高市首相は10月23日、首相官邸で記者会見し、中東情勢を受けて3月から続けているガソリン、軽油、重油、灯油など燃料油への補助について、今後の「支援の在り方」を各党の提案を踏まえて検討するよう、赤澤経済産業相に指示すると表明した。当面の燃料油支援に必要な「基金規模」を確保するため、財務相と調整を進めることもあわせて指示した。
首相は、補助があくまで「激変緩和措置」であることに加え、与党と、国民民主党、中道、立憲民主党などの野党から「財政負担」への懸念を理由に「段階的な見直し」や「出口戦略」を考えるべきだとの指摘を受けてきたと説明した。質疑では検討の対象に「支援単価や措置の出口も含めて」と述べる一方、「まだ何も決まったものではございません」と繰り返した。
冒頭発言で示した2つの指示
会見は「中東情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置等についての会見」として開かれ、首相の冒頭発言は短いものだった。首相はまず、燃料油補助を巡って与野党から見直しや出口を求める声が出ていた経緯に触れた。そのうえで、中東情勢が「今後の物価動向」や「経済」に与える影響を注視しながら、支援の在り方を検討するよう経産相に指示するとした。
もう一つの指示は、補助を続けるための財源の確保である。補助金は元売事業者などに支給され、その原資は基金から出ている。首相は、当面の支援に必要な基金規模を確保するため、経産相が財務相と「所要の調整を進めるように」と求めた。見直しの検討と、現行の補助を続けるための資金手当てを同時に指示した形だ。
首相は質疑で、この2つを「両にらみでやっていかなきゃいけない」と表現した。まず現在の補助に必要な基金を確保し、並行して支援単価や出口を検討する、という順序である。
「いきなり来月から変わるということではない」
記者からは、一部で報じられている与党案(11月から補助を縮小し、店頭価格が月平均で5円程度上がっていくとする案)を土台にするのか、白紙から検討するのかを問われた。首相は「予断はいたしません」としたうえで、「支援単価や措置の出口も含めて、『支援の在り方』を柔軟に検討いたします」と答えた。
なぜこの時期に指示するのかとの質問には、「いきなり来月から変わるということではなく、指示をいたします」と述べ、措置の出口をどうするのかという声を受けて検討してもらうと説明した。結論を出す時期についても「今何月何日と申し上げるわけにはいきません」とし、「できるだけ早く検討していただく」と述べるにとどめた。
検討の材料として首相が挙げたのは、足元の原油価格と基金の執行状況である。中東情勢が不透明で、原油価格や使用額を見通すのは「大変困難」だとしつつ、「ここで一度適正な水準」を検討してほしいと述べた。
補助は1リットル42.8円、ガソリンは170円前後
補助の仕組みは、3月11日の首相指示で始まった。資源エネルギー庁の資料によると、ガソリンの全国平均小売価格が170円程度を超える見込みになった場合、170円を超える部分を全額補助し、軽油・重油・灯油にもガソリンと同額を補助する。3月19日の出荷分から支給が始まった。当初は既存の燃料油価格激変緩和基金の残高を充てるとしていた。
7月には算定方法が変わった。中東以外からの代替調達が増え、元売事業者が国際市場価格を上回って支払う金額が増えたため、調達費用の実態に基づく「調整単価」を毎月算定して支給単価に反映している。
同庁によると、10月22日以降の支給単価はガソリン、軽油、灯油・重油がいずれも1リットル42.8円、航空機燃料が34.2円。このうち10月分の調整単価は3.7円となっている。同庁の石油製品価格調査では、10月19日時点の全国平均店頭価格はレギュラーガソリンが170.2円、軽油が159.7円だった。
| 油種 | 10月19日の全国平均店頭価格 | 10月22日以降の支給単価 |
|---|---|---|
| レギュラーガソリン | 170.2円/L | 42.8円/L |
| 軽油 | 159.7円/L | 42.8円/L |
| 灯油(18リットル) | 2573円(1リットル142.9円) | 42.8円/L |
| 航空機燃料 | ― | 34.2円/L |
出典: 資源エネルギー庁「石油製品価格調査」(10月21日公表)、同「中東情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置」
レギュラーガソリンの全国平均は、同庁の調査で9月7日から10月19日までの6回とも169.9〜170.2円の範囲にあり、補助によって170円前後に抑えられている。支給単価が見直されれば、その分が店頭価格に反映される仕組みである。
首相「物価上昇率を抑えるのに大きく貢献」
首相は会見で、燃料油補助の役割を高く評価した。「物価上昇率を抑えるために、この燃料油補助というのは非常に大きく貢献したと思っております」と述べ、欧州などにはガソリンが1リットル400円を超える国もあるのに対し、日本は約170円の水準だと説明した。補助は軽油・重油・灯油にも適用されるため、輸送や産業のコストを通じて暮らしに関わる物価を抑えてきたとした。
首相は2日前の10月21日に開いた就任1年の会見でも、同じ趣旨を述べていた。この会見の冒頭発言では、物価高対策として「中東情勢を受けた燃料油補助」に1兆4085億円を措置したと説明し、ガソリン・軽油の暫定税率廃止の1.7兆円、電気・ガス料金支援の1兆431億円と並べて挙げた。会見の詳細は「高市首相、就任1年の会見 物価高対策は1年で約10.9兆円 反省点に「発信の強化」」で伝えた。
23日の会見では、消費税減税の効果と相殺する考えがあるのかも問われた。首相は、所得税の負担軽減で1人3万〜6万円が今年の年末調整で戻ることや、来年4月からの消費税減税が法案審議中であることに触れつつ、燃料油の補助は「与野党関係なく各党からご指摘をいただいて」いるため検討するのだと説明した。
出口は段階を踏み、日程を先に示すべきだ
検討の対象は、首相の発言に沿えば、支給単価の水準と、措置をどのように終えるかの2点となる。現行の補助は、ガソリン価格を全国平均170円程度に抑えることを前提に単価を毎週改定している。単価を下げる場合、その幅と段階の付け方によって、店頭価格の上がり方が決まる。
本紙は、見直しの検討に入った判断を妥当と考える。補助は1リットル42.8円で、レギュラーガソリンの店頭価格170.2円の約4分の1に当たる額を国費で埋めている。首相自身が就任1年の会見で示したとおり、この補助には1兆4085億円を措置してきた。首相が冒頭で述べたとおり、これは「激変緩和措置」であり、恒久的な価格政策ではない。与党だけでなく国民民主党、中道、立憲民主党も財政負担を理由に出口を求めているのであれば、終え方を政府が設計するのは当然の段取りである。
同時に、首相が見直しより先に基金の確保を指示した点も評価できる。補助の原資が尽きれば、検討の結論を待たずに単価が下がり、店頭価格が一度に上がりかねない。首相が「いきなり来月から変わるということではない」と明言したのは、その不安を打ち消す意味がある。
残る課題は、終え方の示し方である。燃料油は運送や農漁業、暖房の費用に直結し、事業者は先々の価格を見込んで計画を立てる。灯油は冬場に需要が増え、赤澤経産相は10月16日の閣議後会見で灯油の価格と供給の対策を強めると表明している(「灯油高騰で経産相が対策強化 輸入価格との差額補助と元売の直販を新設」)。政府は単価をどの段階で、どの日程で下げるのかを前もって公表し、冬の灯油への配慮も併せて示すべきだ。財政の規律と暮らしの見通しを両立させる出口の設計が、この検討に求められている。
