国連総会は9月24日、ニューヨークの国連本部で海面上昇に関するハイレベル会合を開き、全24項からなる「国連海面上昇宣言」を採択した。宣言は、国連海洋法条約(UNCLOS。海の利用と管轄のルールを定めた条約)に沿っていったん定めた管轄海域は、海面上昇で海岸線が変わっても維持できると明記し、国土の一部が失われても国家は存続するとの推定を確認した。
会合は総会の一般討論と同じ日に、国連本部の第4会議室で開かれた。会合を開くこと自体は、2024年8月1日の総会決定78/558が「簡潔で行動志向の、政府間交渉による宣言」をまとめるよう求めたことに基づく。
文案づくりは、オーストラリアとカーボベルデの国連大使2人が共同進行役となって政府間交渉にあたった。両大使は8月20日付の書簡で、サイレンス手続き(期限までにどの国からも異議が出なければ合意とみなす国連の方式)が破られなかったことを伝え、最終案を各国代表部に送っている。
上昇の速さは30年で2倍以上に
第81回国連総会議長のハリルール・ラーマン氏は会合の冒頭で、世界平均の海面水位の上昇率が1993〜2002年の1年あたり2.1ミリから、2015〜2024年には1年あたり4.7ミリになったと述べた。衛星観測が始まった最初の10年と比べて、上昇の速さが2倍を超えたことになる。
ラーマン氏によると、低平な沿岸域には約9億人が暮らしており、2050年までに10億人を超える人が沿岸の災害にさらされる恐れがある。自国バングラデシュについては、海面が1メートル上がれば国土のおよそ3%にあたる約4000平方キロが水につかりうるとし、2050年までに海面上昇を含む気候の影響で1300万人以上が国内での移動を強いられる可能性を挙げた。小島嶼開発途上国(SIDS。太平洋やカリブ海などの島国のグループ)は1970年から2020年の間に気候災害で1530億ドルを失っており、これは平均的な年間の国内総生産(GDP)の10倍を超える規模だ。
資金の不足も数字で示された。途上国が適応に必要とする額は2035年までに年3100億〜3650億ドルと見積もられる一方、2023年に途上国へ流れた国際的な公的適応資金は260億ドルにとどまる。ラーマン氏は「必要額は現在の資金の流れの12倍から14倍にのぼる」と述べた。
宣言は、海面上昇の主な原因を海洋の温暖化と氷床・氷河の融解だとし、この現象が加速していることに懸念を示した。海に蓄えられる熱と氷の減り方は、世界気象機関(WMO)の観測でも裏づけられている(8月の世界平均気温、観測史上最高に並ぶ WMO発表 エルニーニョは1997年を上回る強さ 気象庁「冬まで続く確率100%」、世界の河川、2025年は35年で最も乾いた年に 氷河は1年で408ギガトン減 WMOが水資源報告)。
「知識」「適応」「暮らし」「法」の4本柱
宣言は本文を4本の柱に分けている。
第1の柱は知識・データ・科学で、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などの科学的知見に基づいて対応すること、海底地形や潮位のデータ、衛星観測を含む観測網を各国が共有することを求めた。第2の柱は適応・資金・強靱性で、港湾・エネルギー・交通・水道・医療施設・通信といった沿岸の重要インフラを設計・維持する段階から海面上昇の予測を織り込むよう促し、マングローブやサンゴ礁、干潟、藻場の保全・再生を適応の柱に据えた。
第3の柱は暮らし・社会経済・文化遺産で、耕地や地下水の塩分化、海岸侵食、水系感染症のリスク増大といった被害を社会保障や開発計画に組み込むよう求めた。墓地や聖地、水中文化遺産が失われる問題にも触れ、デジタル化を含む記録・保存を優先課題に挙げている。第4の柱が法的な側面で、今回の宣言で最も具体的な文言が置かれたのはこの部分だ。
国土が消えても国家は消えない
第20項は、海面上昇による物理的な変化に対して管轄海域が安定していることの必要性を強調し、「国連海洋法条約に従っていったん設定された管轄海域を、各国は海面上昇による物理的変化に直面しても維持できる」と確認した。各国が自ら更新する余地は残したうえで、基線(領海などの範囲を測る起点となる線)の確定作業を技術的に支援することも呼びかけている。
海洋法の原則では、領海や排他的経済水域(EEZ。沿岸国が水産・鉱物資源の開発などの権利をもつ海域)は海岸の基線から測って決まる。海面が上がって海岸線が後退したり、基点となる島や低潮高地が水没したりすれば、理屈のうえでは海域が縮む余地が生じる。宣言はそこに「いったん決めた線は動かさなくてよい」という考え方を国際的な合意文書として置いた。
第21項はさらに踏み込み、国家がいったん成立した以上、その構成要素の一つが失われても必ずしも国家の資格を失うわけではないと記した。そのうえで国家の存続を推定する立場を確認し、主権と主権的権利、国連の加盟国としての地位が続くとした。第19項では、国際司法裁判所(ICJ)が出した気候変動に関する国家の義務についての勧告的意見と、国連国際法委員会の研究部会が海面上昇と国際法についてまとめた最終報告書に言及している。
この論点は島国である日本にも直結する。海上保安庁によると、日本の領海(内水を含む)は約43万平方キロ、排他的経済水域を合わせた面積は約447万平方キロにのぼり、その広がりは遠く離れた離島を基点として成り立っている。
日本沿岸は2004年から年3.5ミリ上昇
日本沿岸の海面水位も上がっている。気象庁が2026年2月16日に発表した診断によると、地盤の上下変動を全地球測位システム(GPS)で補正した13地点の平均海面水位は、2004年から2025年の間に1年あたり3.5ミリ上昇した。信頼できる幅は1年あたり2.8ミリから4.2ミリで、2004年と比べた水位は65ミリ高い。16地点と4海域を平均した値では1年あたり3.7ミリの上昇となる。
2025年の日本沿岸の海面水位は、1991〜2020年の平均と比べて67ミリ高く、統計を始めた1906年以降で4番目に高い値だった。ただし気象庁は、1906年から2025年の全期間では世界平均のような一本調子の上昇は確認できないとしている。10年から20年の周期で水位が上下する変動が大きく、1930年頃、1950年頃、1970年頃にも水位が高い時期があった。上昇傾向がはっきり現れるのは1980年代後半以降で、気象庁はこれを「世界平均海面水位の上昇が加速し、日本沿岸でもその影響が顕在化したもの」と説明している。
2006〜2018年に限れば、日本沿岸の上昇率は1年あたり2.9〜3.4ミリで、IPCCが同じ期間について示した世界平均の1年あたり3.7ミリと同程度になる。日本だけが例外という状況ではなくなっている。
宣言は最後の第24項で、次のハイレベル会合を第84回国連総会の会期が終わるまでに開くと決め、その規模と進め方は遅くとも第83回総会で定めるとした。国連総会の会期は毎年9月に始まり、第81回が2026年9月に開幕している。したがって次の会合の中身が決まるのは2028年9月に始まる第83回総会までで、開催は2029年9月に始まる第84回総会の会期中までとなる。
