総務省は10月30日、6月に成立した「郵便法及び民間事業者による信書の送達に関する法律の一部を改正する法律」(令和8年法律第42号)を12月1日に施行すると発表し、関係する省令と審査基準を同日付で公布・公表した。25グラム以下の定形郵便物(封書)の料金の上限は、これまで総務省令で110円と定めてきたが、施行後は日本郵便が自ら上限額を定めて申請し、総務相が認可する仕組みに変わる。認可の可否を判断する物差しとして、郵便事業の収入と原価をどう計算するかを細かく定めた「郵便料金算定要領」も示した。
国が決める上限から、日本郵便が申請する上限へ
改正前の郵便法第67条は、定形郵便物の料金について「軽量の信書の送達の役務が国民生活において果たしている役割の重要性、国民の負担能力、物価その他の事情を勘案して総務省令で定める額を超えないもの」と定めていた。上限の額そのものを国が省令に書き込み、日本郵便はその範囲で料金を決めて届け出る方式である。現在の上限は110円で、郵便法施行規則で定めている。
改正後の第67条は、この部分を「会社は、定形郵便物の料金の上限の額を定め、総務大臣の認可を受けなければならない」と改めた。総務相は、申請された上限額が「郵便事業の能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ、適正な利潤を含む定形郵便物の料金の水準を超えない」と認めるときでなければ認可してはならない。日本郵便は、認可を受けた上限の範囲内で実際の料金を定め、あらかじめ総務相に届け出る。
総務省は改正の狙いを、日本郵便が「自らの説明責任を果たしつつ経営環境の変化に応じて機動的に郵便に関する料金を変更することができるようにするため」と説明している。国民の負担能力や物価を勘案して国が額を決める方式から、原価と利潤の計算を日本郵便が示し、国がそれを審査する方式に移ることになる。認可に当たって、総務相は政令で定める審議会に諮問しなければならない(改正後の第73条)。
今回公布された郵便法施行規則等の改正省令(令和8年総務省令第124号)は、110円の上限額の規定を削除し、代わりに上限額の認可を申請する際の記載事項と添付書類を定めた。改正法は、施行日の前日に省令で定められていた額を、施行日に日本郵便が認可を受けた上限額とみなす経過措置を置いている。12月1日に封書の料金が自動的に変わることはなく、上限を動かすには日本郵便の申請と総務相の認可が要る。
郵便の料金や配達の水準を巡っては、総務省が郵便の配達頻度と送達日数の見直し、総務省が11月20日まで意見募集 速さ・信頼性・価格・頻度の優先順位を問うで伝えたとおり、情報通信審議会郵政政策部会の郵便事業政策委員会が、郵便事業の安定的・持続的な運営の方策を検討しており、10月20日から11月20日まで意見を募っている。料金の決め方とサービスの水準の両方が、同時に見直しの対象になっている。
3年間の収入が原価と利潤を超えないかを見る
審査基準(令和8年総務省訓令第49号)は、認可の条件を2つ挙げた。上限額が適正な原価と適正な利潤を含む水準を超えないことと、上限額が別紙の「郵便料金算定要領」の方法で計算されていることである。算定の方法は、有識者による「郵便料金に係る算定基準等に関する検討会」(令和7年9月〜令和8年7月)の議論を踏まえて定めた。
計算の骨格は「総括原価方式」である。郵便の個々のサービスや種類ごとに収支を見るのではなく、郵便の役務全体で収入と原価を比べる。原価計算期間は3年間で、3年間の合計で収入が総括原価を超えないかを審査する。日本郵便が手がける物流事業などとは区分し、郵便事業の分だけを計上する。区分の方法は、郵便法に基づいて毎年報告している郵便事業の収支の考え方を基礎にする。算定要領は、定形郵便物の上限額は「できるだけ低く抑えることとする」と明記した。
収入の見積もりは、郵便物の引受数の予測から始まる。前年度の予測引受数から、その年だけ発生した特別な需要(スポット)を除き、一定期間の平均増減率(トレンド)を掛けて、その年度のスポットと利用拡大策による増加分を足す。値上げをすれば郵便物が減ることも織り込む。改定後1年間は、過去の料金改定で値上げ率に対して引受数がどれだけ減ったかを示す「価格弾性値」の実績を使って収入を見積もる。
原価の各費目は、過去の実績を基礎に、公的な統計の変動率の5年平均を使って先の年度の額を見込む。費目ごとに使う統計は次のとおりである。
| 費目 | 変動率に使う主な指標 |
|---|---|
| 人件費 | 賃金構造基本統計調査(産業別)または会社の人件費の実績 |
| 燃料費 | 消費者物価指数(ガソリン) |
| 車両修繕費 | 消費者物価指数(自動車整備費)または企業向けサービス価格指数(自動車整備) |
| 施設使用料 | 消費者物価指数(光熱・水道) |
| 集配運送委託費 | 賃金構造基本統計調査、消費者物価指数(生鮮食品及びエネルギーを除く)、企業向けサービス価格指数(道路貨物輸送)または会社の実績 |
| 宣伝広告費 | 企業向けサービス価格指数(広告) |
出典: 総務省「郵便法第67条第3項の規定による認可に係る審査基準」別紙
減価償却費は実績年度末の固定資産に投資計画を加味して計算し、租税公課は地方税法などに基づいて積み上げる。固定資産の売却損益など一時的な損益は原則として除く。大規模災害で郵便施設を失った場合の損失などは、過去10年間の年平均額を原価に入れることができる。
効率化で削れる額を差し引く 最も効率的な支社と比べる
原価をそのまま積み上げれば、料金の上限は経費が膨らむほど上がる。審査基準はこれを抑えるため、3つの「削減可能額」を必要に応じて原価から差し引くと定めた。
1つ目は、郵便物の減少に合わせた人件費の削減である。郵便物の処理数に作業の負荷を掛けた「業務量」の増減率と、業務量が減ったときに労働時間がどれだけ減るかの寄与度から、人件費をどれだけ減らせるかを計算する。2つ目は、区分作業の効率化や再配達の削減など、日本郵便が原価計算期間中に取り組む施策による削減額である。
3つ目は、客観的な分析手法による削減額である。日本郵便の各支社を独立した事業体とみなし、最も効率的な支社を基準にして、ほかの支社がどれだけ非効率かを測る。手法として包絡分析法(DEA)を挙げている。総務省の概要資料は、この3つを考慮する目的を「料金の上げ幅を抑制する」ためと説明している。
意見募集では、郵便事業の赤字を利用者の負担で埋めるべきではないとする意見も寄せられた。総務省はこれに対し、他の事業とは区分して郵便事業の分だけを計上するため、事業全体の採算や他事業の赤字の補塡を目的とした上限額の設定はできないと答え、効率化による削減額の考慮で「料金の上げ幅を抑制する仕組みとしております」と説明した。
利潤の計算 自己資本と借入の報酬率を30対70で
算定要領は、配当や支払利息といった資金調達のコストを「事業報酬」として原価に加えることを認めた。事業報酬は、郵便事業の資産の価値(レートベース)に報酬率を掛けて求める。
レートベースは、郵便事業に関わる固定資産の期首・期末平均に、郵便事業の営業費用、貯蔵品、商品のそれぞれ12.5%相当額を加えた額とする。報酬率は、自己資本報酬率と他人資本報酬率を30対70の比率で加重平均する。
自己資本報酬率は、国債・地方債・政府保証債(いずれも10年もの)の利回りの過去5年平均に、全産業の自己資本利益率との差を上乗せして求める。上乗せの幅は、TOPIXと日本郵政株式会社の株価の動きの関係から算出した「β(ベータ)」で調整する。計算には申請日の前月末から遡る5年間の日次株価を使う。他人資本報酬率は、日本郵便の有利子負債の利子率の過去5年平均とする。
審査基準は、どの統計を使い、どの期間の平均を取るかまでを事前に公表した。日本郵便が申請する上限額は、この算定要領に沿った計算かどうかで審査される。
意見は12件、労組は賛成 信書便も同じ仕組みに
8月20日から9月18日までの意見募集には12件の意見が寄せられた。内訳は法人等1件、個人1件、匿名10件である。総務省は、提出された意見を受けて案を修正しなかった。
日本郵政グループ労働組合は、審査基準案に賛成したうえで、原価計算期間が3年間とされていることについて、郵便の利用状況を見極め、必要に応じて郵便物の種類や料金の規定の見直しを検討するよう求めた。労組は、第一種郵便物より安い料金と定められている第三種郵便物と第四種郵便物は赤字が続いていると指摘した。総務省は「必要に応じて、見直しの検討を行ってまいります」と答えた。
個人の意見には、上限の撤廃は値上げを速くし生活費を増やすとして反対し、施行前に原価の内訳を公開するよう求めるものがあった。匿名の意見には、郵便は全国どこでも誰もが利用できる生活基盤だとして、採算性の論理で利用者に負担を移さないよう求めるものもあった。制度の妥当性を検証する成果目標を示すよう求めた意見に対し、総務省は、定形郵便物の料金上限の見直しは日本郵便だけに適用される規定であり、規制の事前評価の対象には当たらないと答えた。
改正法は、民間事業者による信書の送達に関する法律も同じ考え方で改めた。一般信書便事業者の定形信書便物の料金も、上限額を総務相が認可する方式になり、その審査基準を定めた訓令(総務省訓令第50号)と、認可の標準処理期間を2〜5か月とする訓令(同第51号)も12月1日に施行される。ただし総務省は意見への回答の中で、「現在、一般信書便事業者として参入している事業者は存在しておらず」と記した。民間の参入の実情は信書便の民間参入が647者で過去最多 ただし「郵便の代わり」は20年余ゼロ 伸びたのは大型のみで3時間便は8.0%減で伝えている。
12月1日以降、封書の料金上限を引き上げるかどうかは、日本郵便が算定要領に沿って3年間の収入と原価の見通しを示し、総務相が審議会への諮問を経て判断する。日本郵便が申請の時期や額を公表した事実は、総務省の資料からは確認できていない。
