政府は23日の閣議で、ベトナム共産党中央執行委員会のトー・ラム書記長兼ベトナム社会主義共和国主席(国家主席)夫妻を、11月8日から11日まで公式実務訪問賓客として接遇することを了解した。木原稔官房長官が同日午前の記者会見で発表した。滞在中、天皇皇后両陛下がラム氏夫妻と会見し、宮中午餐を催す予定。高市早苗首相もラム氏と首脳会談を行う予定だ。高市首相は5月にハノイでラム氏と会談した際に年内の訪日を招請しており、約半年で首脳同士が再び顔を合わせることになる。
官房長官「両国の友好協力関係が一段と深まることを期待」
木原官房長官は会見の冒頭発言で、訪日の日程と滞在中の行事を説明した。そのうえで日本とベトナムの関係について「包括的戦略的パートナーとして安全保障、経済、経済安全保障、人的交流といった幅広い分野における二国間関係に加え、国際場裏における連携も強化してきました」と述べ、「今般の書記長兼国家主席の訪日を通じ、両国の友好協力関係が一段と深まることを期待します」と語った。
同日の定例閣議案件の一覧には、「ベトナム共産党中央執行委員会書記長・ベトナム社会主義共和国主席トー・ラム閣下及び同令夫人の公式実務訪問賓客待遇について(了解)」と記載されている。官房長官の発表は、この閣議了解を受けたものだ。
高市首相は10月20日にはフィリピンのマルコス大統領と電話会談し、11月の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議への協力を確かめたばかりで、高市首相、マルコス大統領と20分の電話会談 11月のASEAN関連首脳会議とAZEC首脳会合で協力確認で伝えた。10月下旬にはバングラデシュのラーマン首相夫妻、26〜29日に訪日 高市首相と首脳会談へ 20年ぶりのBNP政権発足後初も控え、南・東南アジアの首脳との会談が続く。
ベトナムは共産党が唯一の合法政党で、党の最高職が書記長、国家元首が国家主席にあたる。外務省の基礎データは、元首の欄に「トー・ラム国家主席」、政権党の欄に「党首 トー・ラム党書記長」と記しており、ラム氏は党と国家の最高職を一人で兼ねている。行政を率いる首相はレー・ミン・フン氏、外相はレー・ホアイ・チュン氏が務める。
5月のハノイ会談で招請、「本年の適切な時期に訪日を調整」
今回の訪日は、高市首相が5月1〜5日にベトナムとオーストラリアを訪れた際の約束を受けたものだ。外務省によると、高市首相は5月2日、ハノイの国家主席府でラム氏と約35分間会談し、その後ラム氏主催の昼食会に出席した。
会談の冒頭、ラム氏は両国関係が「包括的戦略的パートナーシップ」の下で発展していることを評価し、経済、安全保障、文化・人的交流を含む幅広い分野で協力を深めたいと述べた。高市首相は、4月の電話会談に続いてハノイで会談できたことを歓迎し、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現・進化に向けて連携していきたいと応じた。会談の最後に高市首相がラム氏を年内に日本へ招待すると述べ、両首脳は「本年の適切な時期に訪日を調整していくことで一致」した。
同じ5月2日、高市首相はフン首相とも約50分間会談し、文書交換式と共同記者発表を行った。高市首相はフン首相の就任と「ベトナム新指導部発足」に祝意を伝え、「戦略的自主」と「国際統合」を外交方針に掲げるベトナムとの関係を「極めて重視している」と述べた。外務省の発表によれば、ベトナムは高市首相がこの訪問中に「進化したFOIP」を発表した地でもある。
経済安全保障を「新たな優先分野」に レアアースや製油所の原油調達
5月の2つの会談で、両国はエネルギー、重要鉱物、AI、半導体、宇宙を始めとする経済安全保障を、日越協力の「新たな優先分野」として進めることで一致した。フン首相との会談後には「経済安全保障分野における優先協力事項リスト」を発出している。
具体策として外務省が挙げたのは次のような内容だ。エネルギーでは、アジアの資源供給の強靱化を掲げる「パワー・アジア」の初の案件として、ベトナムのニソン製油所の原油調達を日本貿易保険(NEXI)を通じて支援する方向で一致した。重要鉱物では、ベトナムのレアアースを含むサプライチェーン(供給網)の強靱化に向けて連携する。AIでは、総務省とベトナム科学技術省の協力覚書を歓迎し、ベトナムの言語や文化を反映したAIモデルの開発で協力するとした。
一方で高市首相はラム氏との会談で、ベトナムの投資・経済協力の環境整備が重要だとして、日本企業が直面する課題の解決を求めた。11月の会談では、5月に一致した優先分野の進み具合とともに、こうした企業側の課題がどう扱われるかが焦点になる。
海上法執行の支援に6.46億円、10月22日に書簡交換
安全保障分野では、5月の会談で両首脳は、前年に初めて開いた次官級「2+2」や艦船の相互寄港など協議・交流の進展を歓迎した。そのうえで、安全保障協力と「海上法執行能力強化支援」の具体化を一層進めることで一致した。地域情勢をめぐっては、南シナ海の情勢や、拉致問題を含む北朝鮮への対応で緊密に連携することを確認している。
その具体化の一つが、訪日の発表の前日に動いた。外務省によると、10月22日にハノイで伊藤直樹駐ベトナム大使と国連薬物犯罪事務所(UNODC)の東南アジア・大洋州地域代表代行が、供与額6.46億円を限度とする無償資金協力「河川及び海洋における法執行機関の能力強化計画」の書簡に署名し、交換した。UNODCを通じて、ベトナムの海上警察、国境警備隊、水上警察などに研修所の整備や通信システムなどの機材を供与し、海上保安庁を始めとする日本の関係機関と連携した訓練・研修を行う。
外務省はこの協力の意義について、ベトナムが日本にとって重要なシーレーン(海上交通路)である南シナ海に面していることを挙げ、同国の海上保安能力の強化は「日本の海洋安全保障及び経済安全保障上の観点からも重要性が高く」、進化したFOIPの実現にも貢献すると説明している。
1973年に国交、2023年に「包括的戦略的パートナーシップ」へ
日本とベトナムは1973年9月21日に外交関係を樹立した。50周年にあたる2023年の11月27日、公式実務訪問賓客として来日したヴォー・ヴァン・トゥオン国家主席と岸田文雄首相(当時)が共同声明を出し、両国関係を「アジアと世界における平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ」に格上げした。今回のラム氏は、このトゥオン氏と同じ待遇区分で迎えられる。
外務省の基礎データの要人往来表に載る、ベトナムの書記長と国家主席の訪日は次のとおりだ。
| 年月 | 来日した指導者 | 待遇 |
|---|---|---|
| 1995年4月 | ムオイ書記長 | 公賓 |
| 2002年10月 | マイン書記長 | 公賓 |
| 2007年11月 | チエット国家主席 | 国賓 |
| 2009年4月 | マイン書記長 | 公賓 |
| 2014年3月 | サン国家主席 | 国賓 |
| 2015年9月 | チョン書記長 | 公賓 |
| 2018年5月 | クアン国家主席 | 国賓 |
| 2023年11月 | トゥオン国家主席 | 公式実務訪問賓客 |
出典: 外務省「ベトナム社会主義共和国 基礎データ」
表に載る書記長の訪日は2015年9月のチョン書記長が最後で、書記長と国家主席を兼ねる指導者の訪日は表に例が無い。
人の往来も厚い。出入国在留管理庁によると、2026年6月末の在日ベトナム人は69万3750人で、前年末から1万2650人増えた。国籍・地域別では中国の94万1031人に次ぐ2番目に多い。経済協力では、日本は1992年11月に対ベトナムの経済協力を再開し、外務省は日本を「ベトナムにとって最大の援助国」と位置付けている。
