国土交通省は10月23日、7月28日の令和8年熊本地震で煙突が倒壊する被害が出たことを受けて実施した全国調査の結果を公表した。高さ60メートルを超える鉄筋コンクリート造の煙突は全国に444本あり、そのうち180本(約4割)で損傷・劣化が確認された。国交省は損傷・劣化に対する応急的な補修方法を示し、各事業を所管する省庁が、180本を持つ事業所に応急補修を要請する。経済産業省は同日、関連業界を通じて事業者に補修を要請したと発表した。各省庁は今後、取り組みの状況をフォローアップする。

444本のうち180本、60本は「対策予定なし」

調査は、国交省が関係省庁を通じて、高さ60メートルを超える鉄筋コンクリート造の煙突を持つ事業所などに依頼した。対象となった事業は、廃棄物処理、製鉄、製紙、化学、セメント製造、電気、ガラス製造、製油、非鉄金属製錬、食品、医薬品等、下水道、製塩などにわたる。

国交省が別紙1として公表した集計によると、444本の内訳は、損傷・劣化が「あり」が180本、「なし」が256本、事業者が点検の実施に向けて調整中のものが8本だった。損傷・劣化があった180本のうち、対策の予定が「あり」としたのは120本で、残る60本、つまり3本に1本は「対策予定なし」と回答していた。このほか、補強の状況について「あり」は183本、「なし」は261本だった。

180本という数字は、地震で揺れた地域に限ったものではない。調査は全国の煙突を対象にしており、熊本県から遠い北海道や東北、関東の煙突も含まれる。国交省は損傷・劣化の原因や内容別の件数を公表しておらず、どの煙突にどの程度のひび割れや腐食があるのかは、この資料からは分からない。

製紙・セメントで損傷の割合が高く

業種別では、本数が最も多いのは廃棄物処理の128本で、製鉄87本、製紙61本、化学56本、セメント製造44本、電気30本と続く。

業種別の煙突数と損傷・劣化ありの本数(本)

総数損傷・劣化あり

廃棄物12824製鉄8731製紙6136化学5625セメント4429電気3013
高さ60メートル超の鉄筋コンクリート造の煙突。本数の多い上位6業種出典: 国土交通省「令和8年熊本地震による被害を踏まえた煙突に関する調査結果」別紙1
数値で見る(単位: 本)
項目総数損傷・劣化あり
廃棄物12824
製鉄8731
製紙6136
化学5625
セメント4429
電気3013

損傷・劣化が見つかった割合は業種で大きく異なる。製紙は61本のうち36本で6割近く、セメント製造は44本のうち29本で3分の2に上った。ガラス製造も10本のうち7本だった。一方、本数が最も多い廃棄物処理は128本のうち24本で、2割に届かない。製鉄は87本のうち31本、化学は56本のうち25本、電気は30本のうち13本だった。

業種 総数 損傷・劣化あり うち対策予定あり うち対策予定なし
廃棄物処理 128 24 11 13
製鉄 87 31 21 10
製紙 61 36 30 6
化学 56 25 17 8
セメント製造 44 29 17 12
電気 30 13 6 7
ガラス製造 10 7 5 2
全業種 444 180 120 60
業種別の煙突数と損傷・劣化の状況(本。製油・非鉄金属製錬など7業種は省略)

出典: 国土交通省「令和8年熊本地震による被害を踏まえた煙突に関する調査結果」別紙1

「対策予定なし」の60本は、廃棄物処理が13本、セメント製造が12本、製鉄が10本と多い。製紙は損傷が36本と最多だが、このうち30本は対策を予定しているとしており、ほかに点検の調整中が5本ある。

都道府県別では、山口県の38本、北海道の36本、兵庫県の35本、東京都の27本、茨城県の26本が多い。損傷・劣化が確認された本数は北海道が21本、兵庫県が20本、山口県が16本だった。岐阜県は8本すべて、三重県は3本すべてで損傷・劣化があった。地震で被害を受けた熊本県は対象が1本で、損傷・劣化は「なし」だった。

八代工場の倒壊が発端

調査のきっかけは、熊本地震で起きた煙突の倒壊だ。経産省の発表によると、日本製紙八代工場(熊本県八代市)の自家用火力発電設備の煙突が倒壊し、「人的被害を伴う重大な事故」になった。同省は「再びこのような事故が起きないよう」、建築基準法を所管する国交省と連携して対応を進めてきたとしている。

地震は7月28日午後4時27分に熊本県熊本地方で発生した。気象庁によるとマグニチュードは7.1で、宇城市と氷川町で最大震度7を観測した。消防庁の被害報(第66報)では、熊本県の死者は38人で、このうち八代市が20人を占める。地震で壊れた建物の内部をどう調べるかという課題は、建物内部の情報収集技術、消防と企業が福島で検証へ 熊本地震で屋内ドローン活用でも取り上げた。

煙突は建築基準法の上では「工作物」に当たる。建築基準法施行令は、高さが6メートルを超える煙突を規制の対象とし、高さ16メートルを超えるものは鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造または鋼造とすること、鉄筋コンクリート造では鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さを5センチメートル以上とすることを定めている。さらに高さ60メートルを超える煙突は、国が定める基準に従った構造計算で安全性を確かめ、国土交通大臣の認定を受けた構造方法を用いなければならない。今回の調査が「60メートル超」で線を引いたのは、この区分と重なる。

示された5つの応急補修

国交省が別紙2で示した応急的な補修方法は、損傷の種類に応じた5項目からなる。

1つ目はひび割れの補修だ。ひび割れの幅がおよそ0.3ミリ以下で数が少ない場合は、ひび割れに沿ってV字型またはU字型の溝を掘り、低粘度のエポキシ系樹脂などをパテ状にして詰める。ひび割れが多い場合は、樹脂を詰めたうえで、腐食を防ぐ処理をした補強バンドを縦横に巻いて締め付ける。

2つ目は、鉄筋を覆うコンクリートの厚さ(かぶり厚さ)を増す場合や、鉄筋のさびやコンクリートの中性化の進行を抑える場合で、耐酸性・耐熱性の大きいセメントモルタルを塗る。損傷の程度によっては下地に金網を張ったり鉄筋を増したりし、耐酸性・耐熱性の大きい仕上げ材も施す。

3つ目は煙突の内側を覆う保護材の補修で、表面に付いた硫酸分を、水を使わずにブラシやほうきで清掃してからモルタルを塗る。腐食が著しければ保護材を取り除いて新しいものに替える。4つ目は内側の躯体(くたい)コンクリートが傷んでいる場合で、モルタルで補修したうえで保護材を施す。5つ目は、頂部で躯体と保護材のいずれも腐食が著しい場合で、その部分を切り取り、元の高さまでステンレス鋼の煙突を据え付ける。

5項目のうち3項目は煙突の内側の保護材や躯体に関するもので、耐酸性・耐熱性の材料を使うよう繰り返し指定している。外から見えるひび割れだけでなく、内側の傷みも補修の対象になる。

所管省庁が要請、自治体も指導へ

補修を求めるのは、それぞれの事業を所管する省庁だ。経産省は大臣官房産業保安・安全グループ電力安全課、製造産業局の鉱物課・金属課・素材産業課、資源エネルギー庁の燃料供給基盤整備課の連名で、煙突の所有者・管理者に宛てた要請文を出した。要請文は、損傷・劣化が確認されている場合には国交省の補修方法を参考に応急的な補修を講じるよう求め、取り組みの実施状況は経産省が今後フォローアップするとしている。要請は経産省が所管する関連業界を通じて事業者に届けられた。

国交省は、建築基準法を運用する全国の特定行政庁に、調査結果と補修方法を周知する。特定行政庁は、建築主事などを置く市町村ではその市町村長、それ以外の区域では都道府県知事を指す。国交省によると、特定行政庁も事業者の取り組みの実施状況を把握し、補修方法などの相談に応じて必要な指導を行う。

今回の要請はあくまで「応急的な」補修を求めるもので、補修の期限や、建て替えなどの恒久的な対策の方針は示されていない。対策の予定が無いと答えた60本がどう扱われるのか、フォローアップの結果がいつ公表されるのかも、現時点では明らかになっていない。