日本政府は10月30日、カザフスタンの首都アスタナで、同国のレアメタル(希少金属)とレアアース(希土類)の開発に伴う環境問題への対策を支援する無償資金協力について、国連開発計画(UNDP)との間で書簡の署名・交換を行った。供与額は4.86億円で、案件名は「環境対策を通じた持続可能なレアメタル・レアアース鉱物バリューチェーンの構築計画(UNDP連携)」。外務省によると、署名したのは飯島泰雅・駐カザフスタン大使と、カタジナ・ヴァヴィエルニヤUNDPカザフスタン事務所代表である。
採掘と一次処理で出る残滓や放射性物質に対応
外務省の発表は、カザフスタンについて、豊富な未開発のレアメタルとレアアースの資源を持つとされる一方、その採掘と一次処理に伴って、有害な残滓(ざんし)や危険化学物質、放射性物質が発生するなどの環境問題に引き続き対応していく必要があると説明している。
協力の中身は大きく2つある。1つは、国際基準に沿った鉱物資源の採掘・加工に関する法的枠組みと政策立案への技術支援。もう1つは、鉱床での環境モニタリングと、デジタルのデータ管理システムを試験的に導入するパイロット事業である。外務省は、これらを通じて鉱山資源の開発による環境負荷を未然に防ぎ、持続可能な経済発展に貢献するものだとしている。
今回の協力は、カザフスタン政府ではなくUNDPの現地事務所と書簡を交わす形を取った。日本が資金を出し、国連機関が事業を実施する「UNDP連携」の無償資金協力で、日本政府は昨年12月にも、中央アジア5か国を対象とした無償資金協力「中央アジアにおける広域災害リスク軽減のための体制強化計画(UNDP連携)」の書簡を交わしている。
発表の説明に沿えば、今回の協力は鉱物の採掘量を増やすための設備を供与するものではない。開発に先立って、採掘・加工のルールと鉱床の監視の仕組みを国際基準に沿って整える支援である。
首脳会合で掲げた「グリーン・強靱化」を具体化
外務省は今回の協力を、昨年12月の「中央アジア+日本」対話・首脳会合で採択された首脳共同宣言(東京宣言)が重点協力分野に掲げた「グリーン・強靱化」を具体化するものと位置づけた。
この首脳会合は2025年12月20日、高市早苗首相の議長の下、カザフスタンのトカエフ大統領をはじめ中央アジア5か国の大統領が出席して東京で開かれた。2004年に日本が立ち上げた「中央アジア+日本」対話の枠組みで首脳会合を開くのは初めてだった。高市首相はこの場で「CA+JAD(カジャッド)東京イニシアティブ」の立ち上げを宣言し、重点協力分野を「グリーン・強靱化」「コネクティビティ」「人づくり」の3つとした。「グリーン・強靱化」の取り組みの1つに挙げたのが「重要鉱物サプライチェーン強靱化」である。
東京宣言の和文仮訳は、首脳が「クリーンエネルギーへの移行に不可欠な重要鉱物のサプライチェーンの強化」と、鉱物探査などを通じた中央アジアの経済的強靱性の強化の双方に寄与する協力を進めることで一致したと記している。首脳会合の機会には、官民合わせて150件以上の文書が署名・披露され、今後5年間で総額3兆円のビジネス・プロジェクトを組成する目標も示された。
高市首相は会合のメイン・セッションで、中央アジアの重要性の1つとして、エネルギーや鉱物資源を持つ地域としての経済安全保障上の重要性を挙げていた。今回の発表でも外務省は、協力を通じて鉱物資源分野での両国関係の強化に貢献し、「重要鉱物の供給源の多角化」による日本を含む関係国の経済安全保障の強化にも資することが期待されると説明している。重要鉱物の供給源の多角化は、10月28日の日独首脳会談でも両首脳が具体的な協力を進めることで一致した項目である(高市首相とメルツ独首相が会談 経済安保の共同宣言、重要鉱物やAIで協力)。
日カザフ首脳の共同声明、レアメタルの共同研究も
首脳会合に先立つ2025年12月18日には、高市首相とトカエフ大統領が東京で会談した。トカエフ氏にとって大統領として初の来日で、両首脳は「将来に向けた拡大された戦略的パートナーシップの更なる相乗効果に関する共同声明」に署名した。
共同声明の仮訳は、双方が重要鉱物の供給源の多角化の重要性を認識し、重要鉱物の供給拡大の可能性と、グローバルなサプライチェーンの安全保障を確保するうえでのカザフスタンの役割を議論したと記す。さらに、国際共同研究の「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」の枠組みでレアメタル分野の共同研究を進めることや、AIとデジタル技術を使って効率的な鉱山の管理と環境対策を可能にする「スマートマイニング+」技術の活用を検討することも盛り込んだ。今回の無償資金協力にあるデジタルのデータ管理システムの試験導入は、この方向と重なる。
このとき取りまとめられた官民の協力文書・案件のリストには、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)とカザフスタンの国営企業タウケン・サムルックの協力合意が含まれている。関西電力と同国の国営原子力企業カザトムプロムの長期ウラン精鉱売買契約、日立建機や三井物産による現地の鉱山会社との協業も並んだ。会談で高市首相は、エネルギートランジションや重要鉱物などの資源、輸送・物流分野でも協力を進めたいと述べていた。
ウラン生産世界1位、日本の援助の累計は1100億円超
外務省の基礎データによると、カザフスタンは面積約272万平方キロメートルで日本の7倍、世界9位の国土を持ち、人口は2080万人(2025年)。石油と天然ガスに加え、レアメタルを含む非鉄金属も多種豊富で、2022年のウランの生産量は世界1位、クロムの埋蔵量は世界1位、亜鉛は世界9位とされる。
日本との貿易(2025年、財務省貿易統計)は、日本からの輸出が1337.99億円、輸入が1111.37億円。日本は自動車やゴムタイヤ、建設用・鉱山用機械を輸出し、合金鉄やアルミニウム、石炭を輸入している。日本からの直接投資残高は2024年に56.9億ドルで、カスピ海のカシャガン油田の開発には日本のINPEXも参加している。
日本の対カザフスタン援助の実績は、2023年度までの累計で次のとおり。
| 区分 | 累計額(2023年度まで) |
|---|---|
| 有償資金協力(円借款) | 約951.49億円 |
| 無償資金協力 | 約69.25億円 |
| 技術協力 | 約141.07億円 |
援助の中心はこれまで円借款で、無償資金協力の累計は約69.25億円にとどまる。今回の4.86億円は、この累計額の7%程度に当たる。カザフスタンの1人当たり国民総所得(GNI)は1万2150ドル(2024年、世界銀行)。無償資金協力のほか、文化分野では一般文化無償資金協力9件・計4.07億円、草の根文化無償資金協力3件・計0.1億円(いずれも2025年度まで)の実績がある。
昨年12月の共同声明で、両国は2023年11月に東京で開いた日本・カザフスタン経済協力官民合同委員会の次回会合を2026年に開く意向を示した。カザフスタンのエア・アスタナが2026年に両国間の定期直行便を運航する計画であることも歓迎し、二国間の航空協定の政府間交渉を始めることで一致している。重要鉱物の協力が官民の案件としてどこまで進むかは、この官民合同委員会の場で示されることになる。
