事務レベル会合を開いた。外務省が同日発表した。日本からは髙羽陽・外務省サイバー政策担当大使が両方の会合に出席した。日米豪印は日本が主催し、インド太平洋地域のサイバー対処能力の向上や、サイバー脅威を防ぎ抑止するための協力について意見を交わした。日米比は米国が主催し、能力構築支援や重要インフラの防護での連携を話し合った。
日米豪印は日本が主催、4か国の担当者が出席
外務省によると、日米豪印の会合は髙羽大使が主催した。オーストラリアからはトリ・ラム外務貿易省サイバー問題・重要技術担当次官補、米国からはジョシュア・ヤング国務省新興脅威局上級職、インドからはアミット・シュクラ外務省サイバー外交・電子政府・情報技術担当局長が出席した。
4か国は、「進化した『自由で開かれたインド太平洋(FOIP)』」のもとで地域の強靱性と自律性を高めることを重視する考えを改めて確認した。そのうえで、地域のサイバー対処能力の向上や、サイバー脅威を防御・抑止するための協力について意見を交わし、今後もサイバー分野で緊密に連携していくことを確かめた。
進化したFOIPは、政府が掲げるインド太平洋外交の方針だ。外務省が公表しているその概要には、サイバーセキュリティの能力構築支援が具体策として載っている。サイバー攻撃の具体的な事例を想定した演習形式の意見交換、ODAなどを通じた日ASEANサイバーセキュリティ能力構築センターの運営支援、太平洋の島国での演習などだ。米国と組む事業の一覧には「(日米豪比)サイバーセキュリティ関連演習」が挙がっている。FOIPをめぐっては、前日の12日にも日米の事務方が東京で協議しており、その内容は「日米がFOIP協議、高市首相の「進化版」を説明 沖縄の事件とICCも事務方で伝達」で伝えた。
日米比は米国が主催、重要インフラ防護などで意見交換
日米比の会合は米国が主催した。米国からはヤング氏、日本からは髙羽氏、フィリピンからはロディル・アニバン情報通信省サイバーセキュリティ担当次官代行が出席した。外務省はこの会合の発表で、髙羽氏の肩書を「総合外交政策局参事官兼サイバー政策担当大使」と記している。
外務省の発表によると、3か国は地域の安全保障環境が厳しさを増すなかで、基本的な価値や原則を共有する日米比の間でサイバー分野の協力を具体的にするため、能力構築支援や重要インフラの防護での連携などについて意見を交わした。3か国も、引き続きサイバー分野で緊密に連携していくことを確認した。
重要インフラとは、電力、通信、金融、交通など、止まると市民生活や経済に大きな影響が出る社会の基盤を指す。能力構築支援は、サイバー攻撃への備えや対応の力が十分でない国に、人材育成や技術面の協力を行う取り組みだ。
外務省の2つの発表は、いずれも意見交換の項目を挙げるにとどまり、新たな事業名や数値目標、次回会合の時期には触れていない。米国やオーストラリア、インド、フィリピン側の発表は、記事執筆時点で確認できていない。
日米豪印のサイバー協力、2022年に「共同原則」
日米豪印のサイバー協力には土台となる文書がある。外務省によると、4か国は2022年5月の首脳会合で「日米豪印サイバーセキュリティ・パートナーシップ」を発表した。外務省が公表している「共同原則」の仮訳によれば、4か国は重要インフラのサイバーセキュリティ、サプライチェーンのリスク管理、ソフトウェアのセキュリティ、人材の育成の4分野で協力を強めるとしている。
この枠組みのもとには、日米豪印上級サイバーグループがある。2023年12月には東京で3回目の対面会合が開かれた。このとき日本からは、国家安全保障局次長を兼ねる内閣官房副長官補が出席し、会合を主催した。4か国は同月の共同プレスリリースで、サイバー空間に国際法が適用されることを再確認し、地域の重要インフラへのサイバー攻撃に深刻な懸念を示した。インド太平洋地域でサイバー対策への意識を高める「日米豪印サイバー・チャレンジ」などの取り組みを含め、共同原則への支持も改めて表明した。
今回の会合は外務省のサイバー政策担当大使が主催した「高級事務レベル会合」で、外務省の発表は上級サイバーグループとの関係には触れていない。
日米比は2024年の初の首脳会合でサイバー協力を確認
日米比の3か国の枠組みは、比較的新しい。2024年4月11日、岸田文雄首相(当時)、バイデン米大統領(同)、フィリピンのマルコス大統領が米ワシントンで初めての3か国首脳会合を開いた。外務省によると、3首脳は「日米比サイバー・デジタル対話」の立ち上げなどを通じて、サイバー分野での連携を強めることを確認した。
同日に出された共同ビジョンステートメントの仮訳には、3か国が更なる協力の機会を探るため、その年のうちに初の日米比サイバー・デジタル対話を開くことを期待すると書かれている。今回の高級事務レベル会合が、この対話とどう関係するのかは、外務省の発表からは確認できていない。
この首脳会合では、3首脳が日米同盟と米比同盟がインド太平洋の平和と安全を守ってきたことを確認し、中国による南シナ海や東シナ海での力による一方的な現状変更の試みに反対することでも一致した。サイバー協力は、こうした安全保障上の連携と並ぶ柱の一つとして位置づけられた。
政府のサイバー外交、各国との協議を重ねる
外務省はサイバー分野の外交の柱として、サイバー空間でのルール・規範づくり、サイバー攻撃の抑止、能力構築支援、国際連携の4つを掲げている。サイバー攻撃は匿名性が高く、攻める側が有利で、国境を簡単に越えるため、一国だけで対応するのは極めて難しいというのが外務省の説明だ。
ルールづくりでは、サイバー空間を使った行為にも既存の国際法が適用されるとの立場をとり、国連の全加盟国が参加するオープン・エンド作業部会(OEWG、2021〜2025年)の議論に加わってきた。2021年には、サイバー行動に適用される国際法についての政府の基本的な立場も公表した。抑止では、各国と共に攻撃主体を名指しで非難したり懸念を表明したりする「パブリック・アトリビューション」を行っている。攻撃の背後にいる国家や犯罪集団の活動を認めないという意思を示し、攻撃する側の負担を高める狙いだと外務省は説明する。ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)に対処するため米国が主催する多国間の枠組み「カウンターランサムウェア・イニシアティブ」の議論にも参加している。
インド太平洋の能力構築支援は、ASEANを中心に関係省庁で進めている。外務省のサイバー外交のページには、今年に入って開いた二国間の協議として、日・NATOサイバー対話、日・EUサイバー対話、日英サイバー対話、日・リトアニアサイバー協議などが並ぶ。今回の2会合はその最新の項目として掲げられている。
シンガポールでは10月12日から15日まで、同国政府が主催する国際会議「シンガポール国際サイバーウィーク」が開かれている。各国のサイバー担当者が集まる場だが、外務省の発表は、今回の2会合がこの会議に合わせたものかどうかには触れていない。
