金融庁は30日、金融審議会「保険制度ワーキング・グループ」の第2回会合を開き、生命保険会社が破綻した際に生命保険契約者保護機構へ国が補助できる規定について、2027年3月末の期限が来た後は「恒久化も視野に入れて」政府内で調整を進める案を示した。業界が負担する資金の枠を引き上げることなどを前提とする。会合では、企業が自社グループのリスクだけを引き受ける再保険会社「再保険キャプティブ」を国内で設立できるようにする制度の骨子案も示され、保険業法の改正で対応する方針が明記された。

破綻時に契約者を守る仕組み

金融庁の資料によると、保険業法は、生命保険会社が破綻した場合に契約者を保護するため、生命保険契約者保護機構が契約の移転などに必要な資金援助を行う仕組みを設けている。機構は、破綻した会社の契約を引き継ぐ救済保険会社に対し、破綻時点の責任準備金(将来の保険金支払いに備えて積み立てる資金)の原則90%を補償するのに必要な資金を援助する。高い予定利率の契約は補償率が90%より引き下げられ、再保険契約や運用実績連動型の一部の契約は補償の対象外となっている。

援助の財源は3段構えだ。まず業界の負担枠として、各社の事前積立(限度額4000億円)と、政府保証付きの借り入れ(限度額4600億円)がある。資金援助の規模がこれを超える場合、一定の要件の下で政府が補助できる。事前積立は2022年3月末に積み上げを終えた。政府補助はこれまで発動された実績がない。

政府補助の規定は2000年に設けられた。当時は東邦生命(1999年6月)、第百生命(2000年6月)、大正生命(同8月)と破綻が相次ぎ、資料は、2004年の審議会報告を引いて、逆ざや(契約で約束した利回りを運用利回りが下回る状態)による経営不安や、機構の財源が枯渇する状況があったと説明している。規定はその後、3年や5年ずつ6回延長され、現在は2027年3月末までの時限措置となっている。

事務局案「短期的な必要性は高くない」

事務局が示した「ご議論いただきたい事項」は、まず生命保険の特性として、国民生活の基礎となっている、再加入が難しい、長期の契約で契約者に将来の変化を見通した選択を期待しにくい、の3点を挙げ、破綻時の契約者保護の必要性は今後も変わらないとした。費用は引き続き各社が負担することを原則とすべきだとしている。

そのうえで政府補助については、全体として安定している現在の生命保険会社の財務状況からみて「短期的な必要性は必ずしも高くない」と指摘した。一方で、戦争やパンデミックを含めて社会経済情勢の不確実性が格段に高まっており、まれにしか起きない大きな損失(テールリスク)が現実になった場合にも契約者保護に万全を期せるよう備えることには「一定の妥当性」があるとした。こうした備えは一定の期間で必要性が失われるものではないとして、恒久化を視野に入れる理由に挙げている。

恒久化の前提として示したのは三つの対応だ。①統計的な手法で直近の財務データなどから資金援助の見込み額を算出し、業界の負担能力も考慮しながら、相当程度の経済環境の変化に対応できる水準まで業界負担枠を引き上げる②政府補助の発動を極力抑えるため、事前積立金の運用益を制度の財源に繰り入れることを制度上明確にする③費用負担の在り方を定期的に検証し、結果に基づいて見直す――の3点で、監督当局による実効性のあるモニタリングの継続も条件に挙げた。運用益は現在も実務上は財源に繰り入れられている。

政府は7月21日に閣議決定した「日本成長戦略」で、機構に対する政府補助の在り方を検討するとしていた。同日に内閣官房がまとめた金融戦略は、「次期通常国会への法案提出に向けて」検討すると明記している。

過去の破綻、業界負担で7811億円

会合には生命保険協会も資料を出し、政府補助を「恒久的な制度とすることを検討いただきたい」と求めた。協会は、生命保険会社の事業領域が広がるなかで、将来規模の大きな会社が破綻した場合にはシステミック・リスク(金融システム全体に混乱が広がる危険)につながる可能性もあると主張している。

協会の資料によると、これまでの生命保険会社の破綻はすべて業界負担の資金援助で対応し、累計は約7811億円にのぼる。このうち保護機構の設立(1998年12月)後に破綻した7社のうち、資金援助を受けたのは4社で、金融庁の資料が挙げる援助額は東邦生命が約3813億円と最も大きい。千代田生命、協栄生命、東京生命は資金援助を受けていない。

保護機構の資金援助額(破綻した生命保険会社)(億円)

東邦生命3,813第百生命1,450大和生命281大正生命267
出典: 金融庁「事務局説明資料①」(2026年10月30日)
数値で見る(単位: 億円)
項目億円
東邦生命3,813
第百生命1,450
大和生命281
大正生命267

各社の健全性を示す指標として、協会は経済価値ベースのソルベンシー比率(ESR)を挙げた。2025年3月末の全生保平均は215%で、基準となる100%を上回る。ESRの100%は、200年に1回の確率で起きる損失が発生しても直ちに破綻しない水準を意味し、これを下回ると改善計画の提出などの早期是正措置の対象になりうる。この規制は2026年3月期から適用が始まった。

「再保険キャプティブ」国内で設立可能に

会合ではもう一つ、再保険キャプティブ制度の創設に向けた基本事項の案が示された。再保険キャプティブは企業グループに属する子会社で、グループ会社が保険会社と結んだ保険契約について、その保険会社からリスクを引き受ける再保険だけを行う。企業がグループのリスクの一部を自ら持つ手段となる。資料によると、日本企業が海外に設立した再保険キャプティブへ、日本の保険会社が再保険を出す取引はこれまでも行われている。

案は、海外の制度を参考に、企業のリスク管理の高度化と投資余力の確保に役立つよう規制を整え、再保険キャプティブを損害保険会社の一類型と位置づけて保険業法の改正で対応するとした。対象は親会社とその子会社・関連会社のリスクで、保険の種目は企業向けの損害保険を基本とし、必要に応じて調整できる枠組みにする。

規制は通常の損害保険会社より大幅に簡素にする。主な違いは次の通り。

項目 通常の損害保険会社 再保険キャプティブ(案)
最低資本金 10億円 1000万円程度
免許の審査 5事業年度内の黒字化の収支見込みを審査 収支見込みは求めない
取締役等の兼職 原則禁止 原則可能(承認制)
事業年度 4月〜翌年3月 任意の1年間
業務報告書 年2回提出 年1回提出
ディスクロージャー誌の公衆縦覧 必要 適用除外
再保険キャプティブ制度の骨子案の主な項目

出典: 金融庁「事務局説明資料②」(2026年10月30日)

グループ会社との取引条件を制限するアームズ・レングス・ルールや、裁判外紛争解決機関との契約義務も適用しない。健全性の基準は、事業規模に応じた支払い余力の確保を求める簡素なものとし、親会社の出資や保証を支払い余力として勘案することを検討する。準備金の積み立ては損害保険会社と同様とし、税制上の扱いは税制改正の手続きで決める必要があるとした。再保険だけを行う保険会社と同じく、保険契約者保護機構の会員にはならない。

法案の時期と今後の論点

生命保険のセーフティネットは、2027年3月末に政府補助の期限を迎えるため、法改正をしなければ、それ以降に破綻した会社については政府補助の規定が使えなくなる。事務局案は業界負担枠を「引き上げる」としたものの、具体的な金額は示していない。統計的な手法でどの程度の経済環境の変化を想定し、各社にどれだけの負担を求めるかが、今後の審議の中心になる。

恒久化した場合の定期的な検証を、どの頻度で誰が行うかも決まっていない。これまでは期限ごとに国会で延長の是非が問われてきたが、恒久化すればその機会がなくなる。8月31日の金融審議会総会では、委員から、大手生保の資産規模が大きくなるなかで現在の業界負担枠で十分かを問う意見や、恒久化するとモラルハザード(補助を当てにした経営や監督の緩み)が深刻になるとの懸念、一度廃止すると将来の再構築が難しいとの指摘が出ていた。

事務局案は、こうしたモラルハザードへの懸念に対し、モニタリングの継続と定期検証で応える形をとっている。

再保険キャプティブについても、対象とする保険の種目やグループの範囲、健全性基準の具体的な水準、税制上の扱いが今後の検討課題として残る。ワーキング・グループは10月1日に初会合を開いており、今回が2回目となる。