外務省は10月30日、韓国の最高裁判所にあたる大法院が同日、三菱重工業に対する訴訟で、損害賠償の支払い等を命じる判決を確定させたと発表した。日本政府が「旧朝鮮半島出身労働者問題」と呼ぶ一連の訴訟の一つ。これを受けて同日、有吉孝史外務省アジア大洋州局審議官(局長代理)が、駐日韓国大使館の李相烈(イ・サンヨル)次席公使に、「これまでの我が国の一貫した立場に基づいて」申し入れを行った。
発表は判決確定と申し入れの2点
外務省の発表は2段落で、判決が確定した事実と、日本政府が韓国側に申し入れた事実だけを記している。原告の人数、命じられた賠償の額、訴訟の件数は書かれていない。申し入れの中身も「これまでの我が国の一貫した立場に基づいて」とするだけで、具体的な文言は示していない。
日本側で対応したのは、アジア大洋州局長の代理を務める審議官だった。2025年12月から26年1月までの4回の伝達では、いずれも金井正彰アジア大洋州局長が在京韓国大使館の金壯炫(キム・ジャンヒョン)次席公使に申し入れていた。
外務省が「一貫した立場」と呼ぶものは、同省が過去に公表した談話や発表に書かれている。核心は、1965年の日韓請求権協定で請求権の問題は解決済みだという主張だ。
日本の立場は「請求権協定で解決済み」
日韓請求権協定は、1965年の国交正常化の際に日韓基本条約とともに結ばれた。外務省の2018年10月30日の外務大臣談話によると、協定は日本から韓国に無償3億ドル、有償2億ドルの資金協力を約束する(第1条)とともに、両国とその国民(法人を含む)の財産、権利、利益と請求権に関する問題が「完全かつ最終的に解決」されており、いかなる主張もできない(第2条)と定めている。
この談話は、同日に大法院が新日鐵住金に損害賠償の支払い等を命じた判決について、「日韓請求権協定第2条に明らかに反し」、日韓の友好協力関係の法的基盤を「根本から覆すもの」で「断じて受け入れることはできません」とした。同年11月29日には大法院が三菱重工業に対する2件の判決を確定させ、外務大臣は再び同じ趣旨の談話を出している。
日本政府は2019年1月9日、協定第3条1に基づく協議を韓国側に要請した。韓国政府は応じず、日本は同年5月20日に協定に基づく仲裁付託を通告した。しかし韓国政府は協定に定めた期間内に仲裁委員を任命する義務を果たさず、外務省は7月19日の外務大臣談話で、仲裁委員会を設置できなかったことを「極めて遺憾」とし、韓国による「更なる協定違反」だと位置づけた。
2023年に韓国政府が「財団が支給」の解決策
局面が動いたのは2023年3月6日だ。韓国政府がこの問題に関する立場を発表し、林外務大臣(当時)は同日のコメントで、その措置を「2018年の大法院判決により非常に厳しい状態にあった日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価する」と述べた。あわせて、1998年の「日韓共同宣言」を含む歴史認識に関する歴代内閣の立場を「全体として引き継いでいる」ことを確認した。
その後も大法院の判決確定は続いた。外務省の2023年12月28日の発表によると、韓国政府は3月6日の措置の中で、当時係属中だった他の訴訟が原告勝訴で確定した場合、判決金と遅延利息は「韓国の財団が支給する予定」だと表明していた。日本政府は判決には抗議しつつ、韓国側がこの表明を踏まえて対応するよう求めてきた。
一方、2024年2月21日には、日立造船が韓国の裁判所に納めていた供託金が差し押さえられ、原告側に引き渡されたことが確認された。岡野正敬外務事務次官は尹徳敏(ユン・ドクミン)駐日韓国大使を召致し、「極めて遺憾である」と厳重に抗議した。日本企業の資金が実際に原告側へ渡った例として、外務省が公表している。
2023年12月以降、確定判決は9回目
外務省が「旧朝鮮半島出身労働者問題」のページに載せている発表を数えると、2023年12月以降に大法院が判決を確定させ、日本政府が韓国側に申し入れた日は今回で9回目になる。被告となった企業は三菱重工業、日本製鉄、日立造船、不二越、西松建設、熊谷組の6社にわたる。
| 判決確定日 | 被告企業(外務省発表の表記) | 対応した日本側 |
|---|---|---|
| 2023年12月21日 | 三菱重工、日本製鉄(2件) | 韓国側に抗議 |
| 2023年12月28日 | 三菱重工、日立造船(3件) | 鯰博行アジア大洋州局長 |
| 2024年1月11日 | 日本製鉄(1件) | 鯰博行アジア大洋州局長 |
| 2024年1月25日 | 不二越(3件) | 鯰博行アジア大洋州局長 |
| 2025年12月11日 | 日本製鉄 | 金井正彰アジア大洋州局長 |
| 2025年12月24日 | 西松建設 | 金井正彰アジア大洋州局長 |
| 2026年1月15日 | 三菱重工 | 金井正彰アジア大洋州局長 |
| 2026年1月29日 | 熊谷組 | 金井正彰アジア大洋州局長 |
| 2026年10月30日 | 三菱重工 | 有吉孝史審議官(局長代理) |
出典: 外務省「旧朝鮮半島出身労働者問題」の関連発表。2023年12月21日分は同28日と24年1月11日の発表の注記による。件数は発表に記載のある回のみ
発表の書き方も変わっている。2023年12月から24年1月までの発表は、判決が「日韓請求権協定第2条に明らかに反する」「断じて受け入れられない」と抗議した文言と、韓国の財団による支給への言及を載せていた。2025年12月以降の5回は、「一貫した立場に基づいて申入れを行いました」とするだけで、文言も財団への言及も載せていない。
今回の判決で命じられた賠償を、2023年の措置に沿って韓国の財団が支払うのかどうかは、外務省の発表に記載がない。三菱重工業に対する判決の確定は、2018年11月、2023年12月、2026年1月に続くことになる。
2018年10月30日の最初の確定判決から、今回でちょうど8年になる。日韓の間では、戦時中の朝鮮半島出身者をめぐる別の問題として、山口県宇部市の長生炭鉱で見つかった遺骨の身元確認も続いている(長生炭鉱の遺骨、日韓のDNA鑑定で身元特定に至らず 5点は男性2人)。判決が出るたびに日本政府が申し入れる対応は、今回も変わらなかった。
