農林水産省は23日、経済安全保障推進法に基づく肥料原料の備蓄で、肥料や農業資材を扱うサンアグロ(東京都中央区、矢作真也社長)が出した「供給確保計画」を認定した。備蓄するのは化学肥料の主要な原料であるりん酸アンモニウム(りん安)で、施設の整備は伴わない。この制度での認定は13件目で、2024年11月以来、約2年ぶりとなる。認定により、同社は備蓄にかかる保管料の助成を受けられるようになる。

4度の公募で12件、今回は5次認定

肥料は2022年12月、経済安全保障推進法の施行令で「特定重要物資」に指定された。国民生活や経済活動が依拠する物資について、安定供給に取り組む民間事業者の計画を国が認定し、資金面で支援する仕組みだ。同じ法律に基づく供給確保計画の認定は、船舶の分野でも行われている(造船の設備投資支援、認定8件で最大3110億円に 国交省が川崎重工など5件を追加認定 官民投資は9000億円規模)。

農水省によると、肥料原料の備蓄ではこれまでに4度の公募で12件を認定してきた。今回のサンアグロは5度目の公募による認定にあたる。同社は審査の結果、法律で定める要件を満たすと認められた。

認定を受けた事業者は、安定供給確保支援法人に指定された一般財団法人肥料経済研究所に事業実施計画を出し、交付決定を受けたうえで備蓄を始める。5次募集の日程表では、認定の後に採択の通知、交付申請、交付決定と進み、交付決定以降に原料の買い入れを始める流れになっている。

これまでに認定された事業者と、備蓄する原料は次のとおり。

認定日 事業者 備蓄する原料
2023年7月28日 中部飼料 りん安
2023年7月28日 ホクレン肥料 りん安・塩化カリウム
2023年7月28日 ハイポネックスジャパン りん安
2023年7月28日 イチネンMAC りん安・塩化カリウム
2023年7月28日 全国農業協同組合連合会・全農グリーンリソース りん安・塩化カリウム(施設整備あり)
2023年12月22日 太陽肥料 塩化カリウム(施設整備あり)
2023年12月22日 日東エフシー りん安
2024年6月7日 中村商会・鈴江コーポレーション りん安(施設整備あり)
2024年6月7日 堺商事 りん安
2024年6月7日 伊藤忠商事 りん安・塩化カリウム
2024年11月29日 ワールドグリーン りん安(施設整備あり)
2024年11月29日 九鬼肥料工業 りん安
2026年10月23日 サンアグロ りん安
肥料原料の備蓄に係る供給確保計画の認定実績(2026年10月23日時点)

出典: 農林水産省「経済安全保障推進法に基づく肥料原料の国内備蓄について」

原料の多くを海外に頼る肥料

なぜ肥料原料を国が備蓄させるのか。農水省の取組方針は、日本にはりん鉱石や加里鉱石といった肥料の粗原料となる天然資源が少なく、肥料原料の多くを輸入に頼っていると説明する。家畜のふん尿や食品の残りかす、下水汚泥も肥料として一部使われているが、国内の需要の多くを満たすのは難しいとしている。

方針は主な原料ごとに調達先を挙げている。尿素は過半をマレーシアから調達しているものの、生産国が多く、代わりの調達先を探しやすい。これに対し、りん安は原料のりん鉱石がモロッコ、中国、エジプトなどに偏り、日本は肥料用のりん安の大半を中国から調達している。塩化カリウムも原料の加里鉱石がカナダ、ベラルーシなどに偏る。りん安と塩化カリウムはいずれも、供給が減ったときに代わりとなる国の選択肢が狭く、遠方の国が多いとして、方針は「外部に過度に依存している」と位置づけた。

方針はさらに、近年、主要な供給国からの輸出の停滞やウクライナ情勢の影響などで、農業現場への肥料の供給が途絶えるリスクが表面化したと記している。備蓄の対象をりん安と塩化カリウムの2品目に絞ったのはこのためだ。

目標は年間需要量の3か月分

国の目標は、令和9年度(2027年度)までに、りん安と塩化カリウムの年間需要量の3か月分を恒常的に保有する体制を築くことだ。3か月という水準は、代わりの国から調達するのに一定の期間がかかっても国内で肥料をつくり続けられる量として定めた。農水省が示した3か月分の数量は、りん安が12万6000トン、塩化カリウムが7万8000トンとなっている。

5次募集の日程表によると、募集の前の時点で備蓄体制はりん安が2.4か月分、塩化カリウムが3か月分に達していた。このため5次募集はりん安だけを対象とし、塩化カリウムの募集は終えた。認定実績の一覧にも「塩化カリウムは、国の備蓄数量目標に達しました」と記されている。

5次募集は8月13日に始まり、8月28日に供給確保計画の申請を締め切った。認定は「9月~10月中」の予定としていた。日程表は、事業者ごとのりん安の備蓄目標の合計が国の目標に達した段階で、募集を停止すると定めている。

助成は保管料と施設整備費

助成は2種類ある。1つは保管料の助成で、事業者がふだんから持つ在庫を「基準数量」とし、これを超えて備蓄した分の保管料、金利相当額、保険料相当額を支払う。基準数量は、りん安が自社の年間使用量または輸入量の1か月分、塩化カリウムが2か月分。農水省の説明資料は、りん安を年1200トン使う事業者なら基準数量は100トンで、それを超えた分の保管料が助成の対象になると例示している。3か月分以上を備蓄する場合は、1.5倍の割増単価を適用する。自社の倉庫で保管する場合も対象になる。

もう1つは施設整備費の助成で、備蓄に必要な倉庫や設備の整備費の3分の2以内を支援する。保管料の助成と併せて受けることもできる。今回のサンアグロの計画は施設整備を伴わない。

認定を受けるには、直近3年の輸入実績または使用実績が原則として年平均1000トン以上であることが求められる。備蓄した原料は、輸出国からの供給が減ったとき、価格が著しく高騰したとき、災害などで供給が減ったときに、放出したり自社の生産に使ったりできる。

りん安の残りを誰が埋めるか

肥料を巡っては、政府が「みどりの食料システム戦略」で、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を2050年までに30%減らし、2030年までに20%減らす目標を掲げる。取組方針は、施肥量の適正化や家畜ふん尿、下水汚泥といった国内資源の利用を進める一方で、すぐには置き換えられない輸入原料を備蓄で手当てする構えをとっている。

塩化カリウムが目標に届いたのに対し、りん安は5次募集の前で3か月分に0.6か月分足りなかった。りん安は中国への依存が特に大きく、供給が細ったときに代わりの国を見つけにくい。今回の認定は約2年ぶりに対象事業者を増やすものだが、サンアグロの備蓄数量は公表されておらず、不足分がどこまで埋まったかは発表からは分からない。5次募集の認定は10月中の予定で、ほかの事業者の認定が続くか、国の目標に届いて募集が止まるかが、令和9年度の期限に向けた次の焦点となる。